MoCA(モントリオール認知評価)完全解説|評価方法・採点基準・カットオフ値をわかりやすく解説 – STROKE LAB 東京/大阪 自費リハビリ | 脳卒中/神経系
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MoCA(モントリオール認知評価)完全解説|評価方法・採点基準・カットオフ値をわかりやすく解説

MMSEで正常なのに、なんとなく気になる認知機能の低下…
軽度認知障害(MCI)を見落とさないためにどう評価すればいいのか
そんな臨床の悩みに応えるために

開発されたのがMoCA(Montreal Cognitive Assessment)です。
8つの認知領域を網羅的にカバーする世界標準の認知機能スクリーニングツールを、
臨床で使いこなすために完全解説します。

10〜15
分で完了
特別な機器不要
30
点満点
26点以上が健常
8
認知ドメイン
を網羅評価
90%
MCI検出感度
(原著論文より)
50+
言語版あり
国際標準ツール

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  • 全11評価項目の実施手順
  • カットオフ値一覧
  • MoCA vs MMSE 比較表
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MoCA(Montreal Cognitive Assessment)とは?

MoCA(モントリオール認知評価)は、軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)の早期検出を主な目的として開発された認知機能スクリーニングツールです。カナダのモントリオールにあるマクギル大学のZiad Nasreddine博士らによって開発され、2005年に国際的な学術誌に発表されました(Nasreddine et al., J Am Geriatr Soc, 2005)。

MoCA開発の背景には、当時広く普及していたMMSE(Mini-Mental State Examination)の限界がありました。MMSEは重度の認知症の評価には有用ですが、「正常な高齢者」と「軽度認知障害のある高齢者」を区別する感度が低く、MCIを見落とすリスクが高いことが指摘されていました。MoCAはこの感度の問題を解決するために、より広い認知ドメインをより高い難易度で評価できるよう設計されています。

MoCA(モントリオール認知評価)

MoCAの基本スペック:
・評価項目数:11項目(8つの認知ドメイン)
・スコア範囲:0点〜30点(26点以上=健常範囲)
・所要時間:約10〜15分
・特別な機器:不要(検査用紙と鉛筆のみ)
・教育年数補正:12年以下の場合+1点
・対象:脳卒中後遺症、認知症疑い、MCI、パーキンソン病、多発性硬化症など
・言語版:50以上の言語に翻訳・標準化されている国際標準ツール

MoCAが評価する8つの認知ドメイン

MoCAはMMSEが十分にカバーしていなかった認知機能の領域を幅広く評価できるよう設計されています。

🗺️
視空間・実行機能

立方体の模写、時計描画、Trail Makingによる視覚・空間・実行系の評価

🦁
命名

動物3種(ライオン・サイ・ラクダ)の呼称。語彙・意味記憶の評価

👁️
注意・集中

数唱(順唱・逆唱)、ビジランス課題、100からの引き算

💬
言語

文章の復唱(2文)と語頭流暢性(「か」で始まる語)

🧩
抽象的思考

概念の類似性(電車と自転車、ものさしと時計)

🧠
遅延再生(記憶)

5単語の自由再生(手がかりなし)。エピソード記憶の核心的評価

📍
見当識

日付・曜日・月・年・場所・建物名(計6項目)

⚙️
実行機能

Trail Making(注意の転換)と計算(100−7の連続減算)

📊 MoCAの感度・特異度(原著論文より)

Nasreddine et al.(2005)の原著研究では、カットオフ値を26点に設定した場合、MCIの検出感度90%・特異度87%を報告しています。一方、同研究でMMSEのMCI検出感度は18%にとどまり、MoCAがMMSEを大幅に上回ることが示されました。軽度アルツハイマー病に対しても感度100%・特異度87%と、スクリーニングツールとして非常に優れた性能を持っています。

なぜ今、MoCAが求められるのか ― 臨床の「見落とし」リスクを減らすために

日本では65歳以上の約15〜20%が軽度認知障害(MCI)を有すると推計されています。MCIは放置すれば数年以内に認知症に移行するリスクが高い一方、早期に発見して適切な介入を行えば、認知症への進行を遅らせたり予防したりできる可能性があります。しかし、臨床現場では以下のような「見落とし」が起きやすい現状があります。

⚠️

MMSEでの見逃し

MMSEはスコアが27〜30点であっても実際にはMCIがある患者が多く存在します。MMSEは重度認知症の評価には適していますが、「グレーゾーン」の軽微な変化を捉えるには感度が不十分です。

🧩

実行機能の見落とし

MCIで最初に低下しやすい実行機能(計画・段取り・柔軟な思考)はMMSEでは十分に評価されません。「物忘れはないが段取りが悪くなった」という患者さんはMoCAでこそ検出できます。

🔁

経時変化の追跡困難

認知機能の微妙な変化を追跡するには、感度の高い評価ツールが不可欠です。3ヶ月・6ヶ月での変化をスコアとして可視化することで、リハビリの効果判定や進行速度の把握に役立ちます。

MoCAが解決すること

「正常だけど何かおかしい」を数値化する

MoCAの最大の価値は、MMSEでは捉えられない「グレーゾーン」の認知機能低下を定量化できる点にあります。特に以下の場面で真価を発揮します:

  • 脳卒中後の認知機能評価:運動麻痺の改善と並行して認知機能も系統的に評価できる
  • MCIの早期発見:「なんとなく心配」という家族の訴えを数値的に根拠づけられる
  • 薬物療法・認知リハビリの効果判定:6ヶ月後のスコア変化で介入の有効性を客観評価できる
  • 退院後の追跡評価:外来でも短時間で実施可能なため、定期的な経過観察に最適

MoCA実施前チェックリスト ― 正確な評価のための準備

MoCAの評価精度は、実施環境と患者の状態に大きく左右されます。評価を開始する前に以下の項目を確認することで、スコアの信頼性を最大限に高めることができます。

🏥 環境・準備の確認

静かで照明の十分な個室(または仕切られた空間)を確保している

MoCA検査用紙・鉛筆・ストップウォッチを用意している

患者が快適に座れる椅子・テーブルを設置している

評価中に中断されないよう、担当者への連絡を済ませている

使用するバージョン(1・2・3)を事前に決定している(繰り返し評価の場合は前回と異なるバージョンを選択)

