ずりばいで片足ばかり使う赤ちゃん|左右差と骨盤の動きの見方
蹴っている側の足だけではなく、反対側の腕や体幹が支えとして働いているかを確認します
「右足だけで蹴って、反対の足を引きずっている」「このままハイハイや歩行へ進めるの?」と心配になることがあります。片足を多く使うずりばいだけで、発達の異常や病気とは判断できません。大切なのは、使っている足だけでなく、反対側で身体を支えられるか、左右へ体重を移せるか、ほかの姿勢にも同じ左右差があるかを見ることです。

片足ずりばいだけでは、発達の異常と判断できません。
ずりばいを始めた喜びと同時に、毎回同じ足で床を蹴る姿を見ると、「左右差をそのままにしてよいのか」「骨盤や股関節に問題があるのでは」と不安になるものです。
ただし、一つの動作の見た目だけでは、原因も将来の発達も決められません。まずは、ずりばい以外の姿勢で両手足が動いているか、左右へ身体を向けられるか、数週間の中で動き方が増えているかを見ていきます。
赤ちゃんの移動方法には、腹ばいで進むずりばい、手と膝で進むハイハイ、片膝と片足を使う移動、座ったまま進む移動など、さまざまな形があります。WHOの運動発達研究では、健康な乳幼児の手膝ハイハイの獲得時期には大きな幅があり、手膝ハイハイを経験しなかった子もいました。これは、移動の順序や形が一つではないことを示しています。
一方で、左右差が長く変わらない、別の姿勢でも同じ側を使いにくい、痛みや動きの減少を伴う場合は、単なる移動スタイルだけでは説明できないことがあります。「片足を使うか」ではなく、「その左右差がどの姿勢まで広がっているか」が重要です。
なぜ、片足ばかり使うように見えるのでしょうか。
ずりばいは、脚だけで前へ進む動作ではありません。前腕や手で床を支え、視線をおもちゃへ向け、胸郭と骨盤の間に小さなねじれを作り、左右へ重心を移すことで、片側の腕や脚を前へ運びます。この連鎖のどこかが得意になると、同じ足を繰り返し使う形が生まれることがあります。
股関節、膝、足部そのものの動きに差がある場合もありますが、見た目だけで「骨盤のゆがみ」「筋力不足」「神経の問題」と一つに決めることはできません。身体の状態は医療・健診で確認し、生活場面の動きは姿勢と環境を含めて整理します。
足より先に、「支える側」と「体重移動」を見ます。
よく動く足が、必ずしも「問題のない側」とは限りません。
臨床では、よく蹴っている足だけを見るのではなく、反対側の前腕や胸郭へ体重を預けられているかを確認します。たとえば左足ばかりで蹴る場合、右脚の問題だけでなく、左腕で身体を支えにくいため右側を前へ運べない、という仮説も考えられます。
また、ゆっくり進むときは両脚が動くのに、急いだときだけ片足へ偏る場合は、効率のよい得意な戦略を選んでいる可能性があります。床面、玩具の方向、速度、疲労を変えたときに左右差がどう変わるかを見ることで、身体の固定した差と、環境に応じた運動戦略を分けて考えます。
家庭で確認したい6つの動き
| 見る場所 | 確認するポイント |
|---|---|
| 視線・頭 | 左右どちらのおもちゃにも顔を向けられるか |
| 前腕・手 | 片側へ体重を乗せ、反対の手を前へ伸ばせるか |
| 胸郭 | 上半身が一塊で動かず、左右へ少し回旋できるか |
| 骨盤 | 左右へ移動し、脚を運ぶための空間を作れているか |
| 股関節・膝・足 | 両脚に曲げ伸ばしや床への接触が見られるか |
| 進行方向・変化 | 毎回同じ方向へ曲がるか、床や速度で動き方が変わるか |

