【2026年版】脳卒中リハビリで歩行改善!眼球トレーニングの効果と実践アプローチ
眼球トレーニングは、歩行リハビリの武器になるか。
脳卒中後は最大70%の患者に眼球運動障害が生じるとされます。視覚と歩行をつなぐ神経機序から、現時点のエビデンス・採点基準・臨床導入のコツまでを整理しました。

要点5項目。
臨床現場でこう出会う。
68歳男性。右被殻出血、発症後8週(回復期病棟)。Brunnstrom Recovery Stage(BRS)下肢Ⅳ、FIM運動項目62/91点。主訴は「歩いていると人や物にぶつかる」「視線がどこを見ているか分からなくなる」。
初回評価では、追視運動が滑らかでなく断続的、サッケード潜時の延長を認めた。歩行中は視線を足元付近に固定する傾向が強く、Timed Up and Go(TUG)18.2秒。
新人セラピストがまず戸惑うのは、「視覚」と「歩行」を結びつける発想がカルテに出てこないことです。麻痺側下肢の筋力やバランス能力ばかりに目が向き、眼球運動という視点が抜け落ちやすいのです。
しかし歩行は、足の運動だけで成立しているわけではありません。視覚情報をどう処理し、次の一歩をどう予測するかという「視覚-運動統合」のプロセスが、安定した歩行の土台になっています。この章以降で、その仕組みとエビデンスを順に整理していきます。
眼球運動と歩行をつなぐ、視覚-運動統合とは。
視覚-運動統合(visuo-motor integration)とは、視覚野が処理した周囲の空間情報を、運動野を介して筋骨格系の動きへと変換する一連のプロセスを指します。歩行中は常に「次にどこへ視線を向け、どこに足を置くか」が予測的に処理されています。
この章では、新人セラピストがつまずきやすい3つの専門用語を整理します。追視(Smooth Pursuit)とは動いている対象に視線を合わせ続ける機能、サッケード(Saccade)とは視線を素早く別の対象へ移動させる機能、前庭動眼反射(VOR:Vestibulo-Ocular Reflex)とは頭部が動いても視線を対象に固定し続けるための反射です。

脳卒中後の歩行・バランス障害には、大脳皮質・小脳・脳幹など多様な脳領域が関与します。正常な歩行を成立させるには、①筋骨格系の補助作用、②機能的な眼球運動の調整、③感覚機能(視覚・前庭覚・体性感覚)の統合という3要因がリズミカルに連動する必要があります[専門家合意:Kang & Yu, J Phys Ther Sci, 2016]。
視覚依存が高まる3つの段階
麻痺側下肢の支持性低下により、身体は視覚情報に頼ったバランス戦略へとシフトしやすくなります。
追視・サッケードが断続的になると、障害物や床面変化への気づきが遅れ、視覚依存はさらに強まる悪循環に陥ります。
視覚・前庭覚・体性感覚の重み付けが崩れると、視覚への依存度がさらに高まり転倒リスクが増加します。
— ご本人・ご家族の状況を丁寧にお伺いします
STROKE LABでは脳科学的視点に基づくオーダーメイドのリハビリプランをご用意しています。視覚-運動統合の評価から、無料相談で丁寧にご説明します。
前頭眼野・上丘・小脳は、歩行のどこを制御しているのか。
前頭眼野(FEF:Frontal Eye Field)は、周囲の環境に注意(アテンション)を向け、次にどこへ視線を移動すべきかを判断する司令塔です。一方上丘は、視覚情報を脊髄へ伝達し、姿勢制御に関わる反射的な動きを促進します。
前庭動眼反射(VOR)とバランス制御
眼球運動トレーニングの神経学的基盤の一つがVORです。VORは前庭系によって誘発される反射で、頭部が動いても視線を一点に固定し続けることで、空間内の体位と平衡感覚を支えます。VORを起点とした眼球運動トレーニングは、転倒予防プログラムの一部として高齢者の敏捷性と動的バランス制御を改善したとする報告があります[専門家合意:Kang & Yu, J Phys Ther Sci, 2016 背景部より]。
視覚・前庭系・体性感覚系がリアルタイムで統合的に処理されることで、初めて安定した歩行が成立します。3系統のどれか一つが破綻すると、残る系統への依存度が代償的に高まります。

