【2026年版】電気刺激が亜脱臼を軽減させる!?脳卒中患者の肩周囲筋に対するNMESの効果と臨床活用術
上腕二頭筋まで診るFESが、肩関節亜脱臼を防ぐ。
棘上筋・三角筋への電気刺激は定石ですが、それだけで裂隙が減らない患者に何度も出会うはずです。上腕二頭筋長頭という第三の標的を、エビデンスと臨床パラメータから整理します。
要点5項目。
臨床現場でこう出会う。
70歳代男性。右被殻出血による左片麻痺、発症3か月(回復期リハビリテーション病棟)。Br.stage上肢II、FIM運動項目は上肢動作関連で低値。主訴は「起き上がるときに肩が痛む」。
初回評価では、指幅法で肩峰下に約2横指の陥凹を触知し、X線上のアクロミオン-上腕骨頭間距離(AHI)は健側差で約1.5cmの開大。三角筋・棘上筋ともに随意収縮は触知困難でした。
この場面で「痛み止めと安静」で終わらせるか、「亜脱臼への積極的介入」に踏み込めるかが、その後のADL回復とQOLを大きく左右します。本記事では、この症例を軸にFESを含む介入の考え方を整理します。
定義と疫学。
肩関節亜脱臼とは、肩甲骨関節窩に対して上腕骨頭が部分的に位置異常を起こした状態です。脱臼と異なり関節面の接触は保たれていますが、支持組織の破綻により重力方向(下方)へ偏位します。
脳卒中後の片麻痺患者では代表的な合併症の一つで、痛みや後述するADL阻害の起点になりやすいため、回復期早期からの評価が推奨されます。
Paci M, Nannetti L, Rinaldi LA. Shoulder subluxation after stroke: relationships with pain and motor recovery. Physiother Res Int. 2005;10(4):216-22. では、亜脱臼の程度が上肢運動機能の回復不良と関連する一方、痛みとの関連は一貫していないと報告されています。「亜脱臼=痛みの直接原因」と短絡的に結び付けないことが臨床判断のポイントです。
なぜ肩関節で起きやすいのか

肩関節はもともと可動性を優先した浅い関節窩構造で、骨性の安定性に乏しく筋・靱帯による動的安定に依存しています。
棘上筋・三角筋の随意収縮が消失し、上腕骨頭を関節窩へ引き寄せる力が失われます。
車椅子やベッド上での不良姿勢が重力の牽引力を助長し、関節包・靱帯の伸張を進行させます。
— ご本人・ご家族の状況を丁寧にお伺いします
STROKE LABでは神経疾患のリハビリに精通したスタッフが、肩の亜脱臼・痛みを含む後遺症を集中的にサポートします。まずは無料相談で現状をお伝えください。
神経メカニズムと責任病巣。
①脳神経学的視点:中枢神経の再編成遅延と反射異常による動的安定性の欠如。②バイオメカニクス的視点:上腕骨頭を関節窩に押し込む筋群の機能低下と肩甲胸郭リズムの破綻。③臨床的視点:ポジショニングや介助動作の質。この3層構造で評価すると、介入の優先順位が見えてきます。
上腕二頭筋長頭が注目される理由
上腕二頭筋長頭腱は関節窩の上方を通過し、腱板とともに上腕骨頭を求心位に保つ「動的安定化機構」の一部を担います。棘上筋・三角筋だけでなく、この筋を随意的に働かせるタイミングを作れるかが、亜脱臼改善の鍵になります。

