感覚統合とは何か|「不器用・落ち着きのなさ」と感覚の関係を専門家が解説
感覚統合とは何か|「不器用・落ち着きのなさ」と感覚の関係を専門家が解説
「じっと座っていられない」「すぐ転ぶ」「鉛筆やはさみが苦手」「服のタグを嫌がる」——その背景には、性格やしつけではなく、脳が感覚情報を整理し、体の動きや注意に変えるしくみが関係していることがあります。感覚統合を、保護者の方にも分かりやすく整理します。

感覚統合とは何か。
椅子に座っていても、すぐに立ち上がる。友達にぶつかりやすい。服のタグを嫌がる。鉛筆の筆圧が強すぎたり、逆に弱すぎたりする。はさみやボタン、縄跳びが苦手。
こうした様子は「落ち着きがない」「不器用」「わがまま」と見られがちですが、背景には感覚を受け取り、整理し、体の動きに変えるしくみのつまずきがあることがあります。
感覚統合とは、視覚・聴覚・触覚だけでなく、体の傾きや揺れを感じる前庭感覚、筋肉や関節の動き・力加減を感じる固有感覚など、さまざまな感覚情報を脳が整理し、適切な行動につなげる働きです。
たとえば、椅子に座るという一見シンプルな動作にも、足が床についている感覚、背中の姿勢、机との距離、周囲の音、先生の声、手元の鉛筆の感触など、多くの情報が関わっています。脳がそれらを整理できるからこそ、私たちは姿勢を保ち、必要なものに注意を向け、手を動かすことができます。
「感覚統合が悪い」と一言で決めつけるのではなく、どの感覚が入りすぎているのか、足りていないのか、区別しにくいのかを見ていくことが大切です。感覚の特徴は、子どもの行動を責めるためではなく、支援の手がかりとして使います。
7つの感覚を整理する。
感覚というと、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五感を思い浮かべる方が多いと思います。感覚統合では、そこに前庭感覚と固有感覚を加えて考えます。特に、不器用さや落ち着きのなさを見るときには、触覚・前庭感覚・固有感覚が重要になります。

| 感覚 | 何を感じるか | 生活での関係 |
|---|---|---|
| 視覚 | 形・色・距離・動き | 板書、階段、ボール遊び、はさみ、書字 |
| 聴覚 | 音の大きさ・方向・意味 | 先生の指示、騒がしい場所、突然の音への反応 |
| 触覚 | 触れた感触・痛み・温度・圧 | 服のタグ、砂・のり・粘土、鉛筆や箸の持ち方 |
| 前庭感覚 | 揺れ・回転・傾き・スピード | 姿勢、バランス、ブランコ、座っている力、目の安定 |
| 固有感覚 | 筋肉・関節の動き、力加減、体の位置 | 筆圧、ジャンプ、押す・引く、姿勢保持、手先の力加減 |
体の傾きが分かりにくい、力加減が分かりにくい、触った感覚を区別しにくい。このような感覚の使いにくさがあると、姿勢が崩れやすい、動きがぎこちない、手先の操作が苦手といった形で見えることがあります。
不器用さと感覚の関係。
子どもの不器用さは、単に筋力が弱い、練習が足りない、手先が未熟というだけでは説明できないことがあります。体を動かすには、自分の体がどこにあるのか、どのくらい力を入れているのか、今どちらに傾いているのかを、脳が常に感じ取る必要があります。
この感覚がうまく使いにくいと、本人は一生懸命やっているのに、力が入りすぎる、動きが大きすぎる、姿勢が崩れる、手元を見続けないと操作できない、といったことが起こります。結果として、大人からは「雑」「乱暴」「不器用」に見えてしまうのです。

| 困りごと | 関係しやすい感覚 | 見え方 |
|---|---|---|
| 筆圧が強すぎる・弱すぎる | 固有感覚・触覚 | 鉛筆を折る、紙が破れる、字が薄い |
| はさみや箸が苦手 | 触覚・固有感覚・視覚 | 指の位置がずれる、力加減が難しい |
| よく転ぶ・ぶつかる | 前庭感覚・固有感覚・視覚 | 距離感がつかみにくい、姿勢を立て直しにくい |
| 縄跳び・ボール遊びが苦手 | 前庭感覚・固有感覚・視覚運動 | タイミングが合わない、動きがぎこちない |