研究からわかるのは、「一つの形だけが正解ではない」ということ。
WHOの研究:5か国の健康な乳幼児816名では、手と膝で進むハイハイの獲得時期は5.2〜13.5か月と幅があり、4.3%は手膝ハイハイを経験しませんでした。これは手膝ハイハイの時期と順序に正常なばらつきがあることを示します。
ハイハイ様式の研究:乳児は手と膝、手と足、三肢を中心に使う形など、異なる様式でも一定の支持時間と手足の協調を保つことが報告されています。形の違いだけでなく、全身の協調を見る必要があります。
うつ伏せ遊びの研究:16研究・4,237名をまとめたレビューでは、見守り下のうつ伏せ遊びは、粗大運動や腹ばいでの移動、寝返りなどと正の関連がありました。ただし研究の多くは観察研究で、片足ずりばいを特定の遊びで矯正できることを示したものではありません。
CDCの9か月マイルストーンでは、支えなしで座る、自分で座位になるといった全体の運動発達が示され、ハイハイそのものは必須項目として挙げられていません。マイルストーンは発達を話し合う材料であり、標準化された発達評価の代わりではありません。
家庭では、足を動かすより「動きたくなる条件」を作ります。
家庭での目的は、完成した左右対称のずりばいを教えることではありません。赤ちゃんが自分から見て、手を伸ばし、体重を移し、試行錯誤できる時間を作ることです。睡眠時は仰向けを守り、うつ伏せ遊びは起きていて大人が見守れる時間に行います。
避けたい関わり
| 避けたいこと | 理由 |
|---|---|
| 使っている足を押さえる | 移動そのものを失敗させ、試す意欲を下げることがあります |
| 反対の足を強く押す | 本人の体重移動を伴わず、痛みや強い抵抗につながる可能性があります |
| 完成形を何度も動かして教える | 自分で支持と重心移動を組み立てる経験になりにくいためです |
| 骨盤のゆがみと自己判断する | 骨盤、体幹、腕、脚、環境のどこが関係するかは見た目だけでは分かりません |
| 痛がる動きを続ける | 痛み、腫れ、急な運動低下がある場合は家庭練習より医療相談を優先します |

様子を見やすい状態と、相談したい状態。
| 経過を見やすい状態 | 健診・小児科へ相談したい状態 |
|---|---|
| ずりばいを始めたばかりで、動き方を試している | 数週間の経過でも動き方がほとんど変わらない |
| 仰向けでは両脚をよく動かす | 仰向けでも片脚をほとんど動かさない |
| 玩具、床、速度によって使い方が変わる | 環境を変えても常に同じ側を引きずる |
| 左右どちらにも寝返りやリーチが見られる | 寝返り、手の使用、座位移行にも同じ左右差がある |
| 痛みや嫌がる様子がなく、動きの種類が増えている | 痛み、腫れ、発熱、急な片側不使用、できていた動きの減少がある |