Turner-Stokes L, Jackson D [SR/MA]:Clin Rehabil誌(2002年)による脳卒中後肩痛の統合的レビューでは、亜脱臼・痙縮・軟部組織損傷・肩手症候群など複数の病態が重複しうるため、単一原因への還元的介入では不十分であると指摘されています。
鑑別診断。
「肩の痛み=亜脱臼」と即断すると、他の病態への介入が遅れます。以下の鑑別を必ず押さえてください。
| 鑑別疾患 | 共通点 | 鑑別ポイント | 参考検査 |
|---|---|---|---|
| 肩関節周囲炎(拘縮期) | 運動時痛・可動域制限 | 他動可動域が全方向に強く制限。亜脱臼裂隙は目立たないことが多い | MRI(関節包肥厚) |
| 腱板断裂 | 下方偏位・挙上筋力低下 | 高齢者や既往歴があれば疑う。麻痺の回復度と亜脱臼の程度が不釣り合いな場合 | 超音波・MRI |
| 肩手症候群(CRPS type I) | 肩の痛み・浮腫 | 手指・手背の腫脹、皮膚温変化、自律神経症状を伴う | 骨シンチグラフィ |
| 頸椎症性神経根症 | 肩〜上肢の放散痛 | 頸部運動での症状再現、デルマトームに沿った感覚障害の有無 | 頸椎MRI |
評価尺度と採点基準。
亜脱臼の評価は「触診による指幅法」と「画像によるAHI計測」の二段構えで行うのが基本です。
| 項目 | 採点基準 | カットオフ値 | 解釈 |
|---|---|---|---|
| Grade 0 | 陥凹を触知せず | 健側差 0cm程度 | 正常範囲 |
| Grade 1(軽度) | 1横指未満の陥凹 | 健側差 〜1.0cm | 早期からのポジショニング指導を開始 |
| Grade 2(中等度) | 1横指の陥凹 | 健側差 1.0〜2.0cm | FES含む積極的介入の適応を検討 |
| Grade 3(重度) | 2横指以上の陥凹 | 健側差 2.0cm以上 | 整形外科的評価と併せた慎重な介入計画が必要 |
出典[専門家合意]:指幅法は検者内信頼性が高い一方、検者間差が生じやすいため同一検者での経時評価が推奨されます。AHI計測のMCID(臨床的最小変化量)は確立された統一基準がまだ乏しく、既存記事にも明記がないため、臨床では「健側差0.5cm以上の変化」を目安の一つとして扱い、今後の高品質研究の蓄積が必要な領域です。
介入のエビデンス(FES)。
FES(Functional Electrical Stimulation:機能的電気刺激療法)は、麻痺筋に電気刺激を与えて収縮を誘発し、関節の動的安定性を補助する介入です。以下の4ステップで実施します。
基本は棘上筋・三角筋後部。触診で二頭筋長頭の収縮が乏しい場合は追加を検討します。
周波数25〜35Hz、パルス幅200〜300µs、オン/オフ比1:3〜1:5、1回15〜30分を目安に設定します。

タオルスライドや挙上動作に合わせて刺激を入れ、受動収縮を能動的な運動学習へつなげます。
— タオルスライド練習やADL動作模倣とFESを組み合わせる実施例。
週3回から開始し5週間を1クールとして、AHIや指幅法の変化を見ながら頻度を調整します。
Manigandan JB, Ganesh GS, Pattnaik M, Mohanty P [単独RCT]:NeuroRehabilitation誌(2014年)、n=24の2群比較RCT。棘上筋・三角筋後部への刺激に上腕二頭筋長頭を追加した群(グループII)で、5週間後の亜脱臼・痛み・肩関節外転可動域の改善がより有意でした(事後検定で群間差あり)。刺激パラメータは周波数25〜35Hz、オン/オフ比1:3〜1:5、1回15〜30分。
Vafadar AK, Côté JN, Archambault PS [SR/MA]:Biomed Res Int誌(2015年)のシステマティックレビュー・メタ分析では、脳卒中後上肢へのFESが機能的アウトカムを改善する一定のエビデンスを示す一方、対象筋の組み合わせによる優劣は研究間で一致していないと結論づけています。単独RCTの結果を過度に一般化しない姿勢が必要です。

— グループI(棘上筋・三角筋後部)とグループII(二頭筋長頭追加)の比較データ。

STROKE LABでは神経リハ特化のオーダーメイドプランをご用意し、肩の痛みや亜脱臼を含む後遺症へ集中的に取り組んでいます。1回ごとのお支払い制で、無理なく続けられます。
多職種連携と環境調整。
なぜ一職種で完結しないのか
亜脱臼は訓練時間だけでなく、病棟での姿勢・介助方法によって悪化も改善もします。看護師・介護スタッフとのポジショニング共有が不可欠です。

「病棟看護師に亜脱臼のグレードと車椅子でのアームサポート位置を一言添えるだけで、日中の悪化を防げます。」
「医師には痛みの性状(可動時痛か安静時痛か)を必ず報告し、鑑別診断の判断材料にしてもらいましょう。」
| 職種 | 評価項目 | 主な介入内容 | 連携ポイント |
|---|---|---|---|
| PT | 亜脱臼グレード・可動域・痛み | FES、関節モビライゼーション、動作練習 | 評価結果を経時的に他職種へ共有 |
| OT | ADLでの上肢使用状況 | アームスリング適合、片手動作指導 | PTの可動域制限情報を動作指導に反映 |
| ST | 高次脳機能・疼痛の訴え方 | 失語がある場合の痛み評価支援 | 非言語的サインの共有 |
| 看護師 | 病棟でのポジショニング | 車椅子・臥位でのアーム支持 | PT指示のポジショニングを日中も継続 |
| 医師 | 鑑別診断・画像評価 | X線・薬物療法の要否判断 | 腱板断裂等疑いは早期報告 |
| MSW | 退院後の生活環境 | 福祉用具導入、自費リハ含む継続支援先の調整 | 退院後もリハビリを継続できる情報提供 |
つまずきポイントと臨床判断のコツ。
新人療法士がFESを使い始める際、よく陥る失敗パターンを3つ整理しました。
効果判定の視点
「電気のオン/オフで肩の見え方がどう変わるかを、患者さん自身にも見てもらうと、モチベーションが上がりますよ。」
「1〜2週間で目に見える変化がなくても焦らず、5週間という研究期間を目安に評価してみてください。」
予後とゴール設定。
亜脱臼の改善は運動麻痺の回復と並行することが多いですが、痛みの軽減や日常生活動作の改善を独立したゴールとして設定することが重要です。

