身体イメージが育ちにくい子|自分の体を感じる運動支援
見なくてもわかる「体の地図」は、動くたびに更新されます
「手足の位置をいつも見ている」「姿勢のまねが難しい」「狭いところに体を合わせにくい」――こうした様子には、自分の身体を動きの中で捉える力が関係していることがあります。「体の部位を知っている」ことと、「見なくてもその体を使える」ことは同じではありません。この記事では、身体図式という視点から、体の位置・大きさ・向きをどう感じ、動きながら更新していくのかを整理します。

「自分の体が分かりにくい」は、どんな場面に現れる?
身体図式は目に見えません。そのため、家庭では「身体図式が弱い」という形ではなく、遊びや生活の中の小さな困りごととして現れます。
| 見える様子 | 考えてみたい視点 |
|---|---|
| 手足を動かすたびに目で確認する | 視覚が減ったときにも位置を再現できるか |
| 先生の姿勢をまねしにくい | 見た姿勢を自分の体へ置き換えられるか |
| 狭いところで肩や荷物をぶつける | 自分の体幅と空間の幅を合わせられるか |
| またぐ前に何度も足元を見る | 脚の高さや距離を予測できるか |
| 姿勢や環境が変わると急にぎこちない | 変化した身体と環境の関係を更新できるか |
ただし、これらがあるからといって「身体図式の問題」と断定はできません。視覚、注意、筋力、姿勢制御、運動計画、疲れやすさなども関係します。大切なのは、結果ではなく、どの条件で動きが変わるかを観察することです。
身体イメージと身体図式は、少し違います
日常会話では「身体イメージ」「ボディマップ」「体の感覚」など、さまざまな表現が使われます。専門的には、身体について意識的に感じたり考えたりする身体イメージと、姿勢や運動の調整に使われる感覚運動的な身体図式を分けて考えることがあります。
「自分の体はこうなっている」「ここが手、ここが肩」と、体について意識したり理解したりする側面。
「見なくても腕の位置が分かる」「狭い隙間に合わせて肩を回す」など、動作の中で無意識的に使われる身体の内部表象。
たとえば「ひじはどこ?」と聞かれて正しく指せても、目を離した状態では同じ位置へ腕を戻せないことがあります。身体の名前を知っていることと、動きの中で身体を使えることは別の能力として考える必要があります。

体の地図は、感覚と運動で更新されます
身体図式は、一度完成したら変わらない地図ではありません。子どもは成長し、手足の長さも体格も変化します。遊ぶ場所、持つ道具、着る服も変わります。そのたびに、脳は今の身体と環境の関係を更新していきます。
固有感覚・前庭感覚
たとえば低いバーをまたぐとき、子どもは脚の位置を感じ、バーまでの距離を見て、「これくらい上げれば越えられる」と予測します。足が触れた場合には、その誤差を次の試行へ反映します。
この予測→動作→誤差→更新の繰り返しこそが、この記事で考える「自分の体を感じる運動支援」の中心です。

見えている体と、使えている体を分けて見ます
STROKE LABでは、「体の位置が分かっていますか?」と聞くだけでは判断しません。実際の動作の条件を少し変え、どの情報がなくなったときに誤差が増えるかを見ます。
療法士と同じ腕の姿勢を作る課題を、鏡ありと鏡なしで比べます。鏡では正確なのに、視覚情報を減らした瞬間に腕の角度が大きくずれるなら、視覚への依存度が高い可能性を考えます。
そこから、目で確認する→短時間だけ視線を外す→同じ姿勢を再現する、というように情報量を調整します。目的は「目を閉じてできること」ではなく、必要な感覚情報を組み合わせて生活動作を安定させることです。
普段は通れる隙間でも、リュックを背負う、大きなクッションを持つ、厚手の上着を着るなど、身体の外側の条件が変わると急に接触が増える子がいます。
これは診断を決める検査ではなく臨床上の観察仮説ですが、「今の自分が動ける範囲」を状況に合わせて更新できているかを見る有用な条件変化になります。
[イラスト:4場面比較。①鏡ありで姿勢模倣、②鏡なしで姿勢模倣、③通常の体で隙間を通過、④リュックを背負って同じ隙間を通過。条件による誤差の違いを示す。白背景・グリーン系・人物は非写実イラスト]
研究でわかっていること
