階段の上り下りが怖い・遅い子|下肢コントロールと姿勢の土台
階段の上り下りが怖い・遅い子|下肢コントロールと姿勢の土台
「階段になると急に止まる」「手すりを強く握る」「下りだけ怖がる」「一段ずつしか進めない」。階段の苦手さは、脚力だけではなく、姿勢・バランス・足の置き方・視覚・恐怖心が重なって起こることがあります。

こんな場面で、心配になります。
公園では走れる。室内でもジャンプできる。でも階段になると、手すりを強く握り、一段ずつゆっくりしか進めない。下りでは足がすくみ、抱っこを求める。周りの子はすいすい上り下りしているのに、なぜうちの子だけ怖がるのかと不安になる。
このような相談は少なくありません。階段の苦手さは「怖がり」「慎重な性格」「練習不足」と見られやすいですが、実際には足・膝・股関節・骨盤・体幹・視覚・バランスが複雑に関わる運動課題です。
階段では、片脚で体を支えながら、もう片方の足を次の段に正確に置く必要があります。さらに、上りでは体を持ち上げる力、下りでは体をゆっくり下げるブレーキの力が必要です。平地歩行よりも重心の上下動が大きく、足元を見る、手すりを使う、怖さを調整するなど、複数の能力が同時に求められます。
この記事では、階段が苦手な子どもを「できない子」として見るのではなく、どの段階でつまずいているのかを運動のしくみから整理します。そのうえで、家庭や園・学校でできる関わり方、専門家へ相談した方がよいサイン、STROKE LABでの小児運動支援についてお伝えします。
階段は、脚だけの課題ではありません。
階段の上り下りを見ると、つい「脚の力が弱いのかな」と考えがちです。もちろん筋力も大切ですが、階段は単なる筋力課題ではありません。足をどこに置くか、体をどこまで前に運ぶか、片脚でどれだけ安定できるか、膝をどのタイミングで曲げるか、視線をどこに向けるか。これらが合わさって、はじめて安全な階段動作になります。
特に子どもは、体の大きさに対して階段の段差が高く感じられることがあります。大人にとっては普通の一段でも、子どもにとっては膝や股関節を大きく使わなければならない「高い段差」です。そこにバランスの不安や過去の転倒経験が重なると、階段そのものが怖い場所になってしまいます。

| 必要な要素 | 階段での役割 | 苦手なときの見え方 |
|---|---|---|
| 片脚支持 | 片方の足で体を支え、もう片方の足を次の段へ運ぶ | 手すりに強く頼る、体が横に倒れる |
| 下肢コントロール | 股関節・膝・足関節をタイミングよく使う | 膝が内側に入る、つま先だけで乗る、足音が大きい |
| 体幹・骨盤の安定 | 重心を前後左右に調整し、姿勢を保つ | 体が後ろに残る、上半身を大きく振る |
| 視覚・空間認知 | 段差の高さ・奥行き・足を置く位置を判断する | 足元を見すぎる、次の段に足を出せない |
階段が怖い子どもは、足を出す前の準備段階で不安定になっていることがあります。足を上げる力だけでなく、支える脚、骨盤、体幹、視線の使い方を見ていくことが重要です。
上りと下りでは、必要な力が違います。
階段の上りと下りは、同じように見えて、体の使い方が大きく異なります。上りでは、足を段に乗せて体を上へ持ち上げます。下りでは、体が落ちすぎないように、膝や股関節をゆっくり曲げながらブレーキをかけます。
そのため「上りはできるけれど下りが怖い」という子は珍しくありません。下りでは目の前に段差の高さが見え、重心も前下方へ移動します。体を支えながら下ろす感覚がまだ育っていないと、足がすくむように感じることがあります。

「怖い」には、理由があります。
階段を怖がる子どもに対して、「大丈夫だから早く下りて」と声をかけても、動けないことがあります。これは、本人がわざと止まっているのではなく、体の中で「落ちそう」「足が届かなそう」「どこに足を置けばよいか分からない」という不安が起きている可能性があります。
怖さは、運動の失敗経験からも生まれます。過去に階段で転んだ、足を踏み外した、周囲から急かされた、抱っこで運ばれることが多く自分で試す経験が少なかった。このような経験が重なると、階段に近づくだけで体が固まりやすくなります。
手すりを握る力が強くなる、肩が上がる、息を止める、膝が伸びたまま固まる、足を段の端に置けない。こうした反応は、怖さが運動に影響しているサインです。
下りでは段差の高さが目に入りやすく、足を出す前に怖さが強くなります。段差の境界が見えにくい環境ではさらに不安が増えます。
重心が下へ動く感覚をうまく処理できないと、体が落ちるように感じます。下りで足がすくむ背景になることがあります。
以前に転んだ、急かされた、強く叱られた経験があると、階段に対して防御的になりやすくなります。安心して成功できる環境が必要です。

