【2026年版】傾斜路歩行における腓骨筋の筋活動とは?足関節外側安定性と歩行適応戦略を解説
腓骨筋は、なぜ傾斜路で覚醒するのか。
脳卒中・変形性関節症をはじめ、腓骨筋力低下は転倒リスクを直接高める要因です。本記事では傾斜路歩行が腓骨筋EMGに与える影響を示した研究をもとに、「外側縦アーチをどう賦活するか」という新人セラピストが現場でぶつかる問いに答えます。
— 傾斜路歩行と腓骨筋活動の関係について、STROKE LABが臨床視点で解説しています。
要点5項目。
臨床現場でこう出会う。
屋内の整備された床面では問題なく歩けるが、傾斜や凹凸のある屋外環境に出ると足元が不安定になる——このギャップに直面したとき、あなたはどう評価しますか?
その不安定性の鍵を握る筋の一つが、見落とされがちな腓骨筋群(Peroneal muscles)です。
脳卒中患者に限らず、変形性関節症(OA)・廃用症候群・足関節捻挫後など、腓骨筋力が低下している患者は日常的に多く出会います。
腓骨筋力低下は立位の不安定さを生み、下肢位置の代償(例:麻痺側の外転・外旋での歩行)を引き起こし、転倒リスクを直接高めます。
本記事では、傾斜路という「環境の変化」が腓骨筋の神経筋活動にどう影響するかをエビデンスから学び、その知識を明日の臨床にどう活かすかを解説します。
腓骨筋の解剖と機能。
「腓骨筋(Peroneal muscles)」とは、腓骨(fibula)外側に付着する筋群の総称です。主に長腓骨筋(Peroneus longus)・短腓骨筋(Peroneus brevis)・第三腓骨筋(Peroneus tertius)から構成されます。

外側縦アーチは長腓骨筋・短腓骨筋・小趾外転筋で構成されます。このアーチが保持されることで、接地時の小趾側荷重が安定し、歩行中の前額面バランスが維持されます。
脳卒中患者やOA患者ではこのアーチが十分に保持できなくなることが多く、小趾側荷重が不安定となります。代償として母趾球側への過剰荷重が生じるケースも珍しくありません。
腓骨筋の3つの主要機能
内反捻挫の際に足関節を外反方向へ引き戻すことで、捻挫を予防します。この機能が低下すると足関節外側靭帯への負担が増大します。
歩行中の前額面傾きに対してリアルタイムに応答し、重心を支持基底面内に維持します。傾斜路ではこの機能が特に重要です。
長腓骨筋腱は足底を斜走し、第1中足骨底と内側楔状骨に停止します。この走行が足底横アーチの支持に貢献します。
— ご本人・ご家族の状況を丁寧にお伺いします
そのお悩み、一度ご相談ください。
STROKE LABは脳神経系に特化した自費リハビリ施設です。転倒リスクの根本にある腓骨筋・バランス機能を丁寧に評価し、屋外歩行の自立を目指したプログラムを一人ひとりに合わせてご提案します。
研究の目的と方法。
本章では、今回の臨床アイデアのベースとなった論文を詳しく解説します。
出典:Pubmed掲載論文(DOI: 10.1016/j.gaitpost.2018.08.038)。エビデンスレベル:観察研究(横断研究)。
目的:平地・内側傾斜路・外側傾斜路での歩行が、腓骨筋の筋活動にどのように影響するかを調査する。
対象:健常者16名。
計測筋:長腓骨筋・短腓骨筋・前脛骨筋・ヒラメ筋・内側広筋・外側広筋(表面EMG)。
運動学的パラメータ:歩行速度・歩幅・立脚時間・足部姿勢を同時計測。
3種類の歩行条件
| 歩行条件 | 腓骨筋への影響 | 臨床的用途 |
|---|---|---|
| 平地歩行 | ベースライン活動 | 評価・比較の基準 |
| 内側傾斜路 | 腓骨筋・前脛骨筋・外側腓腹筋が大幅増加 | 腓骨筋強化に最も有効 |
| 外側傾斜路 | 内側広筋・ヒラメ筋の活動が増加 | 内反筋力・膝安定性の強化に |
結果と考察。
運動学的結果として、被験者は3条件すべてで「ほぼ同じ歩行速度」を維持しながら、歩行戦略のみを柔軟に変化させることができました。
恐怖・注意が筋活動を増幅する
傾斜路歩行では、「恐怖」や「危険への注意」が筋の共活性(co-contraction)を介して腓骨筋のEMG振幅をさらに増加させることが示されています。
これは二重の意味で重要です。一方では傾斜路が有効な刺激を与えてくれます。他方では、過度な恐怖が主動筋・拮抗筋を同時に過剰収縮させ、スムーズな歩行パターンを阻害する可能性があります。
