子どもの脳梗塞・脳出血|小児の脳卒中とその後のリハビリを専門家が解説
子どもの脳梗塞・脳出血|育ちながら変わる回復を、専門家が見る
「まさか子どもが脳卒中なんて」——その驚きと不安は、当然のものです。子どもの脳卒中は大人とは原因が大きく違い、後遺症の見え方も、成長とともに変わっていきます。だからこそ、一度の評価で決めず、機能解剖と動作分析で「今どの動きが育とうとしているか」を見続けることが大切です。原因から、後遺症、そしてリハビリまでを整理します。

子どもにも、脳卒中は起きる。
ある日突然、片側の手足が動きにくくなる。顔がゆがむ、言葉が出ない、けいれんを起こす。脳卒中は高齢者の病気だと思っていた保護者にとって、わが子の診断は大きな衝撃です。なぜ起きたのか、これからどうなるのか、不安は尽きません。
でも、知ってほしいのです。子どもの脳卒中は大人とは違い、回復する力も高いということを。まずは、しくみと見通しを一緒に整理していきましょう。
脳卒中は、脳の血管が詰まる脳梗塞と、血管が破れる脳出血をまとめた呼び方です。大人に多い病気という印象がありますが、子どもにも起こります。数としては多くありませんが、起こったときの影響は大きく、後遺症が育ちや学びに関わることもあります。だからこそ、原因を知り、発症後の見方とリハビリを理解しておくことに意味があります。
STROKE LABの代表とスタッフは、大学病院などで多くの脳血管障害の臨床に携わってきました。この記事は、その臨床経験と、脳の機能解剖・動作分析の視点をもとに、保護者の方に向けて整理しています。診断や急性期の治療は医療機関が担い、私たちはその後の生活と動きの側から併走する立場です。
小児の脳卒中とは、大人と何が違うか。
小児の脳卒中には、血管が詰まる脳梗塞(動脈性虚血性脳卒中)と、血管が破れる脳出血があります。生まれる前後の時期に起こるもの(周産期脳卒中)と、乳児期以降に起こるものに分けられることもあります。大人の脳卒中と最も違うのは、原因です。大人で多い動脈硬化はほとんど関与せず、血管の壁そのものの異常や、感染・炎症・血液・心臓の要因が中心になります。
もうひとつの大きな違いが、発達の途中で起こるという点です。脳が育っている最中に損傷を受けるため、子どもの脳は組み替えて補う力(可塑性)が高い一方で、影響が運動・言葉・学習・行動として、あとから見えてくることもあります。この二面性が、小児の脳卒中を理解するうえでの鍵になります。
大人の脳梗塞は生活習慣による動脈硬化が背景にあることが多い一方、子どもでは血管の壁の異常(動脈症)が最も多い原因とされます。だから予防や再発の考え方も、大人とは変わってきます。原因の特定は、医療機関での画像・血液検査によります。

なぜ起きるのか、原因のマップ。
小児の脳卒中の原因は多彩で、複数が重なることもよくあります。原因がはっきりしないこともあります。ここでは代表的なものを整理します。なかでも血管の壁の異常(動脈症)が最も多く、再発とも関わりやすいとされ、注意が必要です。
| 原因のグループ | 具体例と補足 |
|---|---|
| 血管の壁の異常(動脈症) | もやもや病、巣状の脳動脈症、血管の解離など。小児で最も多い原因のグループ |
| 感染・炎症のあとの変化 | 水痘(みずぼうそう)のあとの血管の変化など。もともと健康な子にも起こりうる |
| 血液・固まりやすさ | 鎌状赤血球症、血が固まりやすい体質(血栓性素因)など |
| 心臓の病気 | 先天性・後天性の心疾患など。血のかたまりが脳へ飛ぶことがある |
| 血管の形の異常(出血系) | 脳動静脈奇形など。脳出血の原因になることがある |
なかでも、脳の太い血管が細くなり側副血行が発達するもやもや病は、子どもの脳卒中の重要な原因のひとつです。しくみや治療、リハビリの考え方は、専用の解説にまとめています。原因の特定と治療方針は、必ず医療機関での検査にもとづきます。

見逃さないための、サイン。
大人の脳卒中では、顔のゆがみ(Face)、腕の力の入りにくさ(Arm)、言葉の異常(Speech)に気づいたらすぐ受診(Time)という合言葉、FASTが知られています。子どもでも、これらは同じく大切なサインです。加えて子どもでは、強い頭痛や繰り返す嘔吐、けいれん、急な意識の変化も見逃せません。
急に片側の手足が動かしにくくなる、顔がゆがむ、言葉が出にくい・ろれつが回らない、強い頭痛や繰り返す嘔吐、けいれん、意識がぼんやりする——こうした変化があるときは、脳卒中の可能性を含めて、すぐに医療機関を受診してください。症状がすぐ戻ったように見えても、自己判断は避けてください。
子どもの脳卒中は、風邪やてんかんなど別の病気と間違われ、診断が遅れやすいと言われます。「いつもと明らかに違う」という保護者の直感は、大切な手がかりです。突然の片側の脱力や、繰り返す一時的な症状が気になるときは、子どもの脱力発作の解説もあわせてご覧ください。