— 怖さの背景を、運動と姿勢の両面から整理します
STROKE LABでは、階段の苦手さを、脚力・姿勢・感覚・視覚・恐怖心の視点から評価し、ご家庭でできる安全な練習方法まで一緒に考えます。
姿勢の土台と、下肢コントロール。
階段で脚をうまく使うためには、体幹と骨盤が安定している必要があります。体幹がぐらつくと、脚は本来の役割である「支える」「持ち上げる」「ゆっくり下ろす」に集中できません。結果として、手すりに強く頼る、上半身を大きく傾ける、膝を突っ張るといった代償が出やすくなります。
また、足部の使い方も重要です。つま先だけで段に乗る、かかとが浮きやすい、足が内側や外側に流れる場合、膝や股関節のコントロールも崩れやすくなります。階段の苦手さを見るときは、足・膝・股関節だけでなく、骨盤と体幹までつなげて観察します。

観察ポイントは、足元だけではありません。
階段動作を観察するときは、「何段上れたか」だけでなく、どのように上り下りしているかを見ます。一段ずつ進むのか、交互に足を出せるのか。いつも同じ足から始めるのか。下りで膝が固まるのか、足音が大きいのか。手すりへの依存が強いのか。こうした細かい様子に、その子のつまずきが表れます。
| 観察すること | 見えているサイン | 考えたい背景 |
|---|---|---|
| 足の出し方 | いつも同じ足から出す、一段ずつしか進めない | 左右差、片脚支持の不安定さ、経験不足 |
| 膝の動き | 膝が内側に入る、突っ張る、急にガクッと曲がる | 股関節・足部・体幹の連動不足 |
| 手すりの使い方 | 強く握る、体を引き上げる、離せない | 下肢支持の不安、怖さ、姿勢制御の未熟さ |
| 視線 | 足元を見続ける、次の段を見られない | 空間認知、視覚への依存、バランス不安 |
発達性協調運動症(DCD)との関係。
階段が苦手なことだけで、発達性協調運動症(DCD)と判断することはできません。一方で、DCDのある子どもでは、階段、ボール遊び、自転車、着替え、書字、はさみなど、複数の運動課題で協調の難しさが見られることがあります。
DCDでは、筋力がまったくないわけではないのに、体をどう使えばよいかがまとまりにくいことがあります。階段では、足を出す順番、重心移動、片脚支持、視線、手すりの使い方を同時に調整する必要があるため、苦手さが表れやすい活動の一つです。
階段だけが苦手なのか、ボール遊び・片脚立ち・ジャンプ・着替え・書字などにも困り感があるのか。複数の生活場面を整理することで、必要な支援が見えやすくなります。
| 気になる場面 | DCDの視点で見ること | 支援の方向性 |
|---|---|---|
| 階段で足がすくむ | 視覚・バランス・運動計画の同時処理 | 低い段差から、足の置き場所を明確にする |
| ボール・ジャンプも苦手 | 粗大運動全体の協調性 | 遊びの中でバランス・リズム・下肢支持を育てる |
| 失敗が続き、やりたがらない | 二次的な自信低下・回避 | 課題を小さくし、成功体験を積む |
家庭でできる、運動支援。
家庭での支援は、いきなり階段を何度も上り下りさせることではありません。まずは安全な環境で、段差に必要な要素を小さく分けて練習します。低い段差での上り下り、片脚で支える遊び、しゃがむ・立つ、足跡マークに足を置くなど、成功しやすい形から始めます。

