靴ひもを結べない子|両手協調と手順記憶の育て方
靴ひもを結べない子ども|両手協調・手順を「工程」で見る練習と相談の目安
「何度教えても途中で止まる」「輪を作ったところで崩れてしまう」「机ではできるのに、履くとできない」。靴ひも結びは、指先の器用さだけで決まる動作ではありません。大切なのは、できないことを一括りにせず、“どの一手で、どの条件になると止まるのか”を見ることです。家庭でできる練習から、相談の目安、専門施設での見方まで整理します。

靴ひも結びは、指先だけの課題ではありません。
蝶結びは、左右のひもを交差させ、片方を通し、輪を作り、その輪を保ったまま反対側を回し、できた隙間へ通し、最後に左右を引くという連続した動作です。つまり、手指を細かく動かす力に加えて、片方の手で形を保ちながら、もう片方の手で次の操作を進める必要があります。
さらに、手元を見続けること、左右のひもの位置関係を把握すること、次の工程を思い出すこと、ひもが抜けない程度の力で保持することも必要です。だから「手先が不器用だから」と一言で終わらせるより、動作をいくつかの工程に分けた方が、その子に合った練習を選びやすくなります。
「どこで止まるか」で、見えてくる理由が変わります。
同じ「靴ひもが結べない」でも、最初から分からない子と、輪を作った後だけ崩れる子では、必要な助けが同じとは限りません。家庭では診断をする必要はありません。まずは、どの場面で成功が途切れるかを観察してみてください。
| 止まり方 | 考えられる負荷 | 家で見るポイント |
|---|---|---|
| 最初の交差から迷う | 左右・上下の位置関係、手順の開始 | 色を変える、見本を置くと開始できるか |
| 輪を作ると反対の手が離れる | 保持しながら別の手を動かす両手協調 | 片側のひもを大人が固定すると続けられるか |
| 輪は作れるが、通す場所が分からない | 視覚・空間関係と手の軌道 | 輪や隙間を大きくすると成功するか |
| 最後に引くと全部ほどける | 力加減、左右同時の操作、途中形状の保持 | 太め・滑りにくいひもで成功率が変わるか |
| 机ではできるが、履くとできない | 姿勢、見る角度、作業距離、生活場面への般化 | 膝上→床→履いた状態で差が出るか |

左右の手・視線・手順・力加減・姿勢を分けて見ます。
片方は輪を保ち、もう片方はひもを回す。左右が同じ動きをするのではなく、別々の仕事を同時に行います。
輪、ひもの先、できた隙間を見つけながら、見た場所へ指を運びます。ひもが重なると見えにくさも増します。
一つの工程が終わったら、形を崩さず次へ移ります。説明はできても、実際の動作では次が出てこないこともあります。
強く握りすぎると指が動きにくく、弱すぎると輪がほどけます。操作中の保持と微調整が必要です。
実際に履くと、机上より手元が遠くなります。体を前へ倒したまま両手を細かく使う条件が加わります。
同じ子でも、ひもの材質、疲れ、急いでいる朝、周囲の刺激で成功率は変わります。条件を一つずつ変えてみると整理しやすくなります。
家では、「できる工程」から少しずつつなげます。
家庭で大切なのは、毎回最初から最後までやらせることではありません。失敗が続くと、「靴ひも=できない課題」になってしまいます。まずは成功しやすい条件を作り、本人が自分で終えられる工程を増やしていきます。
1. ひもを見やすくする。 左右で色が違うひも、太めで滑りにくいひも、大きめの輪から始めると、位置関係が分かりやすくなります。
2. 一工程だけ本人に任せる。 大人が途中まで作り、最後に左右の輪を引くだけ本人に任せるなど、「自分で完成できる」位置から始めます。
3. 声かけを短く固定する。 毎回説明を変えず、「交差」「輪」「回す」「通す」「引く」など、本人が分かる短い言葉にします。
4. 最後は実際の靴で確かめる。 机上でできたら、膝上、床、履いた状態へ。練習条件を少しずつ生活へ近づけます。
朝の登校前など、時間に追われる場面を練習時間にする必要はありません。生活の負担が大きいときは、面ファスナー式の靴や結ばないタイプを使い、落ち着いた時間に習得練習を分ける方法もあります。生活を自立して進めることと、靴ひもの技能を練習することは、別々に設計してかまいません。

