vol.21:被殻出血による片麻痺患者の皮質脊髄路と皮質網様体路損傷の特徴
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カテゴリー
脳画像,脳科学
タイトル
被殻出血による片麻痺患者の皮質脊髄路と皮質網様体路損傷の特徴 Characteristics of injury of the corticospinal tract and corticoreticular pathway in hemiparetic patients with putaminal hemorrhage←Pubmedへ Yoo JS et al:BMC Neurol. 2014
内 容
研究背景
●脳内出血の48—67%は被殻で生じ,数ある神経路のうち特に皮質脊髄路(Corticospinal tract; CST)と皮質網様体路(Corticoreticular pathway; CRP)などの運動機能に関する神経路は被殻のそばに走行している
●CSTの主な機能は四肢の遠位,特に手の運動調整であり,これに対して皮質網様体脊髄路(主に皮質網様体路と網様体脊髄路)は四肢の近位筋や体幹筋の調整を行っている
●本研究はDTTを用いて被殻出血後の片麻痺患者におけるCSTやCRPの損傷の特徴を調査することを目的とした
出典:Yoo JSら
図:(A)MRI T2強調画像と(B)皮質脊髄路・皮質網様体路のトラクトグラフィー
対象と方法
●対象は57名の被殻出血例(男性37名,女性20名;平均年齢55.1歳)と年齢・性別をマッチングした対照群57名
●臨床評価としてMotricity Index(MI),the modified Brunnstrom Classification(MBC),Functional Ambulation Categories(FAC)を測定
●DTTではCSTとCRPの損傷を神経路の断絶やDTTのパラメータの異常(異方性度や線維数が対照群の2標準偏差よりも低値)と定義しタイプ及びグループに分類して比較
●タイプⅠ:断絶や異常パラメータがない,タイプⅡ:断絶がなく,異常パラメータがある,タイプⅢ:断絶があり,異常パラメータがあるに分類.さらにグループA:CST,CRPともに損傷なし,グループB:CSTが損傷あり,CRPが損傷なし,グループC:CSTが損傷なし,CRPが損傷あり,グループD:CST,CRPともに損傷ありに分類
結 果
●全体の57例中,CSTの損傷は41例(71.9%),CRPの損傷は50例(87.8%)で両方の損傷は37症例(64.9%)に認められた(Table2).CST,CRPともタイプⅡは同じ割合(17.6%)だったが,タイプⅢはCRPを損傷した割合が高かった(CRP70.2%,CST54.3%)
●CSTとCRP両方を損傷したグループDはグループAとそれぞれ単独で損傷したグループB・Cに比べ,MI,MBC,FACが有意に低値を示した(p<0.05).グループBとC間でMI,MBC,FACに有意な差は認められなかった(p>0.05).グループAのMIはグループB・Cよりも高値を示した.しかしながら,MBCとFACはグループAとB・C間で有意な差はなかった(p>0.05).4群間で平均年齢と出血量に有意差はなく,出血量とMI,MBC,FACにも有意な関連はなかった(p<0.05)
考 察
●本研究結果は,まず被殻出血ではCSTとCRP両方損傷する頻度が高いことを示し,CRPはCSTよりも被殻出血によって障害を受けやすいことを示した.
●CSTとCRPの損傷の重症度ではCST,CRPともタイプⅡが17.6%と同じ割合だったがタイプⅢはCRPの方が高い割合だった.タイプⅡは軽度や部分的な神経路の損傷で,タイプⅢはより重度か完全な神経路の損傷であることから,被殻出血でのCRPの損傷はより重度になりやすいことが考えられる.
●4つのグループ間を3つの評価項目で成績の良かった順に並べると,MI(グループA,C,B,D),MBC(グループA,C,B,D),FAC(グループA,B,C,D)であった.MIとMBCは手の機能を反映しCSTを損傷したグループは手の機能が不良であった.これに対して,FACは歩行機能を反映し,CRPを損傷したグループは歩行機能が不良であった.
明日への臨床アイデア・感想
●Jang SH(2009)やYeo SS(2012)らがCRPはCSTよりも前後方向で被殻に近いことを報告しており,CSTのみではなくCRPの損傷程度も考慮する必要性がある.
●CSTとCRPそれぞれの損傷により身体機能や歩行能力に差が生じる可能性があり,治療アプローチのリーズニングに脳画像の評価は欠かせない.また,CSTやCRPの損傷は出血量に左右されず,出血がどこまで及んだのかが重要であることを支持する内容だと考える.
●皮質網様体路は両側の網様体脊髄路へと連絡しており,単に麻痺側下肢の運動麻痺だけで歩行能力が低下していると考えるよりも,立位・歩行中の非麻痺側体幹や骨盤帯・股関節周囲筋の筋活動の評価・治療も必要である.
執筆監修|金子 唯史 STROKE LAB代表
・国家資格(作業療法士)取得
・順天堂大学医学部附属順天堂医院10年勤務
・海外で3年に渡り徒手研修修了
・医学書院「脳卒中の動作分析」など多数執筆
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023)