🧑‍⚕️ 患者状態の確認

眼鏡・補聴器など、普段使用している補助具を装着している

食事・投薬が済んでいる(著しい空腹・薬剤の過鎮静がない状態)

発熱・急性疼痛などの急性症状がない

利き手側に運動麻痺がある場合、非利き手での実施を許可することを確認している

失語症・重度難聴の有無を確認し、適用可否を判断している

教育年数(12年以下かどうか)を事前に確認している

⚠ MoCAが適用困難な状況

以下のような状況では、MoCAの結果が実際の認知機能を正確に反映しない可能性があります:

  • 重度失語症:語想起・復唱・命名が言語出力の困難さのためスコアが著しく低下する可能性。MoCA-Blindや代替評価ツールの検討を。
  • 重度視力障害:視空間項目(立方体・時計・Trail Making)の実施が困難。視覚障害者向けのMoCA-Blindを使用。
  • 意識レベルの低下:JCS 1桁以上の意識障害があれば、まずGCSやNIHSSで状態を確認してからMoCA実施を検討。
  • 急性期の精神症状:激しい興奮・幻覚・解離などが活発な状態での評価は信頼性が低い。症状安定後に再評価。

MoCA 11評価項目の実施手順とスコアリング ― 臨床で即使える詳細解説

MoCAの各項目は、それぞれ異なる認知機能サブシステムを反映しています。以下では項目ごとに実施手順・採点基準・臨床的ポイントを詳しく解説します。

項目 1

① Trail Making(1点)

評価ドメイン:実行機能・注意の転換
実施手順:「数字とひらがなを順番通りに線で結んでください。ここから始めて(”1″を指す)、1から”あ”へ、そして2へと線を描いていって、ここで終わってください(”お”を指す)。できるだけ速く正確にやってください。」
1 正答:線が交差することなく、「1-あ-2-い-3-う-4-え-5-お」の順に正しく結べた場合。直後の自己修正は可。
0 誤答:直後の自己修正以外のエラーがある場合(順序間違い、線の交差など)。
💡 臨床ポイント:このタスクはアメリカ版「TMT-B」の短縮版であり、数字とひらがな(アルファベット)を交互に切り替える「注意の転換能力」を評価します。エラーの種類(数字だけで進む/ひらがなだけで進むなど)も記録しておくと、実行機能障害の質的分析に役立ちます。

項目 2

② 視空間認知機能:立方体の模写(1点)

評価ドメイン:視空間能力・構成能力
実施手順:「この立方体をできるだけ正確に、下のスペースに書き写してください。」(スピードの指示はしない)
1 正答:以下のすべての条件を満たす場合。①3次元として描かれている ②全ての線が描かれている ③余計な線が加えられていない ④線の並行関係が保たれており、長さが類似している(四角柱となっている場合は問題ない)
0 誤答:上記条件のいずれか1つでも満たしていない場合。
💡 臨床ポイント:頭頂葉後部(角回・縁上回)の機能と関連が深い課題です。3次元の認知が困難な場合(2次元の正方形を描くなど)は、後頭頂葉症状の存在を示唆します。利き手の運動麻痺がある場合は、非利き手での実施を許可し記録しておきましょう。

項目 3

③ 視空間認知機能:時計描画(3点)

評価ドメイン:視空間能力・実行機能・抽象的思考
実施手順:「時計を描いてください。文字盤に数字をすべて描き、11時10分を指すよう針を描いてください。」(スタート位置や大きさの指示はしない)
1輪郭(1点):時計の文字盤が円形であること。わずかな歪みは許容。
1数字(1点):数字が過不足なく(1〜12)、正しい順番・正しい位置に描かれていること。ローマ数字でも可。
1針(1点):長針と短針が「11時10分」を正しく指していること。短針は長針より短く、2つの針が文字盤の中心でつながっていること。
💡 臨床ポイント:「11時10分」という指示は、11という数字に惑わされて長針を11に置いてしまう「引き込み現象」(プル・エラー)を検出するために意図的に設計されています。このエラーは前頭葉機能(抑制制御)の低下を示す重要なサインです。また、輪郭・数字・針の3要素を個別に採点するため、障害のパターン分析に有用です。

項目 4

④ 命名(3点)

評価ドメイン:言語・意味記憶
実施手順:「この動物の名前を教えてください。」(左から順に指していく)
対象動物:①ライオン ②サイ ③ラクダ
1各動物の名前を正しく言えた場合に各1点(最高3点)。
💡 臨床ポイント:「サイ」と「ラクダ」は日常的な接触頻度が低いため、意味記憶の深さを問う課題になっています。「犀」「駱駝」などの漢字での回答も正答として扱います。失語症患者では言語産出の困難さがスコアに影響するため、解釈に注意が必要です。

項目 5

⑤ 記憶(採点なし)

評価ドメイン:エピソード記憶(記銘)
実施手順:「これから記憶の検査をします。今から単語をいくつか読み上げるので、よく聞いて覚えておいてください。」(1秒に1語のペースで以下の5単語を読み上げる)

対象単語:顔 絹 神社 百合 赤

→ 第1試行で再生させる(得点なし)
→ 同じ単語を再度読み上げ、第2試行で再生させる(得点なし)
→ 「検査の終わりにもう一度思い出してもらいます。」と伝える

第1試行・第2試行ともに得点は与えません。ここでは記銘(符号化)を行うことが目的です。採点は「項目10:遅延再生」で行います。
💡 臨床ポイント:5つの単語は、カテゴリ(身体・素材・建物・花・色)が異なるよう設計されており、後の遅延再生での手がかり提示(カテゴリ手がかり)と多肢選択に対応しています。第1・第2試行での再生数は採点しませんが、記録しておくと記銘能力の参考になります。

項目 6

⑥ 注意(6点満点)

評価ドメイン:注意・ワーキングメモリ・処理速度・計算

【A】数唱 ─ 順唱(1点)

「これからいくつかの数字を読み上げます。読み終わったら、同じように繰り返してください。」
2-1-8-5-4(5つの数字を1秒に1つのペースで)
1正しく繰り返せたら1点。

【B】数唱 ─ 逆唱(1点)