靴ひもだけの苦手か、生活全体の困りごとか。
靴ひもがまだ結べない、という一つの事実だけで、発達性協調運動症(DCD)などを判断することはできません。一方でDCDでは、靴ひもやボタンなどの着替え、書字やはさみ、スポーツなど、複数の日常活動で協調運動の難しさがみられることがあります。
着替え・食具・はさみ・書字・ボール遊び・自転車など複数の場面で困りごとが続く、練習しても生活への影響が大きい、本人が強く落ち込む・避ける、学校生活に支障がある場合は、小児科や発達相談、作業療法・理学療法などの専門職へ相談すると整理しやすくなります。急に手が使いにくくなった、痛みやしびれがあるなど新しい身体症状が出た場合は、発達の問題と決めつけず医療機関へご相談ください。
研究は「実際の課題を練習する」方向を支持していますが、限界もあります。
日本作業療法士協会のDCDガイドラインでは、課題志向型アプローチを、本人中心・目標志向・課題と文脈に特異的・本人が能動的に取り組む方法として整理しています。2026年のAPTA小児理学療法ガイドラインでも、意味のある目標、課題志向型介入、家庭プログラム、介入量の検討、進捗の再評価が管理の重要な要素として扱われています。
この研究・ガイドラインから言える範囲:DCDと診断された、またはその可能性を評価している子どもへの介入原理です。「靴ひもが結べない子ども全員に同じ方法が有効」と示したものではありません。
7〜12歳のDCD児を対象としたCO-OPのランダム化比較試験では、子どもが選んだ目標の作業遂行は改善しました。一方、参加の尺度には明確な変化がみられませんでした。訓練室で課題が上手になった後も、家庭・学校で実際に使えるかを別に確認する必要があります。
この研究から言える範囲:対象はDCD児22名で、靴ひもだけを対象にした試験ではありません。生活への般化は自動的に起こるとは限らない、という読み方が重要です。
自閉症の男児3名を対象とした小規模研究では、動画で工程を提示した後、最後の工程から完成させる後方連鎖を加えることで、靴ひも結びの達成工程数が増えた例が報告されています。家庭で「最後だけ本人に任せる」という工夫の背景にある考え方です。
限界:対象は自閉症児3名であり、一般児やDCD児へ効果をそのまま外挿できません。また、課題志向型介入全体については、古いCochraneレビューで研究の質が低く、効果推定への確信が低いと評価されています。ガイドラインの推奨と個々の研究の限界を分けて考える必要があります。
専門施設では、「なぜその一手で止まるか」を条件を変えながら確かめます。
家庭で行う工夫は、失敗や負担を減らし、生活の中で練習しやすくすることが中心です。専門施設では、その工夫でなぜ成功率が変わるのかを比較し、次に育てたい機能と生活で使える条件を整理します。診断や医学的治療の判断は医療機関が担い、リハビリ専門職は生活動作の分析と支援設計を併走します。
専門施設の役割は、靴ひもを何十回も結ばせることではありません。交差、輪づくり、保持、回す、通す、引くという工程の中で、どの条件を一つ変えると成功が戻るのかを確かめます。その反応が、介入の優先順位を決める材料になります。
たとえば、輪を大人が固定すると次へ進めるなら、「手順を覚えていない」と決めつける必要はありません。片方の手で形を保ったまま、もう一方を動かす段階に負荷が集中している可能性があります。反対に、色違いのひもではできるのに同色になると迷うなら、手指機能より視覚的な区別や空間関係の手がかりを調整した方がよいかもしれません。
| 観察される困りごと | 分けて考える要因 | 条件を変えて確認 | 支援の方向 | 生活で見る変化 |
|---|---|---|---|---|
| 輪を作ると反対の手が離れる | 保持と操作の同時処理 | 片側を固定すると成功するか | 外部固定→軽い補助→本人のみへ | 大人が輪を持たなくても続けられる |
| 「次どっち?」で止まる | 順序・空間関係・手がかりの使い方 | 言葉、実演、色分けで差を見る | 短い認知方略+実課題練習 | 同色ひもでも自分で次へ進める |
| 手順は言えるのに手が動かない | 知識と実際の運動のつながり | 説明・模倣・実演を分けて比較 | Goal→Plan→Do→Checkの自己方略 | 逐語指示なしで工程がつながる |
| 机ではできるが履くとできない | 姿勢・視野・作業空間・般化 | 机上→膝上→床→実際に履く | 実環境へ段階的に条件を近づける | 玄関や学校でも再現できる |
| 結べるが朝は失敗が増える | 時間圧・疲労・注意・環境刺激 | 時間制限なし/あり、静かな環境/実生活で比較 | 技能練習と生活上の代替を分ける | 登校準備が過度な負担なく進む |
私たちが特に見るのは、輪を維持したまま反対の手を動かした瞬間です。ここで崩れるなら、単純な指先の筋力や手順記憶だけでは説明しにくく、左右の手が異なる役割を並行して担う条件に負荷が集まっている可能性があります。
もう一つは、机上で成功した技能を、履いた状態へ移したときに何が崩れるかです。体幹の前傾、手元までの距離、視線、ひもの向きが変わるため、同じ「蝶結び」でも必要な制御は同じではありません。
一つの仮説に固執せず、条件を変えても結果が変わらなければ、その仮説の優先度を下げます。評価→仮説→条件変更→その場の反応→家庭や学校で試す→同じ目標動作を再評価する、という循環で支援を組み立てます。
訓練室で1回結べたことだけをゴールにはしません。たとえば、玄関で声かけなしに最後まで進める割合、支度に必要な時間、大人が手を出す回数、失敗しても自分でやり直せるかなど、実際の生活で確認できる指標へ置き換えます。
保護者の役割は「家で療法士になること」ではありません。短い合図、練習しやすい道具、急がなくてよい時間帯など、親子関係を壊さず続けられる最小限の条件を一緒に決めます。

