ボタン・ひも結びができない|手先の不器用さを分解して育てる
ボタン・ひも結びができない|手先の不器用さを分解して育てる
「何度教えてもボタンが留められない」「靴ひもになると急に手が止まる」——それは、本人のやる気や努力不足ではなく、姿勢・両手協調・指先の感覚・運動の順序立てがまだ育ちきっていないサインかもしれません。ボタンとひも結びを、運動発達の視点から分解して考えます。

こんな場面で、困ります。
年長になっても、シャツのボタンを留めるところで手が止まる。急いでいる朝は、つい大人が手伝ってしまう。本人も「できない」「むずかしい」と言い、着替えの前から表情が曇ってしまう。
小学校に入ると、靴ひも、体操服の着替え、ランドセルの準備、給食袋のひもなど、手先と両手を使う場面が一気に増えていきます。
ボタンやひも結びが苦手だと、「不器用」「練習不足」「集中していない」と見られがちです。しかし、実際には一つの動作の中に、いくつもの機能が同時に必要になります。ボタンを片手でつまみ、もう片方の手で布を引き、穴の位置を見て、指先の感覚を頼りに押し込む。ひも結びでは、左右の手で違う動きをしながら、輪を作り、交差させ、通して、引き締める必要があります。
つまり、ボタンやひも結びは、子どもの運動発達の中でもかなり複雑な課題です。この記事では、「できる・できない」だけでなく、どの工程で、どの機能がつまずいているのかを分解して考えていきます。
発達の目安と、個人差。
ボタン操作は、園児期から小学校入学前後にかけて徐々に育っていく生活動作です。一般的には、まず大きなボタンを外す、次に大きなボタンを留める、少しずつ小さなボタンや見えにくい位置のボタンへ進んでいきます。ひも結びはさらに工程が多く、左右の手を別々に使いながら順序を覚える必要があるため、ボタンよりも難しく感じる子が少なくありません。
| 時期の目安 | 見られやすい動き | 大人の関わり |
|---|---|---|
| 3〜4歳頃 | 大きなボタンを外す、簡単な着脱を手伝いながら行う | 急がせず、見えやすい位置・大きいボタンから始める |
| 4〜5歳頃 | 一部のボタンを留める、クレヨンや鉛筆を指で持つ動きが増える | 「最後の1個だけ自分で」など成功しやすくする |
| 年長〜小学校低学年 | ひも結び、袋のひも、制服や体操服の着替えが課題になりやすい | 細いひもではなく、太いひも・色違いのひもで工程を見える化する |
※年齢はあくまで目安です。服の種類、靴の種類、家庭や園での経験量、本人の興味、身体機能によって大きく変わります。
同じ5歳でも、すぐにボタンができる子もいれば、布を持つところで苦戦する子もいます。大切なのは、年齢だけで判断することではなく、姿勢、手の使い分け、指先の感覚、順序の理解がどこまで育っているかを見ることです。
手先だけの問題ではありません。
ボタンやひも結びをするとき、私たちは指先だけを使っているように見えます。しかし実際には、体幹で姿勢を保ち、肩甲帯や肘で腕を安定させ、左右の手に違う役割を持たせ、目で位置を確認しながら、指先で細かな力を調整しています。

ボタン操作を分解する。
ボタン操作は、単に「穴に入れる」だけではありません。布を持つ、ボタンをつまむ、穴の向きを見る、ボタンの端を押し込む、反対側から引き出す。この一連の動きの中で、両手はまったく違う役割をしています。

| 工程 | 必要な力 | つまずきやすい様子 |
|---|---|---|
| 布を持つ | 支える手の安定、手首の固定、姿勢保持 | 布が逃げる、体が前後に揺れる、途中で手を離す |
| ボタンをつまむ | 親指・人差し指・中指の分離、力加減 | 指全体で握る、ボタンを落とす、爪先だけで押しつぶす |
| 穴を探す | 視線、手元への注意、左右の位置関係の理解 | 穴とボタンの位置が合わない、見ずに押し込もうとする |
| 押し込む | 指先の圧、手首の角度、布を引くタイミング | 力が弱くて入らない、強すぎて布が丸まる |
| 引き出す | 反対側の指で探る、つまみ直す、引く方向の調整 | 途中まで入るが最後に抜ける、引く方向が分からない |
最初から制服の小さなボタンで練習すると、難易度が高すぎて失敗体験になりやすいです。まずは大きなボタン、硬すぎない布、見えやすい色、机の上に置いた練習布などで、成功しやすい条件を作りましょう。