「次は数字を逆から繰り返してください。」
7-4-2(3つの数字を1秒に1つのペースで) 正答:2-4-7
1「2-4-7」と正しく逆唱できたら1点。

【C】ビジランス(持続的注意)(1点)

「ひらがなを読み上げるので、”あ”と言うたびに手を叩いてください。”あ”以外のときは叩かないでください。」
→ 検査用紙のひらがな列を1秒に1文字のペースで読み上げる
※麻痺などで両手を使うのが困難な場合は片手で机などを叩く形で実施
1エラーが1回以下の場合に1点。(エラー:”あ”で叩かない、または他のひらがなで叩く)

【D】100からの連続減算(3点)

「100から7を順に引いていってください。」(必要であれば最大2回まで教示できる)
→ 正答:93 → 86 → 79 → 72 → 65
0正答なし
1正答1つ
2正答2〜3つ
3正答4〜5つ
💡 採点の注意:連続減算では連鎖エラーを考慮します。1回目が間違っていても(例:94)、94から7を正しく引けていれば(87)2回目は正答とします。つまり「差が正しく7かどうか」で各ステップの正誤を判断します。

項目 7

⑦ 復唱(2点)

評価ドメイン:言語・聴覚的ワーキングメモリ
実施手順:「これから文章を読み上げます。私が読んだ後に、正確に繰り返してください。」
文章1:「太郎が今日手伝うことしか知りません。」
文章2:「犬が部屋にいるときは、猫はいつもイスの下に隠れていました。」
1各文章を正確に復唱できたら各1点。語の省略・追加・置換などの細かいエラーも0点として厳密に採点する。
💡 臨床ポイント:文章2は複文構造の長文であり、ワーキングメモリの容量を要求します。「助詞の置き換え」「動詞の語形変化のエラー」なども0点となる点に注意が必要です。失語症患者では音韻的なエラーが多くみられます。

項目 8

⑧ 語想起(語頭流暢性)(1点)

評価ドメイン:言語流暢性・実行機能・語彙
実施手順:「これから私が言うひらがなで始まる言葉をできるだけたくさん言ってください。時間は1分間です。準備はよろしいですか? それでは、“か”で始まる言葉をできるだけたくさん言ってください。」(60秒計測後「止め」)
※固有名詞・数字・同じ語の繰り返しは不可。語形変化(かく・かいた)は別語として扱う。
111個以上の語を生成できれば1点。生成した語はすべて余白に記録し、総数をカウントする。
💡 臨床ポイント:語頭流暢性は前頭葉機能(実行機能)の鋭敏な指標です。11個というカットオフは、日本語版MoCAの標準化データに基づいています。単語数だけでなく、クラスタリング(カテゴリーで固まる傾向)とスウィッチング(カテゴリーを切り替える能力)のパターンを観察すると前頭葉機能の評価が深まります。

項目 9

⑨ 抽象的思考(2点)

評価ドメイン:概念化・抽象的思考・カテゴリー分類
実施手順:まず例題「バナナとミカン」で練習し、適切な反応(「果物」)を教示した後に本番の2ペアを実施。
1電車と自転車:「交通手段」「乗り物」「旅行の手段」などの上位概念で答えられたら1点。「車輪がある」「乗れる」などの具体的特徴の列挙は0点。
1ものさしと時計:「測るもの」「計測器具」「計測に使用するもの」などの上位概念で答えられたら1点。「数字がある」「目盛りがある」は0点。
💡 臨床ポイント:具体的な特徴(「どちらも乗れる」)ではなく、抽象的な上位カテゴリー(「交通手段」)で答えられるかどうかが採点の核心です。後期認知症だけでなく、前頭側頭葉変性症でも特に障害されやすい認知機能であり、MCIの段階での変化も捉えられます。

項目 10

⑩ 遅延再生(5点 + 参考項目)

評価ドメイン:エピソード記憶(長期記憶の定着・検索)
実施手順:「先ほどいくつかの単語を覚えてもらいました。今覚えている単語をできるだけ教えてください。」(手がかりなし=自由再生)
1手がかりなしで各単語を再生できたら各1点(計5点)。対象単語:顔・絹・神社・百合・赤

【参考項目】手がかり再生(採点に含まない)

自由再生できなかった単語について、カテゴリ手がかり→多肢選択の順で提示する。
単語 カテゴリ手がかり 多肢選択
身体の一部 口・顔・手
生地 絹・麻・木綿
神社 建物 神社・学校・病院
百合 バラ・百合・椿
赤・青・緑
💡 臨床ポイント:手がかり再生のパターンが「記憶障害の質的分析」に役立ちます。カテゴリ手がかりで再生できれば「検索失敗(前頭葉関連)」、手がかりがあっても再生できなければ「符号化失敗(海馬関連、アルツハイマー型の特徴)」と解釈できます。手がかり再生のスコアは公式な合計点には含まれませんが、認知症サブタイプの鑑別に非常に有用な情報です。

項目 11

⑪ 見当識(6点)

評価ドメイン:時間・場所の見当識
実施手順:以下の6つの情報を個別に質問する。
1年:今は何年ですか?
1月:今は何月ですか?
1日:今日は何日ですか?
1曜日:今日は何曜日ですか?
1場所:ここは何市(区・町)ですか?
1施設名:この場所(建物)の名前は何ですか?
💡 臨床ポイント:見当識は認知症の評価において古くから重視される項目ですが、MCIでは比較的保たれることが多く、スコアへの寄与は小さいことがあります。ただし「曜日」の誤答は日付よりも生活上の影響が大きいため、個別記録が重要です。入院・施設入所中の患者では「施設名」の不正解が必ずしも認知機能低下を示さない点にも注意しましょう。

⚠ 合計得点の算出と教育年数補正

各項目のスコアを合計し(最高30点)、教育年数が12年以下の場合には1点を加算します(最高30点が上限)。合計得点が26点以上であれば健常範囲と判断されます。採点は右端欄に記入した各項目スコアを集計します。

なお、失語症患者には言語依存性の高い項目(復唱・語想起・命名など)が不利に働くため、MoCAを単独で用いることには限界があります。また、代理回答者による回答は不可です(直接観察によるタスク完了が必要)。