STROKE LABでは、靴ひもだけを単独で見るのではなく、実際の生活動作の中で、両手の役割、視覚情報、手順、姿勢、環境条件を整理します。着替えや食事、書字など他の生活場面にも困りごとがある場合は、小児リハビリのページもご覧ください。
よくある質問。
Q. 何歳くらいから靴ひもを結べるようになりますか?
Q. 靴ひもが結べないのは、手先が不器用だからですか?
Q. 何度教えても順番を忘れるときは、どうすればよいですか?
Q. 机の上では結べるのに、履いた靴ではできないのはなぜですか?
Q. 結ばない靴ひもや面ファスナーの靴を使ってもよいですか?
Q. 靴ひも以外にも不器用さがある場合、相談した方がよいですか?
できる条件を一緒に探す。

子どもの「できない」は、同じ動作に見えても理由が一つとは限りません。靴ひも結びでも、手順、両手の役割、見え方、姿勢、道具、環境によって難しさは変わります。
私たちは、うまくいかない場面だけでなく、条件を変えたときに「できた瞬間」がどう生まれるかを大切にします。その変化から、必要な支援を組み立てていきます。
家庭や学校で困っている生活動作を整理したいときは、医療・発達支援と連携しながら、生活と動きの側から一緒に考えます。
代表取締役 金子 唯史

一つの動作を「できる・できない」だけで終わらせず、感覚、姿勢、運動、環境のつながりから読み解く視点は、小児の生活動作を考えるうえでも土台になります。
- ボタン・ひも結びができない子|手先の不器用さを姿勢・両手協調から見る(既存親記事・公開URL確認後にリンク)
- 着替えが苦手な子ども|服の前後・袖通し・ボタンをどう見るか(関連記事・URL確定後にリンク)
- 箸・スプーンがうまく使えない子|食事動作の手の使い方(関連記事・URL確定後にリンク)
- 手先が不器用な子ども|生活動作から見える困りごとの整理(親記事候補・URL確定後にリンク)
本記事は、公的な発達支援情報、国内外のガイドライン、関連研究とSTROKE LABの臨床的な動作分析の枠組みをもとに構成しています。靴ひもが結べないことだけで特定の診断を判断するものではありません。お子さんの状態についての医学的判断は、主治医・小児科医等へご相談ください(最終確認:2026年8月31日)。
- 発達障害情報のポータルサイト:発達性協調運動症.2024年8月22日更新.
- 岩永竜一郎,仙石泰仁,加藤寿宏:作業療法疾患別ガイドライン―注意欠如・多動症,自閉スペクトラム症,発達性協調運動症―.作業療法.2022;41(6):631-639.
- Sargent B, Mueller M, Iverson E, Frazier M, Kaplan SL. Physical Therapy Management of Children With Developmental Coordination Disorder: A 2026 Evidence-Based Clinical Practice Guideline From the American Physical Therapy Association Academy of Pediatric Physical Therapy. Pediatr Phys Ther. 2026;38(2):296-333.
- Araujo CRS, Cardoso AA, Polatajko HJ, Magalhães LC. Efficacy of the Cognitive Orientation to daily Occupational Performance (CO-OP) approach with and without parental coaching on activity and participation for children with developmental coordination disorder: A randomized clinical trial. Res Dev Disabil. 2021;110:103862.
- Rayner C. Teaching students with autism to tie a shoelace knot using video prompting and backward chaining. Dev Neurorehabil. 2011;14(6):339-347.
- Miyahara M, Hillier SL, Pridham L, Nakagawa S. Task-oriented interventions for children with developmental co-ordination disorder. Cochrane Database Syst Rev. 2017;7:CD010914.
- 金子唯史:脳の機能解剖とリハビリテーション.医学書院,2024,408頁。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)