— 行動だけでなく、感覚と運動の背景を丁寧に見ます
STROKE LABでは、姿勢・バランス・手先の操作・感覚の受け取り方を合わせて評価します。お子さんに必要な支援を、生活場面に合わせて一緒に整理します。
落ち着きのなさと感覚の関係。
落ち着きがない子を見ると、大人は「集中していない」「我慢が足りない」と考えがちです。しかし、子どもの中では、じっとしていると体の位置が分かりにくい、動くことでようやく自分の体を感じられる、音や光が多すぎて落ち着けない、ということが起こっている場合があります。
つまり、動き回ること自体が問題なのではなく、なぜ動きたくなるのか、どんな感覚を求めているのか、どんな刺激で不安定になるのかを見ることが重要です。感覚統合の視点では、行動を「困った行動」として見る前に、体と脳が何を求めているのかを考えます。

過敏・鈍麻・感覚探求。
感覚の反応は、大きく分けると「過敏」「鈍麻」「感覚探求」の3つで考えると理解しやすくなります。ただし、子どもは一つのタイプに固定されるわけではありません。音には過敏だけれど、動きは強く求める、触られるのは嫌だけれど、強く押されるのは落ち着く、というように混ざっていることもあります。

| 反応タイプ | 見られやすい様子 | 支援の方向性 |
|---|---|---|
| 過敏 | 音を怖がる、服のタグを嫌がる、手が汚れる遊びを避ける | 刺激を減らす、予告する、安心できる選択肢を作る |
| 鈍麻 | 呼びかけに気づきにくい、痛みに気づきにくい、姿勢が崩れても気づきにくい | 分かりやすい刺激、姿勢の手がかり、視覚的な合図を使う |
| 感覚探求 | 動き回る、強く押す、ジャンプする、回転を好む、口に入れる | 安全に感覚を満たす活動を用意し、活動後に落ち着く流れを作る |
触覚や音に過敏な子に対して、「慣れれば大丈夫」と急に強い刺激を与えると、不安や拒否が強まることがあります。大切なのは、安心できる環境を整えたうえで、子どもが自分で選べる範囲から少しずつ経験を広げることです。
観察のポイント。
感覚統合の視点で子どもを見るとき、最も大切なのは「行動の前後」を見ることです。子どもが動き回った、泣いた、怒った、固まったという結果だけを見るのではなく、その前にどんな刺激があり、どんな環境で、どんな体の状態だったのかを見ます。
朝の支度、給食、帰宅後、寝る前など、困りごとが起こりやすい時間帯を見ます。疲れや空腹で感覚反応が強くなることもあります。
教室、体育館、スーパー、電車、食卓、お風呂など、音・光・人の多さ・におい・触覚刺激の違いを見ます。
突然の音、友達との接触、服の着替え、苦手な課題、待ち時間など、反応の前にある刺激を探します。
静かな場所、深い圧、体を動かす、見通しを持つ、好きな道具を使うなど、落ち着きやすい条件を見つけます。
運動計画と姿勢制御。
感覚統合の中で、特に不器用さと関係が深いのが「運動計画」です。運動計画とは、初めての動きや複雑な動きを行うときに、体をどの順番で、どの方向に、どのくらいの力で動かすかを組み立てる力です。
たとえば、ボタンを留める、縄跳びを跳ぶ、平均台を渡る、はさみで線を切る、体操の動きをまねるといった課題では、感覚情報をもとに体の動きを組み立てる必要があります。ここが難しいと、何度見ても同じようにできない、手順を忘れる、動きがぎこちない、毎回やり方が変わるといった様子が見られます。

家庭でできる支援。
家庭での支援は、特別な道具をそろえることよりも、生活の中で「感覚が整いやすい条件」を見つけることが大切です。子どもによって必要な感覚は違うため、まずは反応を観察し、無理のない範囲で試していきます。

