姿勢連鎖とは|「体幹を鍛える」の先にある、動きの土台の考え方
姿勢連鎖とは|「体幹を鍛える」の先にある、動きの土台の考え方
腹筋や背筋を鍛えているのに、歩き方が変わらない。姿勢をまっすぐにしようとすると、かえって動きが硬くなる。そんなときに大切なのが、身体を一つのつながりとして見る姿勢連鎖の考え方です。体幹を“固める”のではなく、足・骨盤・胸郭・肩甲帯・頭頸部が連動して動く土台を整えていきます。

体幹を鍛えても、動きが変わらない理由。
リハビリや自主トレで腹筋・背筋を鍛えている。プランクもできるようになった。それでも、歩くと麻痺側に体重が乗らない、立ち上がるときに腰が引ける、手を伸ばすと肩に力が入る。
こうした場面では、単に筋力が足りないのではなく、体幹が生活動作の中で使える形につながっていない可能性があります。
「体幹を鍛えましょう」という言葉は、リハビリや運動指導の中でよく使われます。もちろん体幹は大切です。しかし、腹筋や背筋だけを強くしても、歩行・立ち上がり・手を伸ばす動作が変わらないことがあります。
なぜなら、実際の動作では体幹だけが単独で働くわけではないからです。足裏が床をとらえ、骨盤が向きを変え、胸郭が回旋し、肩甲帯が腕を支え、頭と目が進行方向を先取りする。これらが連なって働くことで、はじめて「動ける姿勢」が生まれます。
この身体のつながりを考える視点が、この記事のテーマである姿勢連鎖です。
姿勢連鎖とは。
姿勢連鎖とは、身体の一部だけを見るのではなく、足部・膝・股関節・骨盤・体幹・胸郭・肩甲帯・頭頸部・上肢が互いに影響し合いながら、姿勢と動作を作っていると考える視点です。
たとえば、足首が硬くて床を押せないと、膝や股関節の動きが変わります。骨盤が後ろに倒れると、胸郭が丸まり、肩甲骨が前に出て、手を上げにくくなることがあります。反対に、胸郭が動きやすくなることで、肩の動きや歩行時の腕振りが変わることもあります。

リハビリで見るべき姿勢は、写真のように静止した形だけではありません。次に手を伸ばす、立ち上がる、一歩を出す、方向転換する。その動きに向けて、身体がどのように準備しているかを見ることが大切です。
体幹は、固める場所ではありません。
体幹というと、腹筋に力を入れてお腹を固めるイメージを持つ方が多いかもしれません。しかし、生活動作の中で必要な体幹は、ただ固いだけでは不十分です。むしろ必要なのは、状況に応じて「支える」「ゆるむ」「回る」「傾く」「戻る」を切り替える力です。
たとえば歩くとき、体幹がまったく動かなければ、骨盤や胸郭の回旋が出にくくなり、足を前に出しにくくなります。手を伸ばすときも、体幹を過剰に固めると肩がすくみ、手先の操作がぎこちなくなります。
姿勢連鎖をつくる5つの要素。
姿勢連鎖を理解するときは、「体幹が強いか弱いか」だけでなく、どの要素が動作の中で途切れているのかを見ることが大切です。STROKE LABでは、主に次の5つの視点から評価します。

足裏が床をとらえ、体重を受け止めることで、膝・股関節・骨盤の動きが始まります。足部が不安定だと、体幹をいくら鍛えても重心が乗りにくくなります。
骨盤は上半身と下半身をつなぐ中心です。骨盤が後ろに倒れすぎる、左右に引ける、回旋できない状態では、立ち上がりや歩行の連鎖が途切れやすくなります。
体幹と胸郭は、姿勢を支えるだけでなく、呼吸や回旋にも関わります。歩行やリーチでは、胸郭のわずかな回旋が肩甲帯や骨盤の動きに影響します。
肩甲帯が安定すると、手を伸ばす、物を持つ、支えるといった上肢動作が行いやすくなります。肩だけを動かすのではなく、胸郭・骨盤とのつながりが重要です。
人は動く前に、視線や頭の向きで進行方向を予測します。方向転換やリーチでは、目線の先行、頭頸部の向き、体幹の準備が連鎖のスタートになります。