子どもの身体図式に関する発達レビューでは、身体図式は動いている身体の内部表象として、成長の中でさまざまな感覚情報と運動経験を利用しながら成熟し、継続的に更新されると整理されています。
10〜11歳のDCD児を対象にした研究では、手関節の位置を再現する課題で反応のばらつきが大きく、受動的な位置変化を識別する閾値も高いことが示されました。また、位置感覚の成績は手先の器用さやバランスとも関連していました。
この研究から言える範囲:DCD児の一部では固有感覚の精度が運動機能と関係する可能性があります。ただし、身体図式の困りごとを固有感覚だけで説明することはできません。
DCD児29名と定型発達児29名を対象に、さまざまな幅の隙間について「通れそうか」という判断と、実際に歩いて通る行動を比較した研究では、DCD児では静的な判断と実際の行為で身体と空間の対応に異なる特徴がみられました。
この研究から言える範囲:体の大きさを知識として判断することと、動きながら環境へ合わせることは同じではありません。
子どものbody awarenessへの介入をまとめた2022年の系統的レビューでは、採用基準を満たした研究は3研究に限られていました。したがって「この感覚遊びをすれば身体図式が改善する」と一律には言えません。評価法・介入法とも、今後さらに研究が必要な領域です。
家庭では、体と環境の関係を少しずつ変えて遊ぶ
家庭では、特殊な道具を用意する必要はありません。ポイントは、同じ遊びの中で体と環境の関係を一つだけ変えることです。
| 遊び | 最初 | 慣れたら変える条件 |
|---|---|---|
| 姿勢まね | 大人を見ながらまねる | 見本を見る時間を短くする、鏡で自己確認する |
| くぐる | 十分広いトンネル | 高さや幅を少しだけ変える |
| またぐ | 低く見やすい障害物 | 高さ・幅・またぐ方向を少し変える |
| 運ぶ | 軽い小さなクッション | 大きさや持つ位置を変える |
失敗したときに、すぐ体を動かして正解へ誘導する必要はありません。「どうしたら通れそう?」「今どこが当たった?」と短く聞き、もう一度試せる余地を作ります。
保護者が療法士になる必要はありません。安全な範囲で試す→気づく→少し変えるという遊びを、親子で楽しめることを優先してください。
相談した方がよいのは、どんなとき?
身体図式の発達には幅があります。ひとつの苦手だけで異常と判断する必要はありません。一方で、次のような困りごとが複数の場面に続く場合は、専門家へ相談すると整理しやすくなります。
- 体の位置を確認するため、必要以上に手足を見続ける
- 姿勢模倣・体育・ダンスなどで強く困る
- 着替えや道具操作にも体の位置の分かりにくさが影響する
- 狭い場所や遊具で体を環境へ合わせることが難しい
- 本人が失敗を繰り返して自信をなくしている
急に以前できていた動きができなくなった、急な左右差、強いふらつき、痛み、脱力、けいれん様の変化などがある場合は、発達上の身体イメージの問題と自己判断せず、医療機関での評価を優先してください。
診断、投薬、画像検査などの医学的判断は主治医が担います。専門的なリハビリでは、実際の困りごとを再現し、感覚、視覚依存、姿勢予測、環境との対応を分けて評価し、生活参加につながる方法を組み立てます。
専門施設では「身体図式がどこでずれるか」まで評価します
専門施設で目指すのは、「固有感覚を入れる」「身体イメージを高める」といった抽象的な支援ではありません。まず、子どもが実際に困っている遊びや生活動作を観察し、どの情報・条件・動作局面で誤差が生じるのかを分けます。
同じ子どもでも、鏡があればできる、平地ならできる、疲れていなければできる、何も持っていなければぶつからない、といった違いがあります。この条件差を評価することで、介入すべきボトルネックが具体的になります。
1. 評価所見から介入を選ぶ
| 困りごと | 仮説 | 評価 | 介入 | 調整 | 生活で確認 |
|---|---|---|---|---|---|
| 見ないと手足の位置が分かりにくい | 固有感覚の精度、視覚依存 | 開眼・視線除去での肢位再現 | 実課題+触覚・固有感覚の手がかり | 視覚を段階的に減らす | 着替え・階段で足元を見る頻度 |