最初は、実際の階段より低い段差を使います。片足を乗せる、戻す、両足で乗る、下りるという小さな動きから始めると、怖さが出にくくなります。
足を置く位置が分かりにくい子には、足跡マークや色テープを使います。視覚的な目印があると、足を出す前の迷いが減りやすくなります。
練習は短時間で終えます。「もう一回やりたい」と思える程度で終わることが、次の挑戦につながります。怖がっている状態で無理に続ける必要はありません。
高さ5〜10cm程度の安全な段差から始めます。片足を乗せて戻すだけでも、足を正確に置く練習になります。
片足で少し止まる、足で的を踏む、片足でシールを取るなど、遊びの中で支える力を育てます。
下りが苦手な子には、膝をゆっくり曲げる練習が役立ちます。椅子にゆっくり座る、低い位置の物を拾うなどでも練習できます。
手すりを使い、大人が近くで見守りながら、短い段数から始めます。急がせず、足を置けたこと、止まれたことを具体的に褒めます。
園・学校でできる、配慮。
階段が苦手な子にとって、園や学校の階段はプレッシャーになりやすい場所です。後ろから友達が来る、先生に急かされる、荷物を持っている、雨の日で滑りやすい。こうした環境要因が加わると、普段よりも怖さや不安定さが強く出ます。
支援の目的は、階段を避けることではありません。安全に参加できる条件を整え、本人が「できた」と感じられる経験を増やすことです。手すりを使う、前後の人との距離を空ける、荷物を軽くする、下りだけ大人が近くにつくなど、小さな調整で動きやすさが変わることがあります。
怖さが強い状態で無理に急がせると、体が固まり、かえって転倒リスクが高まります。安心して動ける条件を整えることで、動きの学習が進みやすくなります。
よくある質問。
必ずしもそうではありません。階段には、片脚支持、下肢コントロール、体幹の安定、視覚、バランス感覚、恐怖心の調整が必要です。運動不足や性格だけで説明せず、どこでつまずいているかを見ることが大切です。
下りでは、体をゆっくり下ろすブレーキの力が必要です。また、段差の高さが目に入りやすく、体が落ちる感覚も出やすいため、上りより怖さが強くなることがあります。下りだけ苦手な場合は、膝や股関節をゆっくり曲げる練習、低い段差からの練習が有効です。
年齢や経験によって、一段ずつの上り下りは自然な時期があります。気になるのは、年齢が上がっても強く怖がる、日常生活で困っている、いつも同じ足だけを使う、転びやすい、本人が階段を避けるようになっている場合です。
階段が苦手なことだけでDCDと判断することはできません。ただし、階段以外にも、ボール遊び、ジャンプ、自転車、着替え、書字など複数の活動で協調の難しさがある場合は、発達相談や小児科、理学療法士・作業療法士などに相談すると整理しやすくなります。
低い段差での上り下り、片脚で少し止まる遊び、足跡マークに足を置く、ゆっくりしゃがむ・立つ練習から始めるとよいです。安全を最優先にし、手すりや大人の見守りがある環境で、短時間・成功しやすい課題から進めてください。
STROKE LABの小児運動支援。
STROKE LABは、脳卒中をはじめとする神経のリハビリを専門としてきた自費リハビリ施設です。小児の階段や歩行、バランスの困りごとに対しても、単に「脚を鍛える」のではなく、姿勢、感覚、視覚、運動計画、恐怖心、環境を総合的に見ながら支援を組み立てます。

あわせて読みたい:小児(脳性麻痺児/発達障害など)のリハビリ — STROKE LAB
動ける条件を一緒に探します。

階段を怖がる子どもに対して、「大丈夫」「早く」と声をかけたくなることがあります。しかし、本人の体の中では、支える力、視覚、バランス、過去の失敗経験が重なり、足を出せない状態になっていることがあります。
私たちは、階段の苦手さを運動と脳のしくみから丁寧に紐解き、子どもが安全に挑戦できる条件を一緒に探します。
階段、歩行、バランス、運動発達のことで気になることがあれば、お気軽にご相談ください。
代表取締役 金子 唯史
参考と注意書き。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療に代わるものではありません。お子さんの状態についての判断は、必ずかかりつけの小児科医、発達相談、理学療法士、作業療法士などの専門職にご相談ください。発達の目安には個人差があります。
参考情報:CDC「Developmental Milestones」、CanChild「Developmental Coordination Disorder」、発達障害情報ポータル「発達性協調運動症」、Parr et al. 2020「DCD児の階段昇降における視覚運動制御」、Gao et al. 2025「DCD児への運動介入レビュー」など。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)