【2024年最新】歯と歩行能力の深い関係:義歯、咬合、咀嚼機能含むアプローチ方法まで解説
・歯が歩行に与える影響を理解する
・歯や咬合などに対するアプローチ方法を理解する
論文を読む前に:「歯と歩行能力の関係性」についての講義
講師: リハビリテーション医師 金子先生
受講者: 新人療法士 丸山さん
金子先生:
「今日は少しユニークなテーマとして、歯と歩行能力の関係性について話していきます。驚くかもしれませんが、口腔機能、特に歯の健康状態と歩行能力は密接に関係しています。このテーマについて、いくつかの研究を基にしながら、具体的にどうリハビリに活かせるかを考えていきましょう。」
1. 歯の健康状態と歩行能力の関係
金子先生:
「まず、歯と歩行能力の関係を説明します。いくつかの研究では、歯の喪失や咀嚼機能の低下が、高齢者の歩行速度やバランス能力に悪影響を及ぼすことが示されています。たとえば、ある研究では、歯の健康状態が悪い高齢者ほど、歩行速度が遅くなり、転倒リスクが高まることが明らかになっています。」
丸山さん:
「ええ、歩行能力と歯の健康がつながっているとは少し驚きです。なぜ歯の状態が歩行能力に影響を与えるのでしょうか?」
2. 咀嚼と中枢神経系の関連
金子先生:
「良い質問です。まず考えられるメカニズムの一つが、咀嚼活動が中枢神経系に影響を与えるという点です。咀嚼は単なる食べ物の処理だけでなく、脳に多くのフィードバックを送ります。この咀嚼活動が減少すると、脳への刺激が減少し、その結果、歩行やバランス機能を含む中枢神経系の他の機能が低下する可能性があると考えられています。」
丸山さん:
「なるほど、つまり咀嚼が脳に刺激を与えることで、歩行にも影響を与えるということですね。」
金子先生:
「その通りです。特に、咀嚼機能が低下すると、前頭葉や小脳の機能が低下しやすくなり、それが運動機能や姿勢制御に影響を与える可能性が示唆されています。」
3. 咬合機能と体幹筋活動
金子先生:
「もう一つ重要な点は、咬合(かみ合わせ)機能と体幹筋の活動の関係です。研究によると、かみ合わせが悪い場合や、咀嚼筋が適切に機能していない場合、体幹の安定性が低下し、歩行が不安定になることがあります。特に、脳卒中患者では、咬合機能が麻痺の影響を受けやすく、それが歩行能力に悪影響を及ぼす可能性があります。」
丸山さん:
「咬合と体幹筋が関連しているのは驚きです。歯科治療もリハビリに影響するかもしれませんね。」
金子先生:
「そうですね。咬合が体幹の安定に寄与するということは、歯の健康状態を改善することで、歩行能力も向上する可能性があるということです。これは、リハビリテーションの新たな視点として重要です。」
4. 脳卒中患者における口腔ケアの重要性
金子先生:
「脳卒中患者においては、特に口腔ケアが重要です。麻痺側の咀嚼機能が低下することで、食事の際のエネルギー消費が増え、全身の疲労感が強まります。また、口腔ケアが不十分だと、口腔内の炎症が進行し、それが全身状態の悪化やさらなる筋力低下につながります。これらは歩行にも影響を及ぼすため、日常的な口腔ケアの徹底が求められます。」
丸山さん:
「口腔ケアが全身の健康にもつながるということですね。具体的にどのようなアプローチをすればいいでしょうか?」
5. 具体的なリハビリのアプローチ
金子先生:
「具体的なリハビリアプローチとしては、以下のような点に注意してください。」
① 咀嚼機能の評価
- まず、患者の咀嚼機能を評価します。歯の状態、義歯の適合性、咀嚼筋の活動などを確認し、必要に応じて歯科医との連携を図ります。
② 咀嚼筋と体幹の連動性を考慮したトレーニング
- 咀嚼筋と体幹筋の連動性を考慮し、体幹筋トレーニングを併用します。例えば、椅子に座った状態で咀嚼を意識しながら、上半身の前後左右の揺れを制御するトレーニングを行います。
③ 全身運動と口腔運動の組み合わせ