MoCAのカットオフ値 ― スコアから読み取る臨床的意義

MoCAのスコアは、数値そのものだけでなく、どの認知ドメインでスコアが低下しているかという「プロフィール」が臨床的に重要です。総合スコアとドメイン別スコアの組み合わせを読み解くことで、リハビリテーションの目標設定や多職種連携に活かすことができます。

総合スコアのカットオフ値

MoCAスコア 判定 臨床的対応
26〜30点 健常範囲 定期的な経過観察を推奨。必要に応じて6〜12ヶ月後に再評価。
18〜25点 軽度認知障害(MCI)疑い 神経内科への紹介・詳細な神経心理検査・認知リハビリの開始を検討。
10〜17点 中等度認知障害 日常生活の安全確認・介護サポートの調整・家族への説明が必要。
0〜9点 重度認知障害 包括的な認知症ケア計画の立案・意思決定支援・安全管理が最優先。

疾患別カットオフ値の参考値

対象疾患 推奨カットオフ 感度 特異度 文献
軽度認知障害(MCI) 26点未満 90% 87% Nasreddine 2005
軽度アルツハイマー病 26点未満 100% 87% Nasreddine 2005
脳卒中後認知障害 22〜24点未満 85% 77% Dong 2010
パーキンソン病(MCI) 26点未満 81% 95% Dalrymple 2011
多発性硬化症 23点未満 71% 74% Dagenais 2013

📊 脳卒中患者へのMoCA適用時の注意点

脳卒中患者はMoCAのカットオフを26点のままで適用すると、偽陽性(実際には問題ないのに低スコアになる)のリスクがあります。特に左半球損傷による言語機能低下は、語想起・復唱・命名のスコアを大きく下げます。一方、右半球損傷は視空間項目(立方体・時計描画)に影響します。このため、脳卒中患者では損傷部位を考慮した項目別の解釈が不可欠であり、必要に応じてカットオフを22〜24点に下げることが推奨されています。

疾患別 ── 認知ドメインの障害パターン

認知ドメイン アルツハイマー型 脳血管性
遅延再生(記憶) ⭐ 最も早期から障害 比較的保たれる
実行機能 中等度障害 ⭐ 早期から障害
注意・処理速度 比較的保たれる ⭐ 早期から障害
言語(命名・流暢性) 中等度〜重度障害 損傷部位による
視空間能力 中等度障害 右半球損傷で顕著
見当識 比較的保たれる(初期) 比較的保たれる

MoCAのメリットとデメリット ― 臨床で使いこなすために

✅ メリット

① MCIの高感度検出
MMSEが見落としがちな軽度認知障害をスコア感度90%で検出。「グレーゾーン」の認知機能低下を早期に捉えられます。

② 多領域の包括的評価
8つの認知ドメインを1回の検査でカバー。実行機能・注意など前頭葉機能の評価はMMSEには存在しない強みです。

③ 短時間で実施可能
10〜15分で完了。特別な機器が不要で、外来・病棟・リハビリ室のどこでも実施できます。

④ 国際標準・多言語対応
50以上の言語に翻訳・標準化されており、グローバルなデータ比較が可能。臨床研究のアウトカム指標としても広く採用されています。

⑤ 手がかり再生による質的分析
遅延再生+手がかり再生の組み合わせで、「検索失敗」か「符号化失敗」かを鑑別でき、認知症サブタイプの推定に役立ちます。

⑥ 複数バージョンで繰り返し使用可能
バージョン1・2・3の3種類があり、学習効果を避けながら定期的な経過追跡ができます。

⚠ デメリット・限界

① 言語依存性が高い
失語症患者には語想起・復唱・命名など多くの項目が不利に働きます。言語機能障害があるケースでは解釈に慎重さが必要です。

② 教育・文化バイアス
教育年数や文化的背景によってスコアが影響を受けます。日本語版での標準化研究が進んでいますが、高学歴者では偽陰性のリスクもあります。

③ 神経心理検査の代替にはならない
MoCAはスクリーニングツールです。認知症の確定診断や詳細な神経心理学的プロフィールの作成には、より詳細な神経心理検査が必要です。

④ 脳卒中患者での過剰検出
脳卒中後の患者では、運動・言語障害の影響でスコアが実態より低くなりやすく、カットオフの調整が必要です。

⑤ 代理回答不可
本人が直接タスクを実施する必要があり、重篤な運動障害や意識障害がある場合には適用できません。

⑥ 重症例では床効果
重度認知障害(スコア0〜10点)では項目間の弁別力が低下し、変化を追跡しにくくなります。

MoCA vs. MMSE ― 2大認知機能スクリーニングの比較

認知機能スクリーニングの2大ツールであるMoCAとMMSEは、それぞれ異なる強みを持ちます。どちらを選ぶかは評価目的と患者の特性によって決まります。

比較項目 MoCA MMSE
開発年 2005年(Nasreddine et al.) 1975年(Folstein et al.)
スコア範囲 0〜30点(26点以上=健常) 0〜30点(24点以上=健常)
実施時間 約10〜15分 約5〜10分
MCIの感度 90%(高い) 18%(低い)
実行機能の評価 ✅ あり(Trail Making・100−7・語流暢性) ❌ ほぼなし
注意・ワーキングメモリ ✅ 充実(順唱・逆唱・ビジランス) △ 限定的(順唱のみ)
視空間能力 ✅ 立方体・時計描画・Trail Making △ 五角形の模写のみ
抽象的思考 ✅ あり(類似性課題) ❌ なし
遅延再生 ✅ 5単語+手がかり再生 △ 3単語(手がかりなし)
天井効果(軽度例での) 少ない(難易度が高め) 多い(容易すぎる項目が多い)
教育補正 あり(12年以下+1点) なし(研究により補正する場合も)
著作権・使用料 臨床使用は無料(mocatest.org) 著作権管理あり(PAR社)
推奨される場面 MCIスクリーニング・脳卒中後評価・定期追跡 重度認知症のモニタリング・迅速スクリーニング

🔍 どちらを選ぶべきか?実践的ガイダンス

MoCAを選ぶべき場面:「認知機能が少し気になる」「MMSEは正常だが本人・家族が心配している」「脳卒中後の認知機能を評価したい」「MCIの早期発見と経時的追跡をしたい」場面ではMoCAが第一選択です。実行機能・注意・遅延記憶を重視した評価が必要な場合もMoCAが優れています。