STROKE LABの視点:運動麻痺を、動作分析で見る。
発症後にいちばん多く残るのが、片側の手足の麻痺(片麻痺)です。ここでSTROKE LABが大切にするのは、麻痺を「力が入るか入らないか」だけで見ないことです。どの関節が、どの順番で、どんな支えの上で動いているのかを、機能解剖と動作分析の視点でほどいていきます。手を伸ばす一つの動きにも、肩甲帯の安定、体幹の支え、目線、感覚の情報が関わっています。
そして子どもならではの視点が、時間です。子どもは発達の途中で損傷を受けるため、育ちながら症状の見え方が変わります。一度の評価で決めず、「今どの動きや力が育とうとしているか」を見続け、その芽を伸ばす関わりを選ぶ。大人の脳卒中の知見と、小児の発達の両方を持つからこそできる見方だと、私たちは考えています。片麻痺の具体的な見方と練習は、専用の解説で詳しく扱います。

研究でわかっていること。
米国心臓協会・米国脳卒中協会がまとめた新生児・小児の脳卒中に関する科学的声明では、小児の脳卒中は原因が多彩で、動脈症が主要な役割を果たすこと、そして急性期の対応からリハビリテーションまでの一貫した管理が重要であることが整理されています。運動麻痺に対しては、使いにくい手を集中的に使う練習など、機能を引き出す関わりが取り上げられています。
限界:小児の脳卒中は数が少なく、大人のような大規模な研究は限られます。効果や経過には個人差があり、年齢・発症部位・範囲によって結果は変わります。ここで扱う情報は、医療機関での診断・治療に代わるものではありません。
大切なのは、こうした研究を家庭にそのまま当てはめて自己判断しないことです。まずは医療機関での診断と方針を土台に、そのうえで生活と動きの側から何ができるかを、専門職と一緒に組み立てていきます。
専門リハで、取り組めること。
診断と急性期の治療が終わり、生活が再び始まってから、リハビリの出番が続きます。ここでは、専門リハで取り組めることを整理します。
発症後に大切なのは、苦手を並べることではなく、お子さんが「やりたい」と思う生活の場面から、動きを引き出していくことです。運動麻痺への働きかけは、大きく3つの方向から組み立てます。
1. 目標志向の課題ベース練習。コップを持つ、服の袖を通す、遊具をつかむといった、生活の中の具体的な「したい」を目標に据え、その動作そのものをくり返し練習します。ばらばらの運動ではなく、意味のある課題から組み立てます。
2. 使いにくい手を引き出す練習と、両手の協力。使いやすい手に頼りきる前に、使いにくい側の手を遊びの中で引き出す時間をつくり、そのうえで両手を一緒に使う動作へつなげます。年齢と好みに合わせて、無理なく遊びに溶け込ませます。
3. 家庭・学校プログラムと保護者コーチング。効果は、通う時間だけでなく毎日の反復で育ちます。家庭や学校で無理なく続けられる関わりを保護者・先生と一緒に設計し、生活の中に練習を溶け込ませます。
STROKE LABが大切にするのは、機能解剖と動作分析で「今育とうとしている動き」を見極め、生活の「したい」を起点に、十分な量の練習を、家庭や学校とつないで続けることです。効果や経過には個人差があり、発達の段階によって目標も変わります。診断・投薬・手術などの医学的判断は主治医の役割で、私たちは生活と動きの側から併走します。急な症状があるときは、まず医療機関へご相談ください。
片側の麻痺があるお子さんの上肢への練習をまとめた分析では、使いにくい手を集中的に使う練習や、両手を使う練習が、手の使い方の改善に役立ちうると報告されています。国際的なレビューでも、目標志向・課題ベース・十分な量の練習が、有効な方向として位置づけられています。
限界:多くの研究は脳性麻痺を含む子どもを対象にしたもので、上肢に比べ下肢の練習の根拠は限られます。効果には個人差があり、年齢・重症度・練習量で結果は変わります。決められた量や進め方には専門的な評価と指導が前提で、リハビリは医学的な治療の代わりではありません。

