vol.284:移乗動作と上肢位置 脳卒中/脳梗塞のリハビリ論文サマリー
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カテゴリー
バイオメカニクス
タイトル
移乗動作時の体幹と肩関節の運動学・床反力に対する、手の位置の違いによる影響
Effect of different hand positions on trunk and shoulder kinematics and reaction forces in sitting pivot transfer.?PubMed
Kim SS J Phys Ther Sci. 2015 Jul;27(7):2307-11. doi: 10.1589/jpts.27.2307
なぜこの論文を読もうと思ったのか?
・移乗動作において上肢の位置は非常に重要である。今回、上肢の位置の違いで移乗動作にどう影響が出るかを調べた論文をみつけ、興味深かったため読もうと思った。
内 容
背景・目的
・脊髄損傷患者(SCI)運動感覚機能障害からADL低下をきたし、車いす生活になることも少なくない。
・SCI患者は上肢痛を訴えることが多く、有病率は58.5%と報告されている。
・原因となる動作として移乗動作が挙げられ、一日平均15~20回行うと言われている。
・ピボット様移乗動作(SPT)は開始位置の椅子から(Iseat)から終了位置の椅子(Tseat)へ移る際、両下肢を軸に両上肢を使用して移乗することと定義する。
・SPTでは肩関節は内旋、外転する必要があり、これが肩関節へインピンジメント様の負荷となっていると著者は考えている。
・本研究では上肢位置の高さの違いにおける肩関節への負荷の違いを検証する。
方法
・実験は以下の図のように行った。
図:実験方法 Kim SS (2015)より引用
・開始の合図とともに移乗動作を行った。被験者は最大限下肢を使わないように指示された。
・開始位置(Iseat)の上肢の高さは50cm、終了位置(Tseat)の上肢の高さを40cmもしくは50cmとし、2条件を比較した。
・動作中の上肢と体幹の角度を計測した。
・Tseat側の上肢をLH、Iseat側の上肢をTHとした。
結果
表1:実験結果 Kim SS (2015)より引用
・体幹の最大屈曲・側屈・回旋角度は座面が低い方が有意に大きい値を取った。
表2:実験結果 Kim SS (2015)より引用
・肩関節最大屈曲角度はTH・LHともに座面の高さで有意差が得られ、座面が低い方がより大きい屈曲角度を示した。
・肩関節最大外転・回旋角度はLHのみ有意差が得られ、座面が低い方が外転・回旋角度が大きかった。
図2:座面高の違いによる体幹肩関節屈曲角度の違い Kim SS (2015)より引用
表3:実験結果 Kim SS (2015)より引用
・前後方向の床反力ではTHのみ座面の高さによる有意差が得られ、座面が低い方が大きい床反力を得た。
・左右方向の床反力ではTHのみ座面の高さによる有意差が得られ、座面が低い方が小さい値を示した。
・垂直方向の床反力はTH、LHともに有意差は得られなかった。
私見・明日への臨床アイデア
・座面を低くすることで体幹屈曲や肩関節角度が大きくなることがわかった。本研究の著者によると体幹の屈曲角度が小さいと肩関節インピンジメントを生じやすいと述べており、座面を低くすることで肩関節痛の予防になることが示唆された。移乗動作の際の環境設定は移動側の座面は低い方が良いということが改めて証明されたのではないか。
職種 理学療法士
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1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2012~2014:イギリス(マンチェスター2回,ウェールズ1回)にてボバース上級講習会修了 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 現在計 9万人超え 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023)