【2026年版】脳卒中片麻痺の立ち上がり動作分析|4相別の評価とリハビリ戦略を徹底解説
立ち上がり動作は、なぜ代償するのか。
脳卒中後の転倒の約39%は体位変換中に起きます。立ち上がり(Sit-to-Stand:STS)を4相に分解し、代償が「なぜ」生じているのかを神経学的・生体力学的・行動的の3軸で読み解きます。
— 動作分析の問題点抽出フレームワークの解説動画(STROKE LAB公式)
臨床現場でこう出会う。
60代男性、左片麻痺、発症後3ヶ月(回復期)。Brunnstrom stage 下肢IV、FIM運動項目62点。主訴は「一人でトイレの立ち座りができるようになりたい」。
初回評価では、立ち上がり前に大きく体幹を前傾させ、非麻痺側(右)へ体重をシフトさせてから立ち上がる代償パターンが観察された。MMTでは麻痺側下肢の筋力はほぼ保たれていたが、立ち上がり動作の中では力を発揮できていなかった。
新人のうちは、こうした場面で「筋力低下が原因」と即断してしまいがちです。しかし本ケースのようにMMTが保たれているにもかかわらず動作の中で力が出せない場合、原因は筋力ではなく別の場所にある可能性が高いのです。本記事では、この「なぜ代償するのか」を4相・3軸で読み解く方法を、先輩から後輩への引き継ぎのつもりで解説します。
定義と疫学:4相・5相モデル。
座位から立位への移行動作(Sit-to-Stand:STS)は、歩行の前提条件であり、自立した日常生活を支える最重要動作のひとつです。相分類は研究者によって「4相」または「5相」が使われ、臨床・研究の文脈で混在しています。本記事では臨床でよく使われる4相モデルを主軸に解説します。
4相は「離殿〜立位保持」を1つの相として扱います。5相ではこの区間を「臀部離床直後の垂直上昇」と「立位への安定」に分割します(Lim et al. 2018など)。論文を参照する際は何相モデルかを必ず確認してください。

4相の構造
体幹前傾・骨盤前傾が始まる相。股関節屈曲筋・腹筋が活動し、重心(CoM)の前方移動を開始する。
足関節最大背屈に到達する相(離殿直前)。膝関節伸展モーメントが増加する。最大背屈の直後に離殿が生じ、この数十ミリ秒の「溜め」が第3相の力発揮の準備になる。
下肢伸展モーメントと床反力の垂直成分が最大になる相。重力に抗した垂直上昇が起こる。
CoP-CoG間の微調整が行われる相。姿勢制御筋の適切な活動によって動的バランスが完成する。
[観察研究]: Teasell R, et al. Arch Phys Med Rehabil. 2002;83(3):329-333. 入院リハビリ中の脳卒中患者を対象とした調査で、転倒の約39%が体位変換(移乗・立ち上がりを含む)中に発生していたことが報告されている。
— ご本人・ご家族の状況を丁寧にお伺いします
STROKE LABでは、脳卒中専門のセラピストが動作分析に基づき、代償の原因を特定したうえで個別のリハビリ計画をご提案します。在宅生活での立ち上がり・移乗の不安について、まずは無料相談でお聞かせください。
神経メカニズムと代償戦略。
脳卒中後の片麻痺患者では、運動麻痺・感覚障害・姿勢調整機能の低下により各相に特有の代償が生じます。まず健常者と何が違うのかを相ごとに整理しましょう。

| 相 | 脳卒中患者の代償パターン | 健常者との違い |
|---|---|---|
| 第1相 | 非麻痺側への体重シフト、骨盤後傾、股関節外転外旋による支持基底面の拡大 | 健常者は左右対称・協調的な体重移動が可能 |
| 第2相 | 背屈不足を股関節屈曲・外転で代補、視覚依存の増大、頭頸部の過伸展 | 健常者は三関節が協調し感覚統合が機能 |
| 第3相 | 麻痺側GRFの著明な低下、外部物体への依存、体幹・四肢の屈曲代償 | 健常者は左右対称なGRFを垂直方向に発揮 |
| 第4相 | CoM後方偏位、脊柱起立筋の過活動、姿勢動揺(スウェイ)の消失 | 健常者は最小限の調整と適度なスウェイを維持 |
動作分析の問題点抽出フレームワーク:3軸
「できない」「非対称」という観察に留まらず、なぜその問題が生じているのかを以下の3軸で体系的に整理することが、的確な介入選択につながります。