知見:Leeらは傾斜を段階的に増加させると、内外側傾斜路での腓骨筋活動が増加し続け、25°の傾斜で最大の腓骨筋EMG振幅が確認されたことを報告しています。
臨床的意義:傾斜角度は「量」として管理できます。低リスク者から段階的に傾斜を増やすという「用量設定」の考え方が実臨床で活かせます。エビデンスレベル:観察研究。
また、傾斜路では前脛骨筋と腓骨筋が「主動作筋—拮抗筋」として協調的に機能することで足部の安定性が提供されることも確認されています。
外側縦アーチと臨床的意義。
腓骨筋は外側縦アーチ(lateral longitudinal arch)の構成筋の一つです。このアーチが崩れると、足底の荷重分布が変化し、歩行時のバランスを著しく損ないます。
特に重要なのは、小趾側荷重はセラピスト・患者共に「意識に昇りにくい」部位であるという点です。母趾球側と異なり、小趾側の感覚入力は少なく、介入でも意識的に取り上げなければ賦活されづらい印象があります。
— 内側傾斜路での歩行時、腓骨筋EMGの振幅変化を示した図(原著論文より)。
介入の段階とパラメータ。
臨床でこのエビデンスを活かすには、段階的な傾斜負荷の設計が重要です。以下に新人セラピスト向けの4フェーズ構成を提案します。
MMT(徒手筋力検査)で腓骨筋力を評価。合わせてFRT(Functional Reach Test)・TUG(Timed Up and Go)でバランス能力を把握します。小趾側の荷重分布も足圧計や視覚確認で評価します。
所要時間:15〜20分
タクタイルキュー(小趾球への触圧刺激)・言語フィードバックを使い、小趾側荷重を意識させます。壁や手すりを使った片脚立位で腓骨筋の随意的収縮を高めます。
頻度:週3回 / 1回15分 / 10セット×3回
内側傾斜路を用い、5°→10°→15°と段階的に傾斜を増加させます。必ず徒手介助または手すりを使用し、安全を確保してから実施します。
傾斜角度:5〜15° / 歩行距離:10m往復 / 3〜5セット / 休憩1〜2分
転倒リスクが低いと判断できたら、傾斜20〜25°・屋外の実際の傾斜路へ移行します。最大腓骨筋活動は25°で得られますが(Lee et al.)、患者の状態に応じて慎重に設定してください。
最大傾斜:25° / 介助レベルは患者の状況に応じて段階的に減少

STROKE LABでは、傾斜路・凹凸面・屋外環境を想定した実践的なバランス訓練を提供しています。腓骨筋の機能評価から始まり、実際の生活場面での転倒リスクを減らすプログラムを組み立てます。まずは無料相談からご連絡ください。
多職種連携と環境調整。
腓骨筋の機能回復は、セラピスト単独では完結しません。多職種が連携して患者を取り巻く環境を整えることが、屋外歩行自立の鍵を握ります。
多職種連携の役割分担
| 職種 | 役割 | 具体的行動 |
|---|---|---|
| PT(理学療法士) | 腓骨筋・バランス訓練の中核 | MMT・傾斜路評価・段階的歩行プログラムの設計と実施 |
| OT(作業療法士) | ADL・生活環境への応用 | 屋外ADL評価・住環境のバリアフリー提案・自主トレ指導 |
| 看護師 | 病棟での転倒予防 | 転倒アセスメント・適切な履物確認・夜間の安全確保 |
| 義肢装具士 | 装具・インソール処方 | 腓骨筋の補助を目的としたAFO・足底インソールの選択と調整 |
| 医師 | 運動可否の判断・骨折リスク管理 | 骨粗鬆症・循環障害の評価と運動制限の設定 |
先輩から後輩へ:環境調整のポイント
「病棟や自宅の床が平坦だからといって、患者が生活している環境が平坦とは限らない。退院前に必ず屋外の傾斜・段差を確認してほしい。」
「普通のスニーカーで来院された患者さんの足底を見ると、小趾側のすり減りが著明なことがある。履物を見るだけで腓骨筋の問題が見えてくることもあります。」
「インソールの外側ウェッジ(外側を高くする)は腓骨筋への負荷を軽減しすぎる場合もある。装具士と連携して、強化訓練か免荷かを目的に応じて明確に分けることが大切です。」
Pitfallsと臨床判断のコツ。
傾斜路歩行の介入は有効ですが、新人セラピストが陥りやすい罠があります。事前に把握しておくことで、より安全で効果的な介入が可能になります。