— できない理由を、動作ごとに分けて確認します
STROKE LABでは、手先だけでなく、体幹・肩甲帯・手関節・両手協調・感覚・運動計画まで含めて評価します。お子さんの生活動作が楽になるように、家庭での関わり方も一緒に整理します。
ひも結びを分解する。
ひも結びは、ボタンよりさらに工程が多い動作です。左右のひもを交差する、片方をくぐらせる、輪を作る、輪を押さえる、もう片方のひもを回す、穴に通す、左右に引く。この一連の流れを、目で見ながら、両手で違う動きをして、順序通りに行う必要があります。

左右のひもを見分け、どちらを上にするかを決めます。ここでは、左右の理解と、目で位置を追う力が必要になります。
片手で輪を作り、その形を崩さずに押さえます。指先の力加減と、片手を動かさず保つ力が必要です。
もう片方のひもを輪の周りに回し、できた穴に通します。ここは空間の理解、順序の記憶、両手の協調が特に難しくなります。
左右の輪を同じタイミングで引き、形を整えます。最後の引き締めは、両手の力のバランスが必要になります。
つまずき別に、見方を変える。
同じ「ボタンができない」「ひもが結べない」でも、つまずいている場所は子どもによって違います。大人が「できない」と一括りにしてしまうと、必要な支援が見えにくくなります。下の表のように、どのタイプに近いかを観察してみてください。
| 見られる様子 | 考えられる背景 | 支援の方向性 |
|---|---|---|
| すぐ姿勢が崩れる | 体幹・骨盤・肩甲帯の安定不足 | 椅子と足台を調整し、机上で練習する |
| 片手しか使わない | 両手の役割分担が未熟 | 「左手で持つ・右手で通す」など役割を言語化する |
| 力が強すぎる・弱すぎる | 指先の感覚・固有感覚の調整が難しい | 大きい道具、抵抗感のある素材で力加減を学ぶ |
| 順番を忘れる | 運動計画・記憶・注意の負荷が高い | 写真カードや4工程の絵で見通しを作る |
| できる日とできない日の差が大きい | 疲労、注意、感情、環境の影響 | 朝の忙しい時間を避け、短時間で成功体験を作る |
DCD・発達特性との関係。
ボタンやひも結びの苦手さが強く、着替え、書字、はさみ、運動遊びなど生活の複数場面で困りごとが続く場合、発達性協調運動症、いわゆるDCDが関係していることがあります。DCDは、知的な理解とは別に、体の動かし方や新しい運動技能の学習が難しくなる状態です。
ただし、不器用に見えることだけでDCDと決めることはできません。視力、神経・筋肉の病気、脳性麻痺、関節の柔らかさ、注意の問題、経験不足など、似た困りごとを生む要因は複数あります。診断は医師や専門職による評価が必要です。
本人はふざけているのではなく、手順が分からない、体が安定しない、力加減がつかめない、見ながら手を動かすことが難しいなど、何らかの理由で困っている可能性があります。責める前に、動作を分解して見てみましょう。
家庭でできる支援。
家庭での練習は、長時間行うよりも、成功しやすい条件で短く行う方が効果的です。特に、朝の忙しい時間に練習すると、親子ともに焦りやすくなります。練習は、時間に余裕のある夕方や休日に、遊びの中で取り入れるのがおすすめです。