- 歩行訓練と並行して、口腔機能改善のための運動を取り入れます。例えば、リズミカルな足踏み運動と同時にガムを噛む、口を動かすトレーニングを行うことで、全身の協調性を高めます。
④ 義歯やかみ合わせの調整
- 義歯の適合が悪い場合、歯科医と連携して調整を行います。適切なかみ合わせが得られることで、体幹の安定性が向上し、歩行がスムーズになります。
⑤ 患者教育
- 歯と歩行能力の関係を患者に説明し、口腔ケアの重要性を強調します。定期的な歯科チェックと口腔ケアの習慣化を促すこともリハビリの一環です。
金子先生:
「以上が、歯と歩行能力の関係性についての考え方と、具体的なリハビリのアプローチです。このように、口腔機能は歩行にも深く関わっているため、日常的な口腔ケアや歯科治療の重要性を意識し、患者に適切なアドバイスを行うことが重要です。」
丸山さん:
「口腔機能が歩行能力にこれほど影響を与えるとは思っていませんでした。今日の内容を踏まえて、歯科医との連携も視野に入れたリハビリ計画を考えていきます。」
金子先生:
「それが大切です。全体的な健康管理が、最終的な機能回復に大きく影響することを忘れないでください。」
論文内容
タイトル
●歯がなくなると歩行速度が低下する!?
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
●歯が歩行に関係するという話を聞いたことはあるが、十分学習できていなかった。高齢者では歯がない方も多く、その関係を今回まずは本論文学ぼうと思った。
内 容
背景
●歯の喪失は、慢性疾患や運動機能の低下などの健康状態の悪化に関連しています。しかし、歯の喪失と歩行速度の低下との関連についての前向きなエビデンスは欠けています。
●歯の喪失が歩行速度に与える影響を経時的に調べ、また炎症がこの関連を説明できるかどうかを調査します。
方法
●この研究には、ベースラインで重度の運動機能低下がなかった60歳以上の2695人が含まれていました。歯科の状態に関する情報は、ベースラインで看護師の面接中に自己申告を通じて評価されました。
●参加者が通常ペースで歩いたときに、歩行速度のベースラインと3年および6年のフォローアップを評価しました。
●共変量には、年齢、性別、教育、ライフスタイル関連の要因、および慢性疾患が含まれていました。血液サンプルを採取しCRPをテストしました。
結果
●2965人の参加者のうち、389人(13.1%)は部分的な歯の喪失があり、204人(6.9%)はベースライン検査で完全な歯の喪失がありました。
●歯の喪失がCRPとは無関係に時間の経過とともに歩行速度の大幅な低下と関連していることを示しました
●炎症は、歯の喪失と歩行速度の低下との関連に関与している可能性があります。
明日への臨床アイデア
歯や口の筋肉が身体の力に与える影響は、リハビリテーションにおいても重要な要素です。以下に、歯や口の力を意識したリハビリテーションの応用について、どのように臨床に取り入れるかを示します。
口と全身の筋力の関連性
口を閉じることで踏ん張りが利くという現象は、姿勢制御や全身の筋活動に対して口周囲の筋肉や顎の状態が影響を及ぼしている証拠です。特に、口を閉じる際に働く咬筋や顎を支える筋肉は、体幹の安定性と連動して働くことが知られています。嚥下や口腔機能が低下している患者では、歩行速度の低下や姿勢制御の不良が観察されることもあり、これらの要素が筋力やバランスに影響を及ぼす可能性が考えられます。
歩行と口の力の関連性
口腔機能と歩行機能の関係については、咬筋や口輪筋、顎のポジショニングが頭部や頸部、体幹との相互作用を通じて歩行に影響を与えることが研究で示されています。例えば、歯が不安定な状態や口腔内の不具合があると、口周囲の筋肉が弱まり、姿勢や歩行時のバランスが崩れやすくなります。特に、脳卒中患者においては、麻痺側の口腔筋の機能低下が姿勢や歩行パフォーマンスに悪影響を与えるケースが多く見られます。
リハビリテーションでの応用方法
口腔筋トレーニング