「新人の頃は、多くの片麻痺の方の問題を解剖や運動学に強引に当てはめようとしがち。うまく立位がとれない方に『体幹機能低下』とワンパターン化しがちだけど、メンタルの落ち込みや栄養状態など多岐にわたる可能性を考えよう」
「MMT・ROMが正常でも動作ができない患者は珍しくない。単関節の検査結果と、全身運動の中での協調性は別物として評価する癖をつけるといい」

[観察研究]: Kamper DG, et al. Arch Phys Med Rehabil. 2002;83:702-707. 脳卒中患者ではリーチ動作中の筋協調性(原動力・二次的原動力・シナジー・全身安定性)が障害されやすく、麻痺の重症度と関連することが示された。



鑑別診断。
「立ち上がりにくい」を安易に片麻痺の運動麻痺だけに帰属させると、見落としが起こります。以下の要因が併存していないか、必ず鑑別してください。
| 鑑別疾患・要因 | 共通点 | 鑑別ポイント | 参考検査 |
|---|---|---|---|
| 起立性低血圧 | 立位への移行でふらつき・脱力感 | 立位1〜3分後に症状増悪。左右非対称な代償パターンは伴わないことが多い | 臥位・立位血圧測定(収縮期20mmHg以上低下) |
| サルコペニア・廃用性筋力低下 | 下肢伸展モーメント不足による立ち上がり困難 | 両側性・左右対称に筋力低下。片麻痺特有の左右差やシナジー障害は目立たない | 握力・骨格筋量(SARC-F、四肢骨格筋量) |
| パーキンソン症候群 | 動作開始の遅延、前傾姿勢 | すくみ現象・小刻み歩行の併存。左右非対称は目立ちにくい | UPDRS、既往歴聴取 |
| 膝関節拘縮・変形性膝関節症 | 立ち上がり時の疼痛・可動域制限 | 局所の疼痛・熱感の有無。荷重時痛の再現性 | 膝関節ROM測定、X線所見(既往確認) |
※上表の対応関係は臨床現場での鑑別視点の整理であり、個々のカットオフ値は各評価尺度の一般的基準に基づく[専門家合意]です。
評価尺度と採点基準。
「5STSの12秒カットオフ」は主に地域在住高齢者を対象とした研究から導かれたものです。脳卒中患者では脳卒中特異的なカットオフ(約15秒:Bohannon 2006)を用いた解釈が必要です。
| 項目 | 採点基準 | カットオフ値 | 解釈 |
|---|---|---|---|
| 5回椅子立ち上がりテスト(5STS) | 5回連続の立ち座り所要時間を計測 | 脳卒中患者:約15秒超で転倒リスク上昇(Bohannon 2006) | 下肢筋力・機能的能力の数値化に有用 |
| 30秒椅子立ち上がりテスト(30s-CST) | 30秒間の繰り返し回数を計測 | 脳卒中特異的基準値は未確立 | 筋持久力・疲労耐性の評価に有用 |
| Timed Up and Go(TUG) | 立ち上がり〜歩行〜回転〜着席の所要時間 | 13.5秒超で転倒高リスク(Shumway-Cook 2000) | 動的バランス・移動能力の総合評価 |
| Berg Balance Scale(BBS) | 14項目の静的・動的バランスを0〜4点で採点(満点56点) | 45点以下で転倒リスク上昇 | 立ち上がり項目を含む総合的バランス評価 |
| 体重計2台法 | 左右の体重分布比(%)を算出 | 麻痺側40%未満が問題の目安[専門家合意] | GRFの左右非対称を簡便に定量評価 |
[複数RCT]: BBSは脳卒中患者において高い検者内・検者間信頼性(ICC 0.90以上)が報告されている。MCID(臨床的最小変化量)は約6点前後とされ、これを下回る変化は測定誤差の範囲と解釈する必要がある。5STSはBohannon(2006)により脳卒中特異的基準値が示されているが、大規模なMCID報告は限定的であり、経過観察には複数回測定の平均値を用いることが望ましい[専門家合意]。
介入のエビデンス。
介入は「①原因の特定 → ②段階的難易度設定 → ③正常パターンの促通」の3ステップで進めます。代償を力で消すのではなく、機能改善によって代償が「必要でなくなる状態」を作ることが目標です。
座位での骨盤前傾運動(10回×3セット)から開始し、体重計2台を使った左右均等体重移動フィードバック練習(5分間)を組み合わせる。
足関節背屈可動域のストレッチ(30秒保持×3セット)、前脛骨筋のテラバンド抵抗練習(10回×2セット)。痙縮由来か可動域制限かを鑑別してから実施する。
麻痺側荷重練習(片脚立位10秒保持×5回)、支持基底面の段階的縮小、麻痺側足部の後方配置による立ち上がり練習(10回×3セット)。
立位での前後左右リーチ課題(各方向5回)、重心計フィードバックを使った立位バランス訓練(5分間)、麻痺側膝・股関節の完全伸展保持練習(10秒×5回)。