— 動作の中で、どこから連鎖が途切れているかを見ます
STROKE LABでは、筋力だけでなく、足部支持・骨盤の向き・胸郭の回旋・肩甲帯の安定・視線の先行まで含めて、生活動作を分析します。歩行や上肢の悩みを、身体全体の連鎖から整理します。
歩行における姿勢連鎖。
歩行は、足だけの運動ではありません。一歩を出す前に、反対側の足で体を支え、骨盤がわずかに回旋し、胸郭と肩甲帯がバランスを取り、視線が進行方向を先取りします。この連鎖がうまく働くことで、足は軽く前に出ます。

| 歩行で見える問題 | 姿勢連鎖の視点 | 確認したいこと |
|---|---|---|
| 麻痺側に体重が乗らない | 足部支持・骨盤の側方移動が途切れている | 足裏で床を感じられるか、骨盤が逃げていないか |
| 足が前に出にくい | 骨盤回旋・股関節の伸展が不足している | 後ろ足で床を押せているか、骨盤が固まっていないか |
| 腕が振れない | 胸郭と肩甲帯の回旋連鎖が出にくい | 肩だけでなく、胸郭が回っているか |
| 方向転換が怖い | 視線・頭頸部・体幹回旋の準備が遅れる | 目線が先に向けているか、体幹が一緒に回れるか |
上肢・手における姿勢連鎖。
手のリハビリでは、指や手首だけに注目しがちです。しかし、手を自由に使うためには、肩甲骨が胸郭の上で安定し、体幹が倒れすぎず、骨盤が座面を支えている必要があります。手先の不器用さや肩のこわばりは、体幹・胸郭・肩甲帯の連鎖不全として現れることがあります。

麻痺側の手を使おうとすると、肩がすくむ、肘が曲がる、手指が握り込む。こうした場面では、手指だけを開こうとするより、肩甲骨が胸郭の上で前方へ滑れるか、体幹が支えながらリーチ方向へ重心を送れるかを確認します。
脳卒中・パーキンソン病で崩れやすい点。
脳卒中やパーキンソン病では、筋力低下だけでなく、姿勢の準備、重心移動、身体の回旋、感覚入力の使い方が変化します。そのため、姿勢連鎖のどこが途切れているかを見ないまま、筋力トレーニングだけを続けても、生活動作につながりにくいことがあります。
| 疾患・状態 | 崩れやすい姿勢連鎖 | 生活で見られやすい困りごと |
|---|---|---|
| 脳卒中・片麻痺 | 麻痺側足部支持、骨盤側方移動、胸郭回旋、肩甲帯の前方化 | 歩行時の傾き、反張膝、手のこわばり、更衣やリーチの困難 |
| パーキンソン病 | 体幹回旋の小ささ、重心移動の小ささ、動き出しの準備の遅れ | 小刻み歩行、方向転換の不安、腕振りの減少、立ち上がりの遅さ |
| 加齢・廃用 | 足部感覚、股関節伸展、胸郭可動性、視線の先行 | つまずき、ふらつき、階段や坂道への不安、歩幅の低下 |
膝が反るから膝だけを直す、手が硬いから手だけをほぐす、足が出ないから足だけを鍛える。このように局所だけを見ると、連鎖の背景を見落とすことがあります。症状のある場所だけでなく、その前後の関節や姿勢の準備を一緒に見ていくことが大切です。
自宅でできる観察ポイント。
自宅では、難しい専門用語を覚える必要はありません。大切なのは、日常動作の中で「どこから崩れるか」「どこで力が入りすぎるか」を見ることです。次のような場面を観察してみてください。
立ち上がるとき、足裏が床についているか。骨盤が後ろに倒れたまま、腕で引っ張って立っていないかを見ます。
歩き出すとき、目線が下ばかりになっていないか。体重が片側に逃げていないか、歩幅が左右で大きく違わないかを見ます。
手を伸ばすとき、肩がすくむ、息を止める、体が後ろへ逃げるといった反応がないかを見ます。