まずは、服を着た状態ではなく、机の上に置いた練習用の布でボタンを扱います。手元が見えやすく、体も安定するため、成功しやすくなります。
ひも結びは、左右で色の違う太いひもを使うと、どちらのひもを動かすかが分かりやすくなります。最初から靴で行わず、机上で工程だけを練習しましょう。
「全部やって」ではなく、「今日は輪を作るところまで」「最後に引っ張るところだけ」など、一つの工程に絞ると、子どもは達成感を得やすくなります。
椅子に深く座り、足が床や足台につくようにします。体がぐらつくと、手先の操作に集中しにくくなります。
大きなボタン、太いひも、硬すぎない布、色の違うひもを使います。難易度を下げることは甘やかしではなく、学習の入口です。
「つまむだけ」「穴に入れるだけ」「最後に引くところだけ」など、練習する工程を限定します。全部を一度に求めないことが大切です。
「今、左手で布を持てたね」「輪をつぶさずに持てたね」と具体的に伝えます。本人が何をできたのか分かると、次の練習につながります。
園・学校での支援。
園や学校では、限られた時間の中で着替えや準備をするため、手先の不器用さが目立ちやすくなります。本人が困っている場合、無理に周囲と同じペースを求めるよりも、環境調整によって参加しやすくすることが大切です。
練習してできる力を育てることは大切です。一方で、毎日の生活で困りすぎないように、面ファスナーの靴、ボタンの少ない服、着替え時間の余裕、手順カードなどを使うことも重要です。
| 困りごと | 調整の例 | 育てたい力 |
|---|---|---|
| 着替えに時間がかかる | 少し早めに始める、最初のボタンだけ手伝う | 工程の見通し、成功体験 |
| 靴ひもがほどける | 必要時は面ファスナー靴、結ばない靴ひもを併用 | 両手協調、ひもの引き締め |
| 周囲に見られて焦る | 人前での練習を避け、個別に練習時間を作る | 安心感、自信、挑戦する気持ち |
相談の目安。
ボタンやひも結びが苦手でも、生活上大きな困りごとがなく、少しずつ上達しているなら、焦る必要はありません。一方で、日常生活や学校生活に影響が出ている場合は、早めに相談することで、本人に合った支援方法を見つけやすくなります。
相談先としては、まずかかりつけの小児科、自治体の発達相談、園や学校の先生、必要に応じて作業療法士・理学療法士などが挙げられます。相談時には、できない場面だけでなく「どんな条件ならできるか」「どの工程で止まるか」をメモや動画で残しておくと、支援方針が立てやすくなります。
よくある質問と、STROKE LABの支援。
ボタンができないことだけで発達障害やDCDと判断することはできません。年齢、経験量、服の形、姿勢、両手の使い方、指先の感覚、注意、視覚の使い方などを合わせて見る必要があります。
毎日長く行う必要はありません。短時間で、できる工程だけを練習する方が続きやすいです。朝の忙しい時間ではなく、余裕のある時間に、太いひもや色違いのひもを使って行うとよいでしょう。
全部を大人が行うのではなく、本人ができる部分を残すことが大切です。たとえば、ボタンを穴に入れるところまでは大人が手伝い、最後に引き出すところだけ本人が行うなど、成功しやすい形に調整します。
手指だけでなく、姿勢、肩甲帯、手関節、両手協調、感覚、視覚運動、運動計画を含めて確認します。ボタンやひも結びそのものだけでなく、書字、はさみ、箸、遊び、着替えなど生活全体の中で支援方法を考えます。
STROKE LABは、脳卒中をはじめとする神経リハビリで培った運動分析の視点をもとに、小児の姿勢・運動・生活動作の支援も行っています。ボタンやひも結びのような細かな生活動作も、体の土台から分解して見ることで、子どもに合った練習方法が見つかりやすくなります。

育て方が変わります。

ボタンやひも結びができないとき、子ども本人も「自分だけできない」と感じ、挑戦する前から苦手意識を持ってしまうことがあります。
私たちは、できない動作を責めるのではなく、なぜ難しいのかを運動のしくみから丁寧に分解することを大切にしています。
お子さんの手先の不器用さや生活動作で気になることがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。
代表取締役 金子 唯史
参考と注意書き。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療に代わるものではありません。お子さんの状態についての判断は、必ず小児科医、発達相談、作業療法士・理学療法士などの専門職にご相談ください。発達の目安には個人差があり、道具や経験量によっても変わります。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)