MMSEを選ぶべき場面:「認知症の中等度〜重度例のモニタリング」「実施時間を5分以内に収めたい」「医療機関の記録に長年蓄積されたMMSEデータとの比較が必要」な場合にはMMSEが依然として有用です。両方を場面に応じて使い分けることで、より精度の高い認知機能管理が可能になります。

MoCA 実施例 ― 脳卒中後の認知機能を評価する

ここでは、脳卒中後に「物忘れ」と「段取りの悪さ」を訴える65歳男性・石川さんに対し、作業療法士の田中先生がMoCAを実施する臨床場面をシミュレーションします。評価から多職種連携計画の立案まで、一連の流れをリアルに追っていきます。

患者プロフィール:
石川さん・65歳男性。左中大脳動脈領域の脳梗塞後(発症3ヶ月)。ADLは概ね自立しているが、「最近、仕事でやるべきことを忘れる」「料理の段取りができなくなった」「約束を忘れる」という訴えが本人・家族から聞かれている。MMSEは28点で「正常範囲」であったが、主治医よりMoCAの実施を依頼された。

評価の流れと採点

① Trail Making

注意の転換・実行機能

田中先生 「数字とひらがなを順番通りに線で結んでください。1から”あ”へ、そして2へ…と続けてください。」
石川さん 「分かりました。」(線を引き始めるが、途中で「1→2→3」と数字だけで進んでしまう)
田中先生 (採点のため口頭での訂正は行わず観察を続ける)
スコア:0(数字とひらがなの交替ルールにエラーあり。実行機能における「注意の転換」の困難さが示唆される。)

② 立方体

視空間・構成能力

田中先生 「この立方体をできるだけ正確に書き写してください。」
石川さん (慎重に描くが、奥行き感がやや不足。全線描画されているが並行関係が崩れている)
スコア:0(線の並行関係が保たれていない。視空間構成能力の軽度低下。)

③ 時計描画

視空間・抽象的思考・抑制制御

田中先生 「時計を描いて、11時10分を指すよう針を描いてください。」
石川さん (円形の文字盤を描き、1〜12の数字を正しく配置。ただし針が「11時10分」ではなく「長針を11に置くプル・エラー」が生じた)
スコア:2(輪郭1点・数字1点・針0点。「11」という数字への引き込み現象=プル・エラーが生じており、前頭葉の抑制制御低下を示唆。)

④ 命名

言語・意味記憶

田中先生 「この動物の名前を教えてください。」(順に指示)
石川さん 「ライオン、…サイ、ラクダ。」
スコア:3(3種すべて正答。意味記憶は保たれている。)

⑤ 記憶(記銘)

エピソード記憶の記銘

田中先生 「単語を読み上げます。覚えてください:顔・絹・神社・百合・赤。では繰り返してください。」
石川さん 「顔…神社…百合…(絹と赤を失念)」(第1試行:3語)
田中先生 「もう一度読み上げます。」(再度5語を読み上げ)
石川さん 「顔・絹・神社・百合・赤。」(第2試行:5語)
採点なし(第1試行3語、第2試行5語を記録。後の遅延再生で採点する。)

⑥ 注意

注意・ワーキングメモリ・計算

順唱: 「2-1-8-5-4」→ 正しく繰り返せた。

順唱:1点

逆唱:「7-4-2」→ 「2-4-8」と回答(誤答)。

逆唱:0点(ワーキングメモリの低下。逆唱は順唱より前頭葉機能の関与が大きい。)

ビジランス:「あ」のタイミングでの手叩き。エラー2回。

ビジランス:0点(エラー2回。持続的注意の低下。)

100からの減算:93→86→80(誤)→73(誤)→66(誤)。正答は93・86の2つ。

計算:1点(正答2つ。作業記憶と処理速度の低下を反映。)

⑦ 復唱

言語・聴覚的ワーキングメモリ

田中先生 「『太郎が今日手伝うことしか知りません』と復唱してください。」
石川さん 「太郎が今日手伝うことしか知りません。」(正確に復唱)
田中先生 「『犬が部屋にいるときは、猫はいつもイスの下に隠れていました』と復唱してください。」
石川さん 「犬が部屋にいるとき、猫はいつも…ソファの下に隠れていた。」(「イス」→「ソファ」、語尾変化あり)
スコア:1(文章1は正答・1点。文章2は「イス」→「ソファ」の語置換と語尾省略があるため0点。)

⑧ 語想起

語頭流暢性・実行機能

田中先生 「”か”で始まる言葉をできるだけたくさん、1分間で言ってください。」
石川さん 「かに…かめ…かえる…かくれんぼ…かさ…かいがん…かぜ…かき…(1分間で9語)」
スコア:0(9語。カットオフ11語未満。前頭葉機能の低下を反映した語流暢性の低下。)

⑨ 抽象的思考

概念化・カテゴリー分類

田中先生 「”電車”と”自転車”はどのように似ていますか?」
石川さん 「どちらも乗るものです。乗り物です。」
田中先生 「”ものさし”と”時計”はどのように似ていますか?」
石川さん 「どちらも…数字があります。」
スコア:1(電車・自転車は「乗り物」=1点。ものさし・時計は「数字がある」は具体的特徴の列挙のため0点。)

⑩ 遅延再生

エピソード記憶の長期定着

田中先生 「先ほど覚えていただいた単語を、できるだけ思い出してください。」
石川さん 「顔…神社…赤。あとは出てこないです。」(自由再生3語)
田中先生 (手がかり:「生地の名前は?」)→「絹!」(カテゴリ手がかりで再生)
田中先生 (手がかり:「花の名前は?」)→ 「…」(多肢選択:バラ・百合・椿)→「百合かな。」
スコア:3(自由再生:顔・神社・赤の3語=3点。絹はカテゴリ手がかりで再生→採点外。百合は多肢選択→採点外。)
臨床的注記:「絹」はカテゴリ手がかりで再生できており、「検索失敗パターン」の可能性。「百合」は多肢選択でのみ再生でき、「符号化の部分的失敗」が疑われる。