| 場面 | 見たいポイント | 気をつけたいサイン |
|---|---|---|
| 立ち上がり | 足裏、骨盤前傾、体幹前方移動 | 腕で引っ張る、腰が引ける、片側へ逃げる |
| 歩き出し | 視線、支持脚、骨盤の側方移動 | 一歩目が出ない、すくむ、足元ばかり見る |
| 手を伸ばす | 座位支持、胸郭、肩甲帯、手の方向 | 肩がすくむ、息を止める、体が後ろへ逃げる |
注意したいトレーニング。
姿勢連鎖の視点では、トレーニングの目的は「筋肉を疲れさせること」ではなく、「動作の中で使える連鎖を再学習すること」です。以下のような練習は、状態によっては動作を硬くしてしまうことがあります。
自主トレは大切ですが、方法が身体に合っていないと、代償運動が強くなったり、余分な緊張を学習してしまうことがあります。不安がある場合は、専門家に動作を見てもらい、目的と方法を整理することをおすすめします。
よくある質問。
足部、骨盤、体幹、胸郭、肩甲帯、頭頸部が互いに影響し合いながら、立つ・歩く・手を伸ばすなどの動作を支えるつながりのことです。身体をパーツではなく、ひとつの動きとして見る考え方です。
体幹トレーニング自体は重要です。ただし、腹筋や背筋だけを単独で鍛えるより、立ち上がり、歩行、リーチなど実際の動作の中で体幹がどう働くかを見ることが大切です。
足裏で床を押せているか、骨盤が左右に逃げていないか、胸郭が回旋しているか、視線が進行方向を向いているかを見ます。足だけでなく、上半身と下半身のつながりを確認します。
関係します。手を伸ばすには、肩甲帯が胸郭の上で安定し、体幹と骨盤が支えになる必要があります。手指だけを練習しても変化が少ない場合、座位姿勢や肩甲帯の連鎖を確認することがあります。
歩行、立ち上がり、リーチ、更衣などの生活動作の中で、足部支持、骨盤、体幹、胸郭、肩甲帯、視線の連鎖を評価します。そのうえで、身体に合った介入と自主トレを提案します。
STROKE LABの姿勢連鎖リハビリ。
STROKE LABでは、脳卒中・パーキンソン病・神経疾患後の動作を、局所の筋力だけでなく、身体全体の姿勢連鎖として評価します。歩行であれば、足部支持、骨盤の動き、胸郭の回旋、腕振り、視線の方向を確認します。上肢であれば、手指だけでなく、肩甲帯、胸郭、骨盤、座位姿勢まで見ていきます。

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身体全体のつながりから見直します。

体幹を鍛えることは大切です。しかし、生活動作の中で本当に必要なのは、体幹を固めることではなく、足・骨盤・胸郭・肩甲帯・視線がつながり、目的の動作に向かって働くことです。
STROKE LABでは、動作を細かく観察し、どこで連鎖が途切れているのかを分析します。「鍛えているのに変わらない」理由を、身体全体のつながりから一緒に整理していきます。
歩行、立ち上がり、手の使いにくさ、姿勢の崩れでお悩みの方は、どうぞお気軽にご相談ください。
代表取締役 金子 唯史
参考と注意書き。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療に代わるものではありません。脳卒中、パーキンソン病、神経疾患後の姿勢・歩行・上肢機能については、必ず主治医や理学療法士・作業療法士などの専門職にご相談ください。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)