脳卒中患者や全身の筋力低下を有する患者に対して、咬筋や口輪筋のトレーニングを行います。具体的には、噛む動作を意識したトレーニングや、口をしっかり閉じる練習を取り入れることで、顎の安定性を高めることができます。これにより、体幹と連動した力の伝達が効率化され、歩行時のバランスと安定性が向上します。
顎と姿勢の連動トレーニング
嚥下時に顎を引き、頭部を安定させる動作を取り入れた姿勢改善トレーニングも効果的です。患者に口をしっかり閉じた状態での立位保持や歩行を指導し、顎のポジショニングが姿勢に与える影響を意識させます。これは、姿勢制御の改善と歩行の安定化に寄与します。
体幹と口腔機能の連動評価
口腔機能の評価は嚥下障害の有無だけでなく、体幹の安定性や歩行機能との関連を含めた総合的なアプローチが必要です。特に体幹と口腔の協調性を評価することで、歩行時の全身的な筋活動の向上が期待できます。口腔筋を強化することで、体幹や下肢のバランス制御が改善される可能性があります。
歩行時の口腔筋の使い方の指導
歩行時に患者が口を開いたり、歯を食いしばったりすることが見られる場合、これらの動作が不安定な歩行や姿勢に繋がっていることがあります。患者にリラックスした口の閉じ方や噛み合わせの練習を指導し、口腔の筋肉を適切に使うことで、歩行中のバランスと安定性を高めることができます。
歯科との連携
歯の欠損や義歯の不具合がある場合、リハビリテーションの効果が減弱する可能性があるため、歯科との連携を進めることが重要です。患者の口腔環境が整っていることで、口腔機能を最大限に活用したリハビリが可能となり、歩行の改善に繋がります。
臨床応用のアイデア
嚥下と歩行訓練の統合
嚥下機能の改善と歩行訓練を統合し、口腔筋と全身の筋活動を連動させるプログラムを組み立てます。例えば、立位や歩行中に嚥下運動を意識的に行い、体幹と口腔の協調性を強化します。
歩行訓練時の口腔機能のチェックリスト
歩行訓練中に、口を閉じた状態での歩行が行えているか、歯を食いしばりすぎていないかなどをチェックする項目を作成し、患者の姿勢やバランスと連動して口腔機能の状態を確認する。
姿勢と嚥下運動の相互作用を高める
座位での姿勢を維持しながら嚥下運動を繰り返す練習を行い、その後立位や歩行時にも同様の動作を行わせます。この一連の動作は、体幹の安定性と口腔機能の向上に寄与し、患者の全体的な筋活動の向上を目指します。
口腔機能は、食事や会話だけでなく、歩行や姿勢制御に密接に関連しています。リハビリテーションにおいて、口腔筋や顎の機能を高めることが、全身の筋力向上やバランス改善に寄与する可能性があります。口腔筋トレーニングを取り入れ、体幹との連動を意識したアプローチを行うことで、脳卒中患者の歩行機能を効果的に改善することが期待されます。
歯と歩行能力の関係を意識したその他の治療アイデア
歯と歩行能力の関係を意識し、より具体的な手順も含めた改善のアイデアを示します。これらは歯や口腔機能を改善しながら、全身の筋力や歩行能力に効果をもたらす具体的なアプローチです。
1. 定期的な歯科検診とアフターケア
- 手順: 3〜6ヶ月ごとに歯科医に定期検診を受け、虫歯や歯周病の有無を確認します。また、歯のクリーニングを受け、口腔内の衛生状態を保ちます。
- 目的: 歯科疾患が全身の炎症や筋力低下に影響する可能性を予防し、口腔内の健康を維持して歩行能力の低下を防ぎます。
2. 噛み合わせの調整
- 手順: 歯科医での噛み合わせチェックを受け、必要に応じて調整します。また、リハビリテーション中に適切な噛み合わせを意識して動作を行います。特に口を閉じた状態で体幹や歩行トレーニングを実施。
- 目的: 噛み合わせが悪いと、顎から首、肩、姿勢に影響し、歩行バランスが崩れることがあります。噛み合わせを改善することで、歩行時の安定性が向上します。
3. 義歯のフィッティング調整
- 手順: 義歯を使用している場合、定期的に義歯のフィッティングを確認し、必要に応じて調整を行います。歩行時にも義歯がしっかりフィットしているか確認し、安定性を保つことを意識します。