[観察研究]: Lim JY, et al. Front Neurol. 2018;9:185. 亜急性期脳卒中患者25名を対象とした3D動作分析で、麻痺側の床反力(GRF)の著明な低下、第1相の所要時間延長、第4相での膝・股関節伸展完成の遅延が確認された。
[単独RCT]: Choi B. J Phys Ther Sci. 2015;27(3):893-895. 健常成人46名の表面筋電図研究で、骨盤前傾正常位では前傾位より内側広筋斜走線維・外側広筋の活動が有意に大きいことが示された。膝痛予防を目的とした骨盤前傾誘導の妥当性を裏付ける。
[単独RCT]: Nam I, et al. 2015. 慢性期脳卒中患者15名の表面筋電図研究で、麻痺側足部を後方に配置した条件で麻痺側脊柱起立筋・大殿筋の活動が有意に増大した(対称配置比)。
レベル1(入門):高い座面(48〜52cm)+両手すり使用。急性期・重度麻痺に適用。
レベル2(初級):標準座面(43〜46cm)+片手すり使用。麻痺側荷重を段階的に増やす。
レベル3(中級):標準座面+手すりなし・腕組み。下肢筋力と協調性のみで立ち上がる重要な転換点。
レベル4(上級):低い座面(38〜40cm)+手すりなし。実用的な環境への応用練習。
レベル5(応用):速度変化・二重課題・不安定面。実生活場面への対応。