| 狭い場所で体幅を合わせにくい | 身体尺度と空間の対応 | 隙間幅と肩回旋開始点・接触 | 幅や速度を変えた通過課題 | 広い→狭い、低速→自然速度 | 教室・公園での接触 |
| 姿勢のまねが難しい | 身体部位間の位置関係、運動表象 | 鏡あり・なし、部分・全身模倣 | 見本→自己探索→再試行 | 自由度を徐々に増やす | 体育・ダンスの模倣 |
| 新しい場所・姿勢で崩れる | 身体図式の更新、予測 | 床・台・傾斜で同じ課題を比較 | 目標課題+条件変化 | 一条件ずつ変更 | 公園・体育場面での適応 |
| 疲れると位置がずれる | 感覚統合・姿勢制御負荷 | 前半と後半の誤差、代償 | 量・休憩・課題難易度調整 | 質が落ちる前に区切る | 体育後半や外出後の動き |
2. 「感覚を入れる」で終わらせない
身体図式の話では、「固有感覚を入れる」「深い感覚を入れる」といった表現が使われることがあります。しかし、感覚入力そのものをゴールにすると、生活で使える変化につながっているかが見えにくくなります。
STROKE LABでは、感覚情報を利用したあとに、必ず目標となる動作で何が変わったかを確認します。
たとえば「またぐ」ことが目標なら、足へ刺激を入れて終了するのではなく、その直後に実際の障害物をまたぎ、足の高さ、視線、接触、動作速度がどう変わるかを見ます。変化しなければ仮説を見直します。
3. STROKE LAB’s Clinical Reasoning
「ぶつかるから身体イメージが悪い」「固有感覚が弱いから感覚刺激を入れる」という一直線の推論では、子どもの動きを十分に説明できません。私たちはまず、接触が起きるのが動き始めなのか、方向転換なのか、狭い場所への進入なのか、荷物を持ったときなのかを分けます。
次に、視覚を使える条件と減らした条件、身体の外形が変わる条件、速度が変わる条件を比較します。ここで重要なのは「何回ぶつかったか」だけではありません。肩を回し始めるタイミング、足を上げ始める位置、視線を移す瞬間、接触後に次の試行をどう修正したかまで見ます。
介入は、その所見に合わせて選びます。視覚依存が大きければ視覚情報をいきなり遮断するのではなく、視覚で成功を作ったあと、短時間だけ視線を外して再現します。空間への身体尺度化が難しければ、隙間の幅を少しずつ変え、「どの幅から肩を回すか」を体験できる課題へします。
最後は、同じ課題を家庭・学校・公園で再評価します。訓練室で「体を感じられた」ことではなく、教室で荷物を持って歩く、公園の遊具をくぐる、体育で姿勢をまねる、といった実際の参加が変わったかをアウトカムにします。
4. 介入の方向性
| 介入系統 | なぜ選ぶか | 生活で期待する変化 |
|---|---|---|
| 目標課題そのものの練習 | 身体図式を実際の行為の中で使うため | またぐ・着替える・遊具を使うなどが安定する |
| 感覚手がかりの調整 | 不足している情報を補いながら実課題へつなぐため | 手足を過剰に見なくても動きやすくなる |
| 視覚情報の調整 | 視覚への依存度と他感覚との統合を見るため | 視線を別課題へ向けても姿勢を保ちやすくなる |
| 環境条件の変化 | 変化した身体と環境の関係を更新するため | 園・学校・公園など異なる環境でも適応しやすくなる |
5. 研究と臨床をどうつなぐか
身体図式そのもの:発達研究では、身体図式は感覚情報と運動経験により更新されることが示されています。しかし、身体図式だけを対象とする特定の運動法については研究がまだ限られています。
介入原理:DCDの理学療法介入を更新した2025年の系統的レビューでは、実際の課題を用いるtask-oriented interventionを第一選択とする従来の推奨が、新しい研究でも支持されています。
臨床への翻訳:そのため専門施設では、「身体図式を改善する運動」を一律に行うのではなく、実生活で難しい課題を使い、その中で必要な感覚・予測・環境条件を調整します。研究で分かっている原理と、目の前の子どもの反応を分けながら組み合わせます。
6. 生活・学校への般化まで確認する
専門施設で動きが改善しても、生活で使えなければ支援は完成ではありません。次のような具体的な変化を確認します。
- 着替えで袖やズボンの位置を探す時間が減ったか
- 教室で机や友だちに接触する頻度が変わったか