動きを求める子には、いきなり「座って」と言う前に、短時間の体を使う活動を入れると落ち着きやすいことがあります。クッションを押す、雑巾がけ、動物歩き、重すぎない荷物運びなど、筋肉や関節にしっかり感覚が入る活動が手がかりになります。
過敏な子には、苦手な刺激を減らす工夫が大切です。服の素材やタグ、音の大きさ、照明、人の多さなどを調整し、「逃げられる場所」「休める時間」を作ります。
姿勢が崩れやすい子には、足台を使う、机と椅子の高さを合わせる、短時間で区切るなど、環境調整から始めます。姿勢が安定すると、手先や注意が整いやすくなります。
ジャンプ、押す・引く、よじ登る、動物歩きなどを安全に行います。活動後に座る課題へ移るなど、流れを作ると効果を見やすくなります。
音・光・人の多さで疲れやすい子には、静かな場所や落ち着けるコーナーを用意します。休むことは逃げではなく、調整の練習です。
急な切り替えが苦手な子には、「あと3回で終わり」「次は着替え」など、予定を視覚的に示します。予測できることで感覚的な不安が下がることがあります。
「運動後は座れた」「静かな場所なら宿題ができた」など、うまくいった条件をメモします。支援は、困った場面よりも成功した場面から見つかります。
園・学校での支援。
園や学校では、家庭よりも刺激が多く、集団のルールや時間の制約もあります。そのため、感覚の調整が苦手な子は、家庭では落ち着いているのに、園や学校で困りごとが目立つことがあります。
支援の目的は、子どもを特別扱いすることではなく、安心して活動に参加できる条件を作ることです。席の位置、音の環境、活動前後の運動、道具の調整など、小さな工夫で参加しやすさが変わることがあります。
| 場面 | 困りごと | 支援例 |
|---|---|---|
| 朝の会・授業 | 座っているのが難しい、姿勢が崩れる | 足台、席の位置、短い運動休憩、視覚的な予定表 |
| 制作・書字 | はさみ、のり、鉛筆が苦手 | 太めの鉛筆、滑り止め、工程を分ける、見本を近くに置く |
| 給食・着替え | におい、食感、服の感触が苦手 | 無理に慣らさない、選択肢を作る、事前に見通しを伝える |
相談の目安。
感覚の特徴は誰にでもあります。大きな音が苦手、特定の服が嫌、体を動かすと落ち着く、といったこと自体は珍しくありません。相談を考えたいのは、その特徴によって生活や学習、友達関係、親子関係に困りごとが出ている場合です。
相談先としては、自治体の発達相談、かかりつけの小児科、園や学校の先生、作業療法士・理学療法士などが挙げられます。感覚の問題だけでなく、発達性協調運動症、ADHD、自閉スペクトラム症、不安、睡眠、視力や聴力など、ほかの要因が関係していることもあるため、幅広く評価することが大切です。
よくある質問と、STROKE LABの支援。
感覚統合とは、体や環境から入ってくる感覚情報を脳が整理し、姿勢・運動・注意・情緒・行動につなげる働きです。五感だけでなく、前庭感覚や固有感覚も含めて考えます。
感覚統合は診断名というより、子どもの行動や運動を理解するための視点です。感覚の特徴が強い場合でも、DCD、ADHD、ASD、不安、睡眠、環境要因などを含めて総合的に見る必要があります。
体を動かすことで整いやすい子もいますが、全員に同じ方法が合うわけではありません。動きが必要な子、刺激を減らした方がよい子、見通しが必要な子など、それぞれ違います。活動後にどう変わるかを観察することが大切です。
姿勢、バランス、手先の操作、歩行・運動、感覚の受け取り方、課題への向かい方などを確認します。お子さんが生活の中で困っている場面に合わせて、家庭でできる関わり方も一緒に整理します。
STROKE LABは、脳卒中をはじめとする神経リハビリで培った運動分析の視点をもとに、小児の姿勢・運動・生活動作の支援も行っています。感覚統合の視点だけに偏らず、体の土台、運動計画、日常生活の困りごとを合わせて評価します。

体と脳の理由を見つけます。

お子さんの不器用さや落ち着きのなさは、本人の努力不足や保護者の関わり方だけで説明できるものではありません。
私たちは、行動を表面だけで見るのではなく、姿勢・感覚・運動計画・環境を丁寧に分解し、その子に合った支援を考えることを大切にしています。
「このままで大丈夫かな」と感じたときは、ひとりで抱え込まず、どうぞお気軽にご相談ください。
代表取締役 金子 唯史
参考と注意書き。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療に代わるものではありません。お子さんの状態についての判断は、小児科医、発達相談、作業療法士・理学療法士などの専門職にご相談ください。感覚統合療法や感覚を用いた支援は、個別の目標を設定し、生活上の変化を確認しながら進めることが大切です。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)