医学書院 脳卒中の動作分析-臨床推論から治療アプローチまで 金子唯史 著より引用
急性期多施設前向き研究[観察研究]:Rowe FJ ら(PLOS ONE, 2019, n=1,033)は、脳卒中急性期(発症後中央値4日)に視覚評価を実施し、73%に何らかの視覚問題、うち40%に眼球運動異常を認めたと報告しています。眼球運動の評価は、急性期から優先順位の高い項目の一つといえます。
視覚依存的歩行不安定と、間違えやすい病態。
「視線が定まらない」「ふらつく」という主訴だけで眼球運動障害と決めつけるのは早計です。同じような歩行不安定さを呈する病態は複数あり、評価の入口で鑑別する習慣が必要です。
| 鑑別疾患 | 共通点 | 鑑別ポイント | 参考検査 |
|---|---|---|---|
| 末梢性前庭機能障害 | 視覚依存・ふらつき | 回転性めまいの既往、頭位変換で誘発される眼振の有無 | Dix-Hallpike法、頭部インパルス検査 |
| 半側空間無視(USN) | 障害物にぶつかる | 非麻痺側への注意バイアス、左右非対称な見落とし | BIT行動性無視検査、線分二等分試験 |
| 小脳性運動失調 | 歩行の不安定さ | 企図振戦、測定障害、開眼閉眼で症状の差が乏しい | 指鼻試験、踵膝試験 |
| 同名半盲などの視野障害 | 片側への衝突 | 視野の欠損範囲が一定で、頭部代償で改善しうる | 対座法、ゴールドマン視野計 |
| パーキンソン病のすくみ足 | 視覚的手がかりへの依存 | 突進現象、姿勢反射障害、視覚キューで歩行が改善しやすい | UPDRS、Freezing of Gait Questionnaire |
眼球運動と歩行を、どう測るか。
眼球運動の評価尺度は確立された標準化尺度が乏しいのが現状です。そのため、眼球運動の観察評価と、歩行・バランスの標準化尺度を組み合わせて全体像を捉えます。
| 項目 | 採点基準 | カットオフ値 | 解釈 |
|---|---|---|---|
| TUG | 椅子から立ち上がり3m歩行・方向転換・着座までの時間を計測 | 13.5秒以上 | 転倒リスク増加の目安[Shumway-Cook A, et al. Phys Ther. 2000] |
| 10MWT(快適歩行速度) | 中間部5mの所要時間から歩行速度(m/秒)を算出 | 0.8m/秒未満 | 屋外・地域社会での歩行が制限される目安[Perry J, et al. Stroke. 1995] |
| Berg Balance Scale | 14項目を0〜4点で採点、満点56点 | 45点以下 | 転倒リスク高[Berg K, et al. Can J Public Health. 1992] |
Berg Balance Scale[複数RCT/観察研究の蓄積]:検者間信頼性は高く(ICC 0.95以上の報告多数)、臨床的最小変化量(MCID)は約4点とされています[Liston RA & Brouwer BJ, Arch Phys Med Rehabil, 1996]。
TUG[観察研究]:地域在住高齢者における転倒予測妥当性が報告されていますが、脳卒中患者特有のMCIDは未確立であり、経時的な変化量を慎重に解釈する必要があります。
眼球トレーニングは、歩行に何をもたらすか。
眼球トレーニングは大きく4種類に分類できます。いずれもパラメータ(時間・回数・頻度)を明確にしたうえで、段階的に難易度を上げることが重要です。
50〜100cm先の指標を左右・上下にゆっくり動かし、視線で追従させます。速度と範囲を段階的に上げます。
左右20〜30cm離れた2点間を素早く視線移動させます。上下方向も併用し、回数を漸増させます。
正面に視線を固定したまま、左右の動きに気づけるかを確認します。距離・速度を変化させて難易度を調整します。
視線の移動に合わせて頭頸部・体幹・下肢を一致させて動かし、歩行への汎化を狙います。
Kang KY & Yu KH[単独RCT]:J Phys Ther Sci. 2016;28(6):1816-8. 脳卒中患者14名を実験群・対照群にランダム割付。実験群は1回20分・週5回・6週間の眼球運動トレーニング(視覚探索課題、追視課題、頭部運動下の文字読解課題、視覚誘導課題)を実施。歩行速度・ケイデンス・歩幅が有意に改善した一方、対照群(同期間の歩行訓練)では有意な変化を認めませんでした。
Correia A, et al.[単独RCT]:Clin Rehabil. 2021;35(2):213-21.「Better Balance」試験。脳卒中後の患者に対し、眼球運動・注視安定化エクササイズを行い、転倒リスクの低減を検証。Kang & Yuの研究よりも対象規模・評価項目の面で補強的な位置づけとなる報告です。
Kunoh M, et al.[症例報告/専門家合意]:Cureus. 2025;17(1):e77576. 脳幹出血後の眼球運動障害例で、10週間の眼球運動トレーニングにより追視の可動域が拡大し、両眼の協調運動が改善、歩行能力の向上を認めたとする単一症例報告です。機序の理解には有用ですが、一般化には注意が必要です。