— 発症後6か月以降でもリハビリによる上肢機能改善が示された報告のまとめ。
Hatem SM, Saussez G, della Faille M, et al. Rehabilitation of motor function after stroke: a multiple systematic review focused on techniques to stimulate upper extremity recovery. Front Hum Neurosci. 2016;10:442. では、発症後6か月以降でも上肢のリハビリでFMA・ARATが有意に改善する報告が複数示され、自然回復曲線の頭打ちを押し上げる技術が多岐に存在すると整理されています。亜脱臼を含む肩関節機能の予後判断でも、時期のみで介入を打ち切らない視点が重要です。
よくある質問。
棘上筋・三角筋後部への刺激が基本ですが、上腕二頭筋長頭を追加することで亜脱臼と痛みの改善がより大きくなったとする単独RCTがあります。ただし上位のシステマティックレビューでは筋の組み合わせによる優劣は確定していないため、対象筋の選択は個々の随意収縮の有無や痛みの部位に応じて判断してください。
周波数25〜35Hz、パルス幅200〜300µs、オン/オフ比1:3〜1:5を目安に、1回15〜30分、週3回以上、5週間程度を1クールとして設定し、患者の反応を見ながら調整します。
臨床では指幅法(アクロミオンと上腕骨頭間の触診)、画像的にはX線でのアクロミオン-上腕骨頭間距離(AHI)が用いられます。指幅0〜3以上の4段階、AHIは健側との差が1cm以上で明らかな亜脱臼と判断されることが多いです。
刺激強度を可視的な筋収縮が得られる最小限に留め、皮膚状態と疼痛反応を都度確認すれば実施可能とされています。ただし痛みの原因が腱板断裂やCRPSなど他病態の場合は、鑑別を先に行う必要があります。
運動麻痺の回復に伴い自然に軽減する例もありますが、放置により関節包や靱帯が伸張され、痛みや可動域制限が固定化するリスクがあるため、早期からのポジショニングと介入が推奨されます。
電気刺激による受動的な筋収縮だけに頼らず、患者自身の随意運動のタイミングに刺激を同期させること、そして触診・画像評価で効果を継続的にモニタリングする姿勢です。
STROKE LABのプログラム。
保険リハビリの日数・時間には上限があり、「もっと良くしたい」という気持ちにブレーキがかかるのが現実です。STROKE LABは自費リハビリとして、時間・内容・頻度を自由に設計できるオーダーメイドプランを提供しています。

— 自費リハビリという新しい選択肢と、STROKE LABが叶える未来。
— 実際のリハビリでどのように身体が変化していくかを撮影した動画です。
「発症4か月・重度亜脱臼の利用者様を担当した際、通所リハだけでは週2回が限界でした。当施設で週3回のFES併用プランに切り替え、8週間で指幅法1横指分の改善と、更衣動作での痛みの軽減が得られました。頻度を確保できることの価値を実感した症例です。」— 理学療法士・臨床経験8年、脳血管疾患担当
「亜脱臼と肩手症候群が併存していた利用者様で、当初はFESの適応か判断に迷いました。医師と連携し浮腫・皮膚温を確認したうえで刺激強度を控えめに設定し、痛みを悪化させずに可動域を維持できました。鑑別を怠らないことの重要性を学びました。」— 作業療法士・臨床経験6年、上肢機能担当
あわせて読みたい:【2026年最新版】亜脱臼のメカニズムとは?脳卒中と整形外科疾患の違いから評価・治療・リハビリまで徹底解説
諦めないでください。

肩の痛みや亜脱臼を抱えながらも、「まだ間に合うかもしれない」と感じているなら、その直感は正しいかもしれません。
発症から時間が経っていても、最新のエビデンスに基づいた介入で変化が得られる可能性は十分にあります。
STROKE LABでは、あなたの状態に合わせたオーダーメイドプランで、痛みなく上肢を使える生活を一緒に目指します。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)