臨床判断の分岐点
「患者さんが傾斜路で”緊張して体が固まる”と言ったら、それは有害な共活性が出ているサインです。傾斜を下げて安心感を取り戻してから再開しましょう。」
「傾斜路でも歩行速度が落ちない患者さんは、代償戦略が巧みなだけかもしれない。EMGや歩行観察で腓骨筋が本当に活性化しているかを確認することが重要です。」
予後とゴール設定。
傾斜路訓練を含む包括的な腓骨筋・バランス訓練は、比較的短期間で効果が現れやすい介入の一つです。ただし患者の病態・発症からの期間・認知機能によって予後は大きく異なります。
短期ゴール(2〜4週):平地での腓骨筋随意収縮の改善。小趾側荷重の意識化。TUGの改善(10%以上)。
中期ゴール(4〜8週):低傾斜路(5〜10°)での安定した歩行の獲得。介助量の段階的減少。
長期ゴール(8週以降):屋外の実際の傾斜路での自立歩行。転倒件数の減少。外出頻度の向上。
よくある質問。
Leeらの研究によると、内外側傾斜路において25°の傾斜角で腓骨筋の最大活動が確認されています。
傾斜が徐々に増加するにつれて腓骨筋のEMG活動も増加するため、臨床では段階的な傾斜増加が推奨されます。
内側に傾斜した傾斜路において、腓骨筋・前脛骨筋および外側腓腹筋の活性化が大幅に増加することが確認されています。
内側傾斜路は足関節の外反方向への負荷が増大するため、腓骨筋の主動筋としての働きが高まります。
外側縦アーチは長腓骨筋・短腓骨筋・小趾外転筋で構成されています。腓骨筋が低下するとアーチが低下し、小趾側荷重が不安定となります。
代償として母趾側荷重が強まるケースも多く、脳卒中患者やOA患者で特に注意が必要です。
恐怖や危険への注意が筋の共活性を介して腓骨筋EMG振幅を増幅させる可能性があります。特に高齢者や脳卒中患者では過度な恐怖が過剰な筋緊張を招く可能性があります。
必ず徒手介助や手すりを用意し、段階的に傾斜角度を増やすことが推奨されます。
脳卒中患者は麻痺側の腓骨筋活動が低下していることが多く、傾斜路での代償戦略が健常者と異なります。まず平地での腓骨筋評価を行い、十分な支持基底面の確保・徒手介助のもとで段階的に傾斜を増加させることが重要です。
転倒リスクアセスメントを事前に必ず行ってください。
「小指の付け根を床に押し付けるイメージで」という言語的フィードバックが有効です。セラピストが母趾球側に軽く圧を加えながら小趾側へ誘導するタクタイルキュー(触覚的手がかり)も腓骨筋の随意的活性化を助けます。
鏡や圧力計を用いた視覚フィードバックも補助的に有用です。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABは、脳神経系に特化した自費リハビリ施設です。「また外を歩きたい」「転倒が怖い」というご家族・ご本人のお悩みに、専門的なアプローチで向き合います。バランス機能・腓骨筋・歩行の評価から始まり、実際の生活環境を想定した訓練プログラムをご提供します。

— STROKE LABでのリハビリの実際の様子です。
「腓骨筋を鍛えるには、傾斜という”環境”を使うのが実は一番自然です。患者さんが自分の足の裏を感じながら歩く体験は、どんな筋力訓練よりも神経系への入力が豊かです。」— PT・経験15年・神経リハビリテーション専門
「小趾側の荷重は見落としがちです。脳卒中の患者さんが”平地は歩けるのに外が怖い”と言うとき、その鍵が腓骨筋にあることは珍しくありません。評価に小趾側荷重を必ず組み込むようにしてから、歩行の問題が整理しやすくなりました。」— OT・経験10年・脳卒中リハビリ専門
諦めないでください。

腓骨筋の低下は、見過ごされやすい問題です。病院での平地歩行訓練が自立しても、外に出た途端に不安定になる——そのギャップに悩む患者さんやご家族と、私は長年向き合ってきました。
STROKE LABでは、「生活の中で本当に必要な動きを取り戻す」ことをゴールに設定します。傾斜路・屋外環境を想定した実践的なリハビリを、お一人おひとりに合わせてご提案します。
まずは無料相談で、現状とご要望をお聞かせください。一緒に道筋を考えます。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)