⑪ 見当識

時間・場所の見当識

田中先生 「今日の日付と曜日、場所と施設名を教えてください。」
石川さん 「2026年3月22日、日曜日。場所は東京、施設は…リハビリセンターです。」
スコア:5(年・月・日・曜日・場所(東京)=5点。施設名は「リハビリセンター」と概略のみのため記録に残す。)

採点サマリーと臨床的解釈

石川さんのMoCA採点サマリー

Trail Making
0 / 1
視空間(立方体)
0 / 1
時計描画
2 / 3
命名
3 / 3
注意合計
2 / 6
復唱
1 / 2
語想起
0 / 1
抽象的思考
1 / 2
遅延再生
3 / 5
見当識
5 / 6
合計(教育年数16年・補正なし)
17 / 30点

スコア解釈:MoCA 17点は中等度認知障害の疑いの範囲(18〜25点でMCI疑い、17点以下は中等度)です。MMSEでは28点(正常範囲)であったため、MoCAがMMSEでは捉えられなかった認知機能低下を可視化した典型例です。

障害プロフィールの分析:特に低下が著しいのは実行機能(Trail Making 0点、語流暢性 0点)・注意(ビジランス・逆唱・計算)・視空間能力(立方体・時計針)です。命名・見当識は比較的保たれており、このプロフィールは脳卒中後の血管性認知機能障害(PSCI)の典型パターンと一致します。遅延再生でのカテゴリ手がかり効果(「絹」の再生)は検索失敗の要素を示唆しています。

MoCAスコアに基づく多職種連携計画

1
【OT】実行機能トレーニング(Trail Making 0→1点・語流暢性 0→1点が目標)

ADLの「段取り」に直結した課題(料理・買い物リスト作成・スケジュール管理)を段階的に取り入れ、計画・実行・モニタリングの三段階を反復練習。デュアルタスク訓練も組み合わせて注意の転換能力を回復させます。

2
【OT・PT】注意・ワーキングメモリトレーニング(注意2→5点が目標)

持続的注意・選択的注意・分割的注意の階層的プログラムを実施。N-backタスク、聴覚抹消課題、デジタルツールを活用した認知トレーニングを組み合わせます。ビジランス・逆唱の改善は生活の質に直結します。

3
【OT】視空間認知・構成能力トレーニング(立方体 0→1点・時計針 0→1点が目標)

立方体・時計描画の繰り返し練習に加え、パズル・積み木・図形の模写など視空間構成課題を段階的に実施。時計のプル・エラーへの介入として、「目標数字を先にマークしてから針を引く」などの補償的ストラテジーも指導します。

4
【ST連携】言語流暢性・記憶の改善サポート

語頭流暢性の低下(「か」で9語)に対してSTと連携し、語彙検索の訓練・カテゴリー想起練習を実施。遅延再生の部分的改善には記憶方略(連想法・ビジュアルイメージ化)の指導を加えます。

5
【全職種】定期再評価と目標の段階的更新

8週後に再評価(バージョン2を使用して学習効果を除外)。中間目標:MoCA 21点以上(MCI境界域)。最終目標:MoCA 24点以上、日常生活での段取り困難の解消。家族へのスコアの見える化フィードバックを継続します。

田中先生 「石川さん、今日の評価でお体の認知機能の状態がよく分かりました。MMSEでは正常でしたが、MoCAでより詳しく調べると、段取りや注意力に改善の余地があることが数字で確認できました。具体的なプログラムで一緒に取り組んでいきましょう。2ヶ月後にもう一度評価して、どれくらい変化しているか確認します。」
石川さん 「そうか、MMSEは正常だったのに、このテストでは問題が見つかったんですね。具体的な数字で目標が分かると、頑張る気になれます。よろしくお願いします。」

ここまでお読みいただいた方へ

認知機能の「いま」を正確に評価し、
「これから」を一緒に変えていきませんか?

MoCAでスコアを把握することは、回復への第一歩です。
重要なのは、評価結果を「最適なリハビリプログラム」に変換できる専門性です。

STROKE LABに相談する

STROKE LABの認知リハビリ ― MoCAスコアを「回復」に変える

MoCAは認知機能の「現在地」を正確に示す優れたツールですが、評価はあくまで出発点です。その先に「どう回復させるか」を設計する専門性が求められます。STROKE LABでは、MoCAの項目別スコアを詳細に分析し、その数値の裏にある神経学的メカニズムを特定したうえで、一人ひとりに最適な認知リハビリプログラムを設計しています。

STROKE LAB式

MoCAスコアプロフィールを「介入戦略」に翻訳する

同じMoCA 20点でも「遅延再生が0点で実行機能が10点(記憶型)」の患者と「遅延再生が4点で実行機能が2点(実行機能型)」の患者では、リハビリの方向性がまったく異なります。STROKE LABでは画像所見・神経学的所見も参照しながら、障害の神経基盤を臨床推論したうえで介入計画を立案します:

  • 海馬・内側側頭葉障害パターン(遅延再生低下):記憶方略の習得・反復学習・外的記憶補助具の活用
  • 前頭葉・前頭線条体障害パターン(実行機能・注意低下):注意訓練・目標管理トレーニング・ADLへの段階的適用
  • 後部皮質障害パターン(視空間・言語低下):視空間構成訓練・語彙検索戦略・補償的コミュニケーション指導
  • 混合パターン:優先度の高いドメインから段階的に介入し、日常生活への汎化を重視

脳の可塑性を活かした科学的認知リハビリ

STROKE LABは脳神経リハビリの専門施設として、「神経可塑性」を活用した認知機能回復を実践しています。単なる記憶ゲームではなく、注意制御・実行機能・記憶の符号化戦略など、神経科学的根拠に基づいたプログラムでMoCAスコアの実質的改善を目指します。

MoCAによる客観的な経過追跡

初回のMoCAスコアをベースラインとし、8〜12週ごとの定期再評価でスコアの推移を可視化。バージョン1・2・3を使い分けることで学習効果を排除しながら、真の認知機能の変化を追跡できます。スコアが停滞した場合はプログラムの修正をすぐに判断できます。

カットオフ値を目標にした明確なロードマップ

「MCIレベルへの改善(26点以上)」「日常生活での段取り障害の解消」「社会復帰」など、MoCAのカットオフ値と実生活の目標を連動させた明確なロードマップを提示。漠然と「よくなりましょう」ではなく、数値目標と期間を明示した戦略的リハビリを実践します。