経過と、見通し。
見通しは、発症した場所や範囲、原因、年齢によって幅があります。手足の麻痺、言葉、飲み込み、注意や学習、気分などに影響が残ることがあります。一方で、子どもの脳は回復する力が高く、リハビリと環境の調整によって、できることが着実に広がっていく例も多くあります。
大切なのは、誇張も悲観もしない見通しです。長期的な課題があり得ることを見据えつつ、回復の可能性にも期待する。そして、成長とともに新しい力が育つ時期や、逆に課題が見えてくる時期があるので、節目ごとに見直し続けることが、子どもならではの関わり方です。脳腫瘍の手術後など、別の経過をたどるお子さんの機能回復については、専用の解説もご用意しています。

家庭・学校でできる関わり。
リハビリの時間だけで力が育つわけではありません。毎日の生活の中で、使いにくい側の手足を自然に使う場面をつくることが、いちばんの練習になります。着替え、食事、遊び、学校の活動の中に、無理のない範囲で「使う機会」を溶け込ませます。
同時に、できたことを一緒に喜び、無理をさせすぎないことも大切です。学校とは、疲れやすさ、書字や体育での配慮、休憩の取り方などを共有しておくと、お子さんが安心して過ごせます。家庭・学校での関わり方は、専門職と一緒に、その子に合わせて具体化していきましょう。

STROKE LABでは、姿勢・筋緊張・感覚・左右差・手足の使い方まで含めて、お子さんの動きを丁寧に確認します。医療機関でのリハビリとあわせて、生活の中での関わり方を整理したい方は、小児リハビリのページもご覧ください。
よくある質問。
Q. 子どもでも脳梗塞や脳出血になるのですか?
Q. 子どもの脳卒中は、なぜ起きるのですか?
Q. 後遺症は残りますか?どのくらい回復しますか?
Q. リハビリでは何をするのですか?
Q. 成長とともに症状は変わりますか?
Q. どんなときに、急いで受診すべきですか?
STROKE LABの小児リハビリ。
STROKE LAB(東京・大阪)は、脳卒中を中心とする神経疾患専門の自費リハビリ施設です。代表・スタッフは大学病院などで多くの脳血管障害の臨床に携わってきました。お子さんの脳卒中後の運動麻痺を、機能解剖と動作分析の視点でほどき、生活の「したい」を起点に、家庭・学校とつないで続け方を設計します。診断・急性期の治療は主治医を尊重し、生活と動きの側から併走します。医療機関でのリハビリとの併用も歓迎です。急な症状があるときは、まず医療機関へご相談ください。
育ちに寄り添う関わりへ。

わが子の脳卒中という現実は、言葉にできないほどの重さがあります。私たちは大学病院などで、多くの脳血管障害のお子さんとご家族に出会ってきました。
お伝えしたいのは、子どもの脳は育つ力を持ち、その力を運動の側から支えられるということです。麻痺を機能解剖と動作分析でほどき、今育とうとしている動きを見つけ、生活の「したい」につなげていきます。
医療機関での治療とあわせて、家庭・学校での関わりを整理したい方は、どうぞ一度ご相談ください。お子さんの育ちに寄り添いながら、一緒に組み立てます。
代表取締役 金子 唯史

脳の領域別の働きから、臨床で行うリハビリテーション方法を提案する専門書です。運動麻痺を「動かない」で終わらせず、姿勢・感覚・運動の連鎖として見る視点は、お子さんの回復を支えるうえでも土台になります。
- 子どものもやもや病|原因・症状・治療とリハビリの考え方
- 子どもの片麻痺|手足の麻痺の見方と、リハビリの実際
- 子どもの脱力発作|繰り返す一時的な脱力をどう見るか
- 子どもの脳腫瘍術後のリハビリ|機能回復の考え方
本記事は、国内外の公的情報・診療ステートメントと、STROKE LABの臨床経験および下記書籍の枠組みをもとに構成しています。診断・治療に代わるものではありません。お子さんの状態についての判断は、必ず主治医・小児科医にご相談ください(最終確認日:2026年7月6日)。
- Ferriero DM, et al. Management of Stroke in Neonates and Children: A Scientific Statement From the American Heart Association/American Stroke Association. Stroke. 2019;50(3):e51-e96.(小児脳卒中の原因・管理・リハビリの国際的まとめ。第1エビデンスボックスの出典)
- Sakzewski L, et al. Efficacy of upper limb therapies for unilateral cerebral palsy: a meta-analysis. Pediatrics. 2014;133(1):e175-204.(片側麻痺の上肢介入。第2エビデンスボックスの出典)
- Novak I, et al. State of the Evidence Traffic Lights 2019: Systematic Review of Interventions for Preventing and Treating Children with Cerebral Palsy. Curr Neurol Neurosci Rep. 2020;20(2):3.(目標志向・課題ベース・十分量の練習を有効と位置づけ)
- 金子唯史:脳の機能解剖とリハビリテーション.医学書院,2024,408頁。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)