STROKE LABは脳卒中の動作分析を専門とするセラピスト集団です。代償の原因を神経学的・生体力学的・行動的の3軸で特定し、根本的な機能回復を目指すアプローチを提供しています。
多職種連携と環境調整。
在宅・介護者への引き継ぎポイント
立ち上がり動作の改善は、セラピスト単独では完結しません。家族・介護者・多職種と連携し、日常生活の中で正しいパターンを反復してもらう仕組みづくりが不可欠です。
「介助者には『持ち上げない』『前から手を出さない』を必ず伝える。腕を引っ張る介助は麻痺側荷重を妨げ、肩関節にも負担をかける」
「『いち・にの・さん』の声かけは動作開始を助けるが、回復に応じて声かけを減らす段階移行も忘れずに伝えておく」
| 職種 | 評価項目 | 主な介入内容 | 連携ポイント |
|---|---|---|---|
| PT | 4相別動作分析、GRF・関節モーメント、5STS/TUG | 代償原因への介入、難易度段階練習 | OTへ日常生活動作への汎化状況を共有 |
| OT | トイレ・入浴などADL場面での立ち上がり動作 | 環境調整(手すり位置・便座高)、動作手順の指導 | PTの練習内容をADL場面に落とし込む |
| ST | 認知機能・注意機能(行動的側面の評価) | 動作理解を助ける言語指示の工夫、二重課題への対応 | 認知面の問題が動作遂行意欲に影響していないかPTと共有 |
| 看護師 | 病棟内での立ち上がり頻度・転倒歴・血圧変動 | 見守り基準の設定、起立性低血圧のモニタリング | リハ場面外での実施状況をPT/OTへフィードバック |
| 医師 | 痙縮の重症度、内科的リスク(血圧・心疾患) | 痙縮治療(ボツリヌス療法等)の適応判断、離床許可 | 痙縮変化に応じたリハ強度の見直しをPTと協議 |
| MSW | 在宅環境(住居の段差・椅子の高さ)、介護力 | 福祉用具導入の調整、退院支援計画の立案 | OTの環境評価をもとに具体的な住宅改修を検討 |
※上表の役割分担は臨床現場の一般的な運用に基づく整理であり[専門家合意]、施設ごとの体制により変動します。
つまずきポイントと臨床判断のコツ。
新人のうちは同じようなつまずきを繰り返します。先輩として、よくある3つのパターンを共有します。
判断に迷ったときの視点
「原因が1つに絞れないときは、3軸(神経学的・生体力学的・行動的)を一つずつ潰していく。焦って介入を始めず、まず評価に時間を使うことが結果的に近道になる」
「高齢の脳卒中患者は複合要因が潜んでいることが多い。栄養状態・気分の落ち込みも動作遂行意欲に影響することを忘れないでほしい」
予後とゴール設定。
STS動作の予後は、麻痺側の筋力と体重支持の左右対称性に強く関連することが報告されています。ゴール設定の際は、時間だけでなく「対称性」も指標に含めましょう。
短期ゴール:レベル2(片手すり)での自立、体重計2台法で麻痺側荷重35%以上。中期ゴール:レベル4(手すりなし)での安定遂行、5STS15秒以内。長期ゴール:二重課題下でも安定した立ち上がりの実生活場面への汎化。
[観察研究]: Lomaglio MJ, Eng JJ. Gait Posture. 2005;22(2):126-131. 脳卒中患者において、下肢筋力と体重支持の左右対称性がSTS動作パフォーマンスと有意に関連することが示された。
よくある質問。
用途に応じて5回椅子立ち上がりテスト(5STS)、観察による4相別動作分析、TUG、体重計2台法を組み合わせて使用します。5STSの脳卒中患者カットオフは約15秒(Bohannon 2006)で、地域在住高齢者の12秒とは異なる点に注意してください。
中枢神経障害では個々の筋力や可動域が保たれていても、複数の筋群が協調して働くシナジーが障害されることが多いためです。静的な検査では見えにくく、立ち上がりのような機能的動作の中で初めて顕在化します。
医師の許可のもと発症後24〜48時間以内に頭部挙上・端坐位・立位へと段階的に進めます(日本脳卒中学会 脳卒中治療ガイドライン2021)。STS練習は安定した端坐位が保てる段階から、レベル1(高い座面+両手すり)で開始します。
Nam(2015)の研究では麻痺側足の後方配置が脊柱起立筋・大殿筋の活動を増大させることが示されましたが、すべての患者に一律適用できるわけではありません。足関節の柔軟性、体幹の安定性、Brunnstrom stageを確認したうえで導入してください。
逆です。適度な姿勢動揺は重心位置をリアルタイムで調整している証拠であり、正常な動的バランスコントロールの表れです。スウェイが全くない立位は姿勢調整機構が機能していない固定姿勢であり、外乱時にかえって転倒しやすい状態です。
下肢伸展筋力の不足を運動量(モーメンタム)で補う合理的な代償戦略であり、急いで直す必要はありません。なぜ筋力で立てないのかを3軸で評価し、原因に介入することを優先してください。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは脳卒中専門の自費リハビリ施設として、PT・OT・STが連携し動作分析に基づく根本的なアプローチを提供しています。立ち上がりや歩行など、生活に直結する動作の改善を通じて、ご本人・ご家族の「できることを増やす」お手伝いをしています。
— STROKE LABでのリハビリの様子(公式チャンネルより)
「入職1年目、片麻痺の患者さんの立ち上がりで『非麻痺側に体重が偏る』としか記録できず先輩に相談しました。一緒に4相に分けて動画を見返すと、第1相の骨盤後傾が原因だとわかり、座位での骨盤前傾練習を追加したところ2週間で対称性が改善。『代償を消す前に、なぜ生じているかを分けて見る』ことの大切さを実感しました」— PT・臨床3年目・脳卒中回復期病棟
「立ち上がり後にすぐ歩き出そうとしてふらつく利用者様がいて、最初は歩行練習を増やしていました。しかし第4相の安定立位保持の評価が抜けていたと気づき、立位保持練習を先に組み込んだところ、歩行開始時のふらつきが大きく減少。動作を分解して評価する習慣の重要性を学びました」— OT・臨床2年目・生活期デイケア
あわせて読みたい:【2026年版】ハムストリングスの起始・停止と片麻痺の立ち上がり動作との関係|大腿二頭筋・半腱様筋・半膜様筋を徹底解説【脳卒中×触診】
諦めないでください。

立ち上がり動作は、日常生活の中で最も多く繰り返される動作でありながら、転倒への不安が大きい動作でもあります。「なぜできないのか」を丁寧に紐解けば、多くの場合、次の一歩が見えてきます。
STROKE LABでは、動作分析に基づき代償の原因を特定したうえで、根本からの機能回復を目指すリハビリを提供しています。
「もう年齢だから」「これ以上は難しい」と諦める前に、一度私たちにご相談ください。ご本人・ご家族に寄り添いながら、できることを一緒に探していきます。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)