専門的に評価すると、左右差を「原因名」ではなく「動きの条件」へ分けられます。
保護者の「片足しか使わない」という言葉には、脚を動かしにくい、反対側へ体重を乗せにくい、腕で支えにくい、同じ方向ばかり見ている、床との摩擦が合っていないなど、異なる状態が含まれます。評価では、ずりばいを一つの完成動作として見るのではなく、視線、支持、重心移動、体幹回旋、脚の接地へ分けます。
| 保護者の気づき | 評価で確認すること | 整理できること |
|---|---|---|
| 片足でしか蹴らない | 両脚の自発運動、股関節・膝の曲げ伸ばし、足部接触 | 脚そのものの差か、支持と重心移動の差か |
| 反対の足を引きずる | 前腕支持、胸郭回旋、骨盤移動、進行方向 | 動かす側より、支える側がボトルネックか |
| 毎回同じ方向へ曲がる | 視線、頭の向き、玩具位置、左右のリーチ | 環境で変わる偏りか、持続する身体差か |
| 家と外で動きが違う | 床面、衣服、速度、疲労、覚醒状態 | 環境調整で変えられる条件があるか |
| 他姿勢でも同じ側を使わない | 寝返り、座位移行、手の使用、全身の筋緊張や反応 | 健診・小児科など医療評価へつなぐ必要性 |
診断や医学的な確認は健診・医療機関が担います。STROKE LABでは、普段の動画と実際の動きを照合し、左右差がどの姿勢と環境で現れるかを整理します。
月齢より、「今どんな準備が増えているか」を見ます。
以下は診断基準ではなく、姿勢と移動の準備を観察するための目安です。早産で生まれた赤ちゃんは、原則として修正月齢も考慮します。発達には個人差があり、月齢だけで早い・遅いを判断しません。
| おおよその時期 | 増えてくる動きの例 | 左右差を見るポイント |
|---|---|---|
| 5〜7か月頃 | 前腕支持、左右へのリーチ、寝返り、腹ばいでの方向転換 | 左右の腕へ体重を預けられるか |
| 7〜9か月頃 | 腹ばい移動、座位の安定、座位へ移ろうとする動き | 移動方法が少しずつ増えるか、他姿勢では両側を使うか |
| 9〜11か月頃 | 手膝位、座位と腹ばいの移行、つかまり立ちの準備 | 左右への移行と支持脚が固定していないか |
| 11〜13か月頃 | つかまり立ち、伝い歩き、さまざまな移動方法の併用 | 立位でも同じ脚へ極端に偏るか、痛みや退行がないか |
健診や相談で伝えたい7項目。
動画は、赤ちゃんを動かそうとせず、普段遊んでいる様子を撮ります。ずりばいだけでなく、仰向け、寝返り、うつ伏せで手を伸ばす場面もあると、姿勢をまたいだ左右差を確認しやすくなります。
よくある質問。
STROKE LABの小児リハビリ。
STROKE LAB(東京・大阪)では、乳児の動きを「できる・できない」だけでなく、視線、支持面、体重移動、胸郭と骨盤の連動、手足の床接触へ分けて確認します。片足ずりばいを無理に左右対称へ直すのではなく、普段の動画と実際の動きを比べ、家庭で追える変化へ整理します。
診断、画像検査、股関節などの医学的評価は医療機関が担います。健診・主治医の判断を尊重しながら、生活と姿勢の側から併走します。
観察できる言葉へ。

赤ちゃんの左右差に気づくと、保護者の方は「何か見逃しているのでは」と不安になります。けれども、片足を使ったという一場面だけで、身体の状態を決めることはできません。
私たちは、足の動きだけでなく、その前に必要な支持と体重移動を丁寧に見ることを大切にしています。保護者の気づきを否定せず、医療へ伝える所見と家庭で見守れる変化に分けて整理します。
健診や小児科での確認とあわせて、普段の動きや家庭での関わりを整理したい方はご相談ください。
代表取締役 金子 唯史

動きを一つの筋肉だけで捉えず、姿勢、感覚、運動の連鎖から読み解くための専門書です。乳児の動きを局面へ分け、今育とうとしている機能を見る視点にもつながります。
- 首すわり・お座り・歩き始めが遅い|運動発達の遅れを神経の視点で見る
- 8か月でずりばいしない赤ちゃん|腹ばい移動の準備と家庭遊び
- 寝返りが片方向だけの赤ちゃん|左右差と体の使い方をどう見るか
- 片手を使わない赤ちゃん|左右差に気づいたときの相談目安
- Centers for Disease Control and Prevention. Milestones by 9 Months. 2026.
- WHO Multicentre Growth Reference Study Group. WHO Motor Development Study: Windows of achievement for six gross motor development milestones. Acta Paediatr Suppl. 2006;450:86-95.
- Patrick SK, Noah JA, Yang JF. Developmental constraints of quadrupedal coordination across crawling styles in human infants. J Neurophysiol. 2012;107(11):3050-3061.
- Hewitt L, Kerr E, Stanley RM, Okely AD. Tummy Time and Infant Health Outcomes: A Systematic Review. Pediatrics. 2020;145(6):e20192168.
- Novak I, Morgan C, Adde L, et al. Early, Accurate Diagnosis and Early Intervention in Cerebral Palsy. JAMA Pediatr. 2017;171(9):897-907.
- American Academy for Cerebral Palsy and Developmental Medicine. Early Detection of Cerebral Palsy Care Pathway.
- 金子唯史.脳の機能解剖とリハビリテーション.医学書院;2024.408頁.

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)