認知リハビリを受けた方の声

脳卒中後、「物忘れが増えた」と感じていましたが、近所の病院では「MMSEは正常なので大丈夫です」と言われていました。STROKE LABでMoCAを受けたところ、実行機能と注意力に問題があることが分かり、それに特化したトレーニングを4ヶ月続けました。今では料理の段取りも以前通りにできるようになり、仕事にも復帰できました。

60代男性・脳梗塞後認知機能低下

母が「もの忘れが心配」と言うので連れてきました。MoCAという検査で、記憶よりも実は「段取りをつける力」が落ちていたことが分かって驚きました。数字で状態が分かるので、毎回の評価で「先月より2点上がりましたよ」と言っていただけると、本人のモチベーションが上がるようです。半年で25点まで回復し、本人も自信を取り戻しています。

70代女性(軽度認知障害)のご家族より

パーキンソン病を患っており、認知機能のフォローのためにMoCAを定期的に受けています。担当の先生がスコアの変化だけでなく「どの項目が下がってきたか」を毎回説明してくださるので、自分の状態変化を理解しながらリハビリに臨めています。早めの対策が大切だと実感しています。

70代男性・パーキンソン病

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代替バージョン・MoCA-Blind ― 繰り返し評価と特殊ニーズへの対応

MoCAには学習効果を排除して繰り返し評価を可能にする3つのバージョンと、視覚障害者向けのMoCA-Blindが公式に提供されています。定期的な経過追跡を行う際には、これらを適切に使い分けることが評価の信頼性を維持するうえで非常に重要です。

Ver.1
スタンダード版

初回評価に使用するオリジナルバージョン。最も標準化データが豊富で、カットオフ値の根拠もこのバージョンに基づく。

Ver.2
代替版A

2回目の評価に使用。動物・単語・ひらがな刺激が変更されており、Ver.1での学習効果を排除できる。2〜4ヶ月後の再評価に推奨。

Ver.3
代替版B

3回目以降に使用。Ver.1・2とさらに異なる刺激セットで構成。6〜12ヶ月の長期追跡や臨床試験での反復測定に最適。

Blind
MoCA-Blind(視覚障害者版)

視空間項目(立方体・時計・Trail Making)を除いた22点満点版。重度視力障害・眼球運動障害のある患者に使用。カットオフは18点以上が健常範囲。

📥 MoCA公式バージョンの入手方法

MoCAの公式フォームはすべてwww.mocatest.orgから無料でダウンロード可能です(臨床使用・研究使用ともに無料)。日本語版(MoCA-J)を含む50言語以上の翻訳版が提供されています。大規模な研究・商業使用の場合はMoCA公式のトレーニングプログラムへの登録が推奨されています。フォームを無断で改変・複製して配布することは禁止されています。

バージョンを使い分けた経時追跡スケジュール

リハビリテーション・認知症管理において、MoCAを定期的に繰り返す際の推奨スケジュールは以下の通りです。

初回評価

入院・外来初診時(バージョン1)

ベースライン確定。スコアプロフィールを記録し、多職種で共有。カットオフ値との比較で重症度を判定。

2〜4週後(急性期)

入院中の再評価(バージョン2)

急性期〜回復期の認知機能改善をモニタリング。退院先・リハビリ継続計画の見直しに活用。学習効果を排除するためバージョン2を使用。

2〜3ヶ月後

外来フォローアップ(バージョン3)

回復期リハビリ後の機能評価。バージョン3を使用してさらなる学習効果を排除。スコアの伸びがMCI境界(26点)に達したかを確認。

6〜12ヶ月後(長期)

長期経過追跡(バージョン1に戻す)

慢性期・維持期のモニタリング。6ヶ月以上間隔が空けばバージョン1に戻しても学習効果は最小化される。MCIの認知症への移行監視や薬物療法効果の評価に活用。

脳卒中後認知障害(PSCI)とMoCA ― 脳卒中リハビリ現場での実践

脳卒中後認知障害(Post-Stroke Cognitive Impairment:PSCI)は、脳卒中発症後3〜6ヶ月以内に認知機能低下が確認される状態を指します。PSCIは脳卒中患者の30〜50%に発生するとされており、ADL回復・社会復帰・QOL維持に多大な影響を与えます。しかしその多くがMMSEでは「正常範囲」に収まるため、MoCAによるスクリーニングが推奨されています。

PSCI × MoCA 実践ポイント

脳卒中患者のMoCA実施で特に注意すべき5つのポイント

  • 損傷部位別の「スコアの偏り」を把握する:左半球損傷では言語項目(語想起・復唱・命名)が低下しやすく、右半球損傷では視空間項目(立方体・時計描画)が低下しやすい。総合スコアだけでなく、どのドメインで低下があるかを損傷部位と照合することが重要。
  • カットオフは22〜24点を基準に:脳卒中患者では26点のカットオフをそのまま適用すると偽陽性が増加する。損傷側・重症度・発症からの期間を考慮し、22〜24点をスクリーニング閾値として用いることが推奨されている(Dong et al., 2012)。
  • 発症後3ヶ月は「揺れやすい時期」:脳卒中発症直後は意識障害・精神的混乱・せん妄などが認知機能スコアに影響する。正確なPSCIの診断には、発症後90日以降の安定した状態での評価が推奨される。
  • 半側空間無視の影響に注意:Trail Making・時計描画・立方体模写は、半側空間無視の影響を受けやすい。視空間項目の低スコアが「認知障害」なのか「無視症状」によるものかを区別するため、個別の神経学的評価との組み合わせが不可欠。
  • 利き手の運動麻痺への配慮:書字・描画課題は非利き手での実施を許可し、可能であれば書字時間の延長も考慮する。運動麻痺そのものが描画課題のスコアを下げている場合、その点を記録に残す。

PSCIのサブタイプとMoCAスコアプロフィール

PSCIサブタイプ 主な損傷部位 MoCAで低下しやすいドメイン
前頭葉型 前頭葉・前頭前野・前頭-線条体路 Trail Making、語流暢性、計算、逆唱、抽象的思考
側頭葉型(左) 左側頭葉・海馬・言語野 遅延再生、命名、復唱、語流暢性
頭頂葉型(右) 右頭頂葉・後部皮質 立方体模写、時計描画(輪郭・数字配置)
皮質下型 基底核・視床・白質 処理速度、注意(ビジランス)、実行機能全般
多発性梗塞型 両側多発 全ドメインにわたる広汎な低下(混合型パターン)

