【2024年版】麻痺側下肢に対する介入が体幹や姿勢に与える影響とは? 脳卒中/脳梗塞のリハビリ論文サマリー
論文を読む前に
本論文のテーマは脳卒中患者に対する麻痺側下肢の活性化がバランスと体幹の可動性に及ぼす影響についてです。講義形式で、論文に入る前に一般的な知識を整理しましょう。
背景: 脳卒中と麻痺側下肢の機能低下
脳卒中は中枢神経系に損傷を引き起こし、しばしば片側の筋力低下や麻痺を伴います。特に下肢の麻痺は、バランスの維持や体幹の可動性に重大な影響を及ぼし、転倒リスクの増加や歩行能力の低下を引き起こします。
講義の開始
丸山さん: 「金子先生、脳卒中患者の麻痺側下肢を活性化することで、バランスや体幹の可動性にどのような影響があるのでしょうか?」
金子先生: 「良い質問ですね、丸山さん。脳卒中患者における麻痺側下肢の機能低下は、バランスの不安定さや体幹の硬直を引き起こすため、リハビリテーションの重要な課題です。最近の研究によれば、麻痺側下肢を活性化するリハビリテーションがバランス機能と体幹可動性の改善に効果的であることが示されています。」
麻痺側下肢の活性化がバランスに与える影響
筋力強化とバランス改善:
- 麻痺側の下肢筋力強化は、体重支持能力の向上につながります。これにより、立位での安定性が改善され、重心の制御が容易になります 。
- 具体的には、筋力トレーニングや電気刺激療法を通じて、麻痺側の筋力を強化することが、バランスの維持に貢献します。特に、足関節周囲の筋肉の強化が重要です。
感覚入力の回復とバランス制御:
- 麻痺側の感覚入力を強化することで、バランス制御が向上します。これは、感覚入力がバランスを維持するためのフィードバックシステムに重要な役割を果たすからです。
- 例えば、鏡を使用した運動療法やバランスボードトレーニングが有効であると報告されています 。
体幹可動性の改善
体幹と下肢の連携:
- 麻痺側下肢の活性化は、体幹と下肢の協調性を改善し、結果として体幹の可動性を向上させます。これは、日常動作や歩行時のバランス保持に重要です 。
- 例えば、体幹の回旋運動と連動した下肢運動のトレーニングは、体幹の柔軟性と可動域の拡大に寄与します。
姿勢制御と体幹筋の役割:
- 体幹筋の活性化と麻痺側下肢の連携は、安定した姿勢制御をサポートします。特に、腹筋や背筋群の活性化が、体幹の安定性と可動性を支える役割を果たします。
- 研究によれば、体幹筋と下肢筋の協調的なトレーニングが、バランスの向上と機能的な可動性の改善に効果的であるとされています 。
まとめ
金子先生: 「丸山さん、麻痺側下肢の活性化は、バランスと体幹可動性の改善において非常に重要です。これにより、転倒リスクの軽減や日常生活動作の向上が期待されます。リハビリテーションでは、麻痺側下肢の筋力強化と感覚入力の回復を重点的に取り入れることが、患者の全体的な機能回復に寄与します。」
丸山さん: 「非常に参考になりました。リハビリテーションでどのように麻痺側下肢の活性化を進めるべきか、しっかりと取り組んでいきたいと思います。」
論文内容
カテゴリー|脳卒中 歩行 バイオメカニクス
タイトル|片麻痺脳卒中患者のバランスと体幹可動性に対する麻痺側下肢の活性化の即時効果
Immediate effects of the activation of the affected lower limb on the balance and trunk mobility of hemiplegic stroke patients(Pubmedへ)
Kim YD:J Phys Ther Sci. 2015 May;27(5):1555-7
論文内容
目的・対象
●脳卒中片麻痺によりバランスと体幹可動性に影響を受ける下肢の活性化の効果を検証すること
●脳卒中片麻痺者により構成される歩行グループ(GG)6人,非歩行グループ(NGG)6人
方 法
●両グループの対象者とも一度下肢の促通訓練を施行(臨床経験11年目のPTにより30分間)
●脊椎計測分析器にて脊椎アライメント及びBerg balance scale(BBS)を測定
●感覚検査も実施((Semmes-Weinstein Monofilaments)
訓練内容
●内在筋ストレッチを施した後,前脛骨筋・長母趾伸筋・長趾伸筋に対して離開と圧迫を組み合わせながら筋活性化を図り,足指の開排を引き出すことで足指の運動性を促通
●またヒラメ筋に対して,腓腹筋をホールドした状態のまま筋の長さを引き出した
●さらに大腿直筋の遠位部を活性化するため,足関節の回外・背屈を伴った屈曲・伸展を反復実施
結 果
●歩行グループ:骨盤の直立位~前傾位,腰椎の直立位~伸展位,骨盤と腰椎の屈曲位から伸展位の角度は,介入後において各々で優位な増加を示した
●非歩行グループ:腰椎の直立位~伸展位での角度が有意な増加を示した
●BBSスコア:両グループで大幅に増加した
出典:Kim YD:J Phys Ther Sci. 2015 May;27(5):1555-7より一部修正・引用(クリックにて原著へ)
まとめ
●治療介入により,歩行グループでは骨盤前傾の角度改善を認めた
●非歩行グループではより強い胸郭の伸展を認め,これは直立位から屈曲する際に前方へ転倒しないための代償と考えられた
●しかし,両グループとも直立位から伸展する際に支持基底面(BOS)内に質量中心(COM)を保持するため,一層腰椎の屈曲を使ってバランスをコントロールする傾向にあった
明日への臨床アイデア
●セラピストが実際に介入し,即時効果を検証するという臨床家としてとても興味深い知見.
●結果としては,11年目のセラピスト施行のもと下肢のActivationはバランス・体幹可動性に即時効果があったことを報告している
●訓練の中身として,Intrinsic M(内在筋)をActivationした後,Extrinsic M(外在筋)にアプローチしていくことで,下腿の過活動に依存することなく足部荷重の反応性をあげているように思える.
●さらに歩行の観点からみた場合,GAS(腓腹筋)とSOL(ヒラメ筋)の筋滑走を促すことで,TstにおけるGASが求心位を保持しながらSOLは遠心的に伸張し,Tst~PswにかけたGASとRF(大腿直筋)の同時収縮による膝のStabilityとSwへ向けた慣性の生成に寄与できるようにしているのではないかと感じた.
●その結果,RFの遠位部がActivationされたことで介入後における歩行グループの股関節屈筋群の負荷を軽減し,骨盤前傾とそれに伴う腰椎伸展成分の増加に至ったのではないかと考える.
●昨今のニューロリハでBMIが話題になることが多くなってきているが,そのBMIを使用するにあたってもこのStudyのような「どこをどのようにActivation&Facilitationするのか?」という患者の身体的問題の本質を熟知したセラピストが使用するのか否かでも成果は違ってくるように思えたため,セラピスト個々の分析能力と実践能力の重要性を再確認した.
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退院後のリハビリは STROKE LABへ
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023)