- リュックを背負っても通路を歩きやすくなったか
- 体育で見本を見たあとに姿勢を再現しやすくなったか
- 遊具の高さや幅が変わっても動きを調整できるか
「機能が上がった」と「生活で使えるようになった」は同じではありません。家庭・学校・遊びまで含めて再評価し、必要に応じて難易度や環境を再設計します。

よくある質問
STROKE LABの小児リハビリ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。小児分野では、運動を「苦手だから練習する」で終わらせず、感覚、身体図式、姿勢制御、運動学習、環境との関係から分析します。診断や医学的治療は主治医を尊重し、生活と動きの側から併走します。
生活で使える動きへ。

「自分の体が分かりにくそう」という困りごとは、外から見ただけでは原因を判断しにくいものです。姿勢、感覚、視覚、予測、環境との関係が重なって、一つの動きとして現れています。
私たちが大切にしているのは、「身体イメージが弱い」という言葉で終わらず、どの条件で体の地図がずれるのかを動作から見つけることです。
そして、訓練室の中で体を感じるだけでなく、着替え、体育、遊び、学校生活など、子どもの「したい」へつなげていきます。
代表取締役 金子 唯史

脳の領域別の働きから、臨床で行うリハビリテーション方法を提案する専門書です。動作を単独の筋肉や関節だけで捉えず、感覚、姿勢、運動の連鎖として見る視点は、子どもの身体図式と運動発達を考えるうえでも土台になります。
- STROKE LABの小児リハビリ
- 動きがぎこちない・運動が苦手|運動制御の視点で「なぜ」を分析する
- よく転ぶ・よくぶつかる子|身体イメージ(ボディマップ)の育て方
- 転ぶよりもよくぶつかる子|身体イメージと空間認知の見方
- 力加減が苦手な子|強すぎる・弱すぎる動きの発達を考える
本記事は、身体図式の発達、DCDにおける固有感覚・知覚と行為、運動介入に関する研究と、STROKE LABの臨床推論を区別して構成しています。特定の所見だけで診断することはできず、医学的評価や治療の代替ではありません。
- Assaiante C, Barlaam F, Cignetti F, Vaugoyeau M. Body schema building during childhood and adolescence: a neurosensory approach. Neurophysiol Clin. 2014;44(1):3-12.
- Tseng YT, Tsai CL, Chen FC, Konczak J. Wrist position sense acuity and its relation to motor dysfunction in children with developmental coordination disorder. Neurosci Lett. 2018;674:106-111.
- Wilmut K, Du W, Barnett AL. Navigating through apertures: perceptual judgements and actions of children with Developmental Coordination Disorder. Dev Sci. 2017;20:e12462.
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- Iwamoto K, Pines K, Lochala C, Long D, Hess P, Sargent B. Systematic Review to Inform the Developmental Coordination Disorder Clinical Practice Guideline Update: Physical Therapy Intervention. Pediatr Phys Ther. 2025;37(2):194-208.
- 金子唯史:脳の機能解剖とリハビリテーション.医学書院,2024,408頁。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)