🚨 PSCIを見落とすリスクとその影響

PSCIを見落とした場合、リハビリテーションの効果が著しく低下するリスクがあります。具体的には:

  • 運動麻痺の回復が実際には得られているにもかかわらず、実行機能低下のために日常動作に応用できない
  • 転倒リスクの過小評価(注意低下・空間認識障害による)
  • 服薬管理・通院スケジュール管理の失敗(ワーキングメモリ低下)
  • 家族・介護者の負担が予測よりも大きくなる
  • 自動車運転再開の適性評価を見誤る

早期のMoCAスクリーニングと、PSCIが疑われた場合の多職種チームへの情報共有が、これらのリスクを大幅に減らすことにつながります。

よくある質問(FAQ)― 臨床現場のギモンに答える

Q

MoCAとMMSEを両方やる必要はありますか?

多くの臨床場面では、MoCAのみで十分です。MoCAはMMSEが評価するすべての認知ドメインをカバーしながら、MMSEでは拾えないMCIも検出できます。ただし、過去のMMSEデータとの比較が必要な場合(例:数年前からMMSEで経過観察している患者)や、重度認知症の細かいモニタリングにMMSEが運用されている施設では、併用も合理的です。新しく評価を始める患者にはMoCAをファーストチョイスとすることを推奨します。

Q

脳卒中後すぐにMoCAを実施してもいいですか?

急性期(発症後1〜2週間以内)のMoCAは、せん妄・意識障害・急性のストレス反応などの影響でスコアが実態よりも大きく低下することがあります。PSCIの正式な診断目的では発症後90日以降の評価が推奨されています。ただし、スクリーニング目的(高リスク患者の早期発見・退院計画策定)であれば、意識レベルが安定した時点での評価(急性期でも可)は臨床的に有用です。「いつの評価か」を必ず記録に残すことが重要です。

Q

MoCAのスコアが26点以上なら認知症の心配はないですか?

26点以上でも認知症を完全に否定することはできません。MoCAはスクリーニングツールであり、確定診断のための検査ではありません。特に高学歴の方では26〜30点でも軽度の認知機能低下が隠れていることがあります(天井効果)。また、MoCAが評価しない非認知的症状(行動・精神症状、日常生活の変化など)も認知症の重要な指標です。スコアだけでなく、本人・家族からの主訴・日常生活の変化・複数回の評価結果を総合して判断することが不可欠です。

Q

教育年数の補正はどのように行いますか?

教育年数が12年以下(中学卒業以下)の場合、合計スコアに1点を加算します(最高30点が上限)。これは、正式な学校教育が12年以下の方では、テストの難易度が相対的に高く、真の認知機能よりも低いスコアになりやすいことを補正するためです。日本では現在の義務教育(9年)に加え、高校進学率が高いため、実際に補正が必要なケースは高齢世代・特定の地域出身者などに多く見られます。なお、大学院修了者などでは逆に天井効果(高スコアでもMCIが存在する)に注意が必要です。

Q

MoCAを非医療職(介護職など)が実施してもいいですか?

MoCAの公式資料には「医療専門家による実施を推奨するが、正式なトレーニングは必須ではない」と記載されています。ただし、臨床的判断(スコアの解釈・医療的対応の決定)は医療専門家(医師・PT・OT・ST・看護師など)が行う必要があります。介護職が実施した場合でも、スコアの解釈・フィードバックは必ず医療職が担当するという体制を整えることが前提です。また、施設・組織のルールに従った上での実施が求められます。

Q

MoCAのスコアが下がったとき、どう患者さんや家族に説明すればいいですか?

スコアの低下を「悪化した」と直接的に伝えることは、患者・家族の不安や意欲低下につながる可能性があります。推奨される伝え方のポイント:①スコアの数値だけでなく、変化したドメインを具体的に説明する(例:「物忘れは変わっていませんが、段取りを作る部分が少し変化しています」)、②変化の意味を日常生活に結びつけて説明する、③次のアクションを明確に提示する(リハビリプログラムの修正、専門医紹介など)。スコアの変動は、疲労・体調・環境変化でも起こりうることを合わせて伝えると、過度な悲観を防げます。

参考文献

Nasreddine ZS, Phillips NA, Bédirian V, et al. The Montreal Cognitive Assessment, MoCA: a brief screening tool for mild cognitive impairment. J Am Geriatr Soc. 2005;53(4):695-699. PubMed
Dong Y, Lee WY, Basri NA, et al. The Montreal Cognitive Assessment is superior to the Mini-Mental State Examination in detecting patients at higher risk of dementia. Int Psychogeriatr. 2012;24(11):1749-1755. PubMed
Toglia J, Fitzgerald KA, O’Dell MW, et al. The Mini-Mental State Examination and Montreal Cognitive Assessment in persons with mild subacute stroke: relationship to functional outcome. Arch Phys Med Rehabil. 2011;92(5):792-798. PubMed
Dalrymple-Alford JC, MacAskill MR, Nakas CT, et al. The MoCA: well-suited screen for cognitive impairment in Parkinson disease. Neurology. 2010;75(19):1717-1725. PubMed
Roalf DR, Moberg PJ, Xie SX, et al. Comparative accuracies of two common screening instruments for classification of Alzheimer’s disease, mild cognitive impairment, and healthy aging. Alzheimers Dement. 2013;9(5):529-537. PubMed
Freitas S, Simões MR, Alves L, et al. Montreal Cognitive Assessment: validation study for mild cognitive impairment and Alzheimer disease. Alzheimer Dis Assoc Disord. 2013;27(1):37-43. PubMed
Ciesielska N, Sokołowski R, Mazur E, et al. Is the Montreal Cognitive Assessment (MoCA) test better suited than the Mini-Mental State Examination (MMSE) in mild cognitive impairment (MCI) detection among people aged over 60? Meta-analysis. Psychiatr Pol. 2016;50(5):1039-1052. PubMed

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