STROKE LABでは、脳科学的な評価に基づいたオーダーメイドのリハビリプランをご提案しています。眼球運動を含む包括的な評価から、無料相談で丁寧にご案内します。
視覚-運動統合リハは、誰と進めるのか。
単独で抱え込まない視点
眼球運動障害は視覚系・前庭系・認知機能と密接に絡み合うため、PTやOT単独での介入には限界があります。視能訓練士や眼科医、看護師との情報共有が、評価の精度と安全管理の両面で重要になります。
「眼球運動障害を見つけたら、まず複視や眼精疲労がないかを必ず本人に聞いてください。痛みを我慢して訓練を続けてしまう患者さんは少なくありません。」
「看護師さんは病棟での歩行の様子を一番よく見ています。日中のふらつきの変化は、必ずカンファレンスで共有しましょう。」
| 職種 | 評価項目 | 主な介入内容 | 連携ポイント |
|---|---|---|---|
| PT | TUG・10MWT・BBS | 歩行訓練と眼球トレーニングの統合 | 転倒リスクの病棟内共有 |
| OT | ADL場面での視覚使用状況 | 日常生活動作への汎化練習 | PTの歩行評価結果との照合 |
| ST | 高次脳機能・視空間認知 | 半側空間無視との鑑別協力 | 注意機能評価結果の共有 |
| 看護師 | 病棟内歩行時の転倒リスク | 見守り体制、環境調整の実施 | 日中の変化をカンファレンスで報告 |
| 医師 | 複視・眼振などの神経眼科学的所見 | 眼科紹介の要否判断 | 禁忌・安静度の確認 |
| MSW | 退院後の生活環境・移動手段 | 自宅環境調整の提案 | 転倒リスク情報の退院前共有 |
つまずきポイントと臨床判断のコツ。
眼球トレーニングは一見シンプルですが、新人セラピストが陥りやすい落とし穴があります。実施前に必ず確認しておきましょう。
セーフティネットとしての段階づけ
「最初は必ず座位で。立位や歩行中に新しい眼球運動課題を入れるのは、転倒リスクを冒すだけです。」
「5〜10分を目安に、疲労のサインが出たら止める。眼球運動は思った以上に疲れる訓練です。」
いつまでに、何を目標にするか。
現時点のエビデンスでは、最低6週間は同一プロトコルを継続したうえで効果判定を行うのが現実的です。2週間ごとにTUG・10MWT・BBSを再評価し、変化量がMCIDに達しているかを確認しましょう。
①歩行速度・ケイデンス・歩幅の改善、②TUGの短縮、③本人が自覚する「ぶつかりにくさ」の変化。客観指標と主観的訴えの両方を確認し、効果が乏しければ漫然と継続せず、第4章の鑑別を再検討してください。
よくある質問。
理学療法・作業療法の一環として実施することは可能ですが、独立した手技として算定されるものではなく、運動療法などの枠組みの中で組み込む形になります。施設の算定ルールを確認してください。
急性期は全身状態の安定を優先し、端座位が安定した段階から短時間で導入します。回復期は週5回・1回20分が主要なエビデンスです。生活期でも自主トレーニングとして継続できます。
視野障害自体は眼球運動トレーニングで改善しないため、まず視野評価を行い、視野障害と眼球運動障害を区別します。視野障害がある場合は代償戦略との組み合わせが前提になります。
主要なRCTでは6週間・週5回・1回20分の介入で歩行速度・ケイデンス・歩幅の有意な改善が報告されています。最低6週間継続したうえで再評価することを推奨します。
ペンや指を使い特別な機器なしで実施可能です。ただし自己流の負荷設定は転倒リスクを伴うため、初期は座位で行い、セラピストが定期的に進行度を確認することが望ましいです。
現状は単独RCT(n=14)が中心で高いエビデンスレベルではありません。ただし機序の妥当性と低リスク・低コストな点を踏まえ、補助的手段として効果を個別測定しながら適応を判断するのが現実的です。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは、脳卒中・パーキンソン病・脊髄損傷など神経疾患に特化した自費リハビリ施設です。保険の枠にとらわれず、視覚-運動統合のような専門性の高いアプローチも含めたオーダーメイドのプランをご提案しています。御茶ノ水(東京)・梅田(大阪)の2拠点に加え、オンライン・訪問リハビリも展開しています。

— 実際の利用者様の変化を撮影した動画
「発症1年が経過し、もう改善は頭打ちと言われていた利用者様がいました。歩行中に視線が足元から動かないことに気づき、追視・サッケードトレーニングを週2回、3ヶ月続けたところ、10m歩行速度が0.6m/秒から0.85m/秒まで改善。『人とすれ違っても怖くなくなった』との声をいただき、評価の引き出しを増やすことの大切さを実感しました。」— 理学療法士・臨床歴8年・脳卒中リハビリ専門
「在宅復帰直後の利用者様が、自宅の廊下で物にぶつかると相談を受けました。視野検査は正常でしたが、サッケードの潜時が明らかに延長していたため、自主トレ用に追視カードを作成し家族にも指導。1ヶ月後には自己申告での『ヒヤリ・ハット』回数が週5回から週1回に減少しました。評価なしに環境調整だけで終わらせなくて良かったと感じた症例です。」— 作業療法士・臨床歴6年・在宅リハビリ専門
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諦めないでください。

脳卒中後の歩行に関する悩みは、麻痺や筋力だけが原因とは限りません。視覚という、見過ごされがちな入口から改善の糸口が見つかることもあります。
公的保険のリハビリには日数・時間の上限があり、「もっと良くしたい」という気持ちにブレーキがかかるのが現実です。STROKE LABは、保険の枠にとらわれないオーダーメイドのリハビリで、その気持ちに応えます。
発症から時間が経っていても、変化が期待できる症例があることは、研究でも裏付けられています。最新の医学エビデンスに基づきながら、あなたの今の状態に合わせたプログラムを一緒に考えさせてください。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)