- 目的: 義歯がフィットしないと、咀嚼や嚥下機能に影響し、全身のバランスや筋力に悪影響を及ぼすことがあります。適切なフィッティングは歩行にも良い影響を与えます。
4. 口腔ケアと筋トレ
- 手順: 毎日、歯磨きやデンタルフロスを使ったケアを行い、口腔内の清潔を保ちます。同時に、口腔周囲筋(口輪筋)の強化トレーニングを行い、特に口を閉じる筋力を意識して訓練します。
- 目的: 口腔内の衛生状態が悪いと、全身の健康や筋力に影響を及ぼします。適切な口腔ケアと筋力トレーニングを行うことで、歩行能力が向上します。
5. 歯列矯正と体幹トレーニング
- 手順: 歯列矯正が必要な場合、矯正治療を受けると同時に、体幹の安定性を高めるトレーニング(プランクやスクワット)を並行して行います。口を閉じた状態で体幹トレーニングを実施することがポイントです。
- 目的: 歯並びが悪いと顎や首、肩に負担がかかり、姿勢や歩行バランスに影響します。歯列矯正と体幹トレーニングで全身のバランスを整え、歩行機能を向上させます。
6. 嚥下筋群トレーニング
- 手順: 口腔リハビリとして、嚥下機能を強化する運動(舌の押し上げ、口をすぼめるなど)を行います。嚥下機能は、口腔周囲筋の強化にもつながり、体幹との連動性を意識したトレーニングが有効です。
- 目的: 嚥下筋群の強化は、姿勢制御や全身のバランス改善に寄与し、歩行機能の向上を目指します。
7. 咀嚼機能向上トレーニング
- 手順: 硬めの食材(にんじん、りんごなど)をよく噛むことで咀嚼筋を鍛えます。また、左右均等に噛むことを意識し、咀嚼の偏りを防ぎます。食事中の姿勢にも注意を払い、正しい姿勢での咀嚼を心がけます。
- 目的: 咀嚼機能が向上すると、咀嚼筋のバランスが整い、全身の筋力や姿勢改善に繋がり、歩行時の安定性を高めます。
8. 顎関節ストレッチと全身連動
- 手順: 顎関節のストレッチ(軽く口を開けて閉じる動作や、左右に顎を動かす運動)を行い、筋肉の緊張を緩和します。ストレッチ後に体幹トレーニング(ブリッジ、ピラティスなど)を実施し、全身の連動を意識します。
- 目的: 顎関節の柔軟性を高めることで、歩行時の姿勢やバランスが改善され、歩行機能の向上が期待できます。
9. 咬合リハビリテーションと歩行訓練
- 手順: 咬合(噛み合わせ)の不具合を矯正しつつ、口を閉じた状態での歩行訓練を行います。歩行時には、口をしっかり閉じ、体幹の安定性を意識しながら足を踏み出す訓練を行います。
- 目的: 噛み合わせの改善によって姿勢や体幹の安定性が高まり、歩行時のバランスや筋力向上に寄与します。
10. 口腔・姿勢連動型トレーニング
- 手順: 口を閉じ、顎を軽く引きながら体幹を安定させた姿勢でスクワットやランジを行います。特に、口腔筋(口輪筋や舌筋)の緊張と体幹の連動を意識しながら運動します。
- 目的: 口を閉じることで体幹筋群が活性化し、全身の筋力やバランスが改善され、歩行機能向上をサポートします。
これらのリハビリアイデアを実践することで、歯や口腔機能の改善が全身の筋力やバランス、そして歩行能力に与える影響を効果的に引き出すことが可能です。歯や口腔と体幹、歩行の連動性を意識しながら、日常のリハビリやトレーニングに取り入れてください。
退院後のリハビリは STROKE LABへ
当施設は脳神経疾患や整形外科疾患に対するスペシャリストが皆様のお悩みを解決します。詳しくはHPメニューをご参照ください。
STROKE LAB代表の金子唯史が執筆する 2024年秋ごろ医学書院より発売の「脳の機能解剖とリハビリテーション」から
以下の内容を元に具体的トレーニングを呈示します。
STROKE LABではお悩みに対してリハビリのサポートをさせていただきます。詳しくはHPメニューをご参照ください
1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023)