【2026年版】舌の筋の機能解剖と構造とは?摂食・嚥下・構音の評価・リハビリテーションまで解説
舌は「1つの筋肉」ではない。8種の筋と神経支配を、嚥下・構音・姿勢に活かす臨床知に変える。
舌は内舌筋4種・外舌筋4種で構成される精巧な器官で、口蓋舌筋だけ支配神経が異なります。球麻痺と仮性球麻痺の鑑別から、頭部前方位が嚥下筋に与える影響まで、新人PT・OT・STが現場で迷わないための知識を整理しました。

要点5項目。
臨床現場でこう出会う。
発症4日目、右片麻痺(BRS上肢Ⅲ)、NIHSS 9点、JCS I-1。家族の訴えは構音障害と食事中のむせ。
初回評価では、安静時舌はほぼ正中だが突出時に軽度右偏位、萎縮・線維束性攣縮なし、RSST 2回/30秒、フードテストでむせあり。偏位はあるのに萎縮がないという所見の意味を、新人はここで初めて突きつけられます。
この症例の答えは第3章で扱います。まず押さえたいのは「舌の偏位=球麻痺」ではないという点です。仮性球麻痺(両側性の上位運動ニューロン障害)でも軽度の偏位は起こり得ます。舌を正しく評価するには、解剖と神経支配の理解が土台になります。
舌の定義・機能・疫学。
舌は骨格を持たない筋肉流体系(Muscular Hydrostat:MH。骨格に依存せず油圧に近い力学で動く構造)として機能します(Kier & Smith 1985)。タコの触手と同じ原理で、多方向への変形・移動が可能です。味覚・発声・嚥下という3大機能を担い、嚥下4段階(先行期・準備期・口腔期・咽頭期)のうち準備期・口腔期で中心的な役割を果たします。
舌と口蓋の間に生じる舌圧は嚥下口腔期の推進力の主体です。正常値は健常成人(20〜39歳)で約40kPa、60歳代で約30kPaが目安。20kPa以下は嚥下障害・低栄養のリスク指標です(Utanohara et al. 2008, Dysphagia)。国内ではJMS舌圧測定器が標準として使用され、所要時間1〜2分です。
舌の役割を機能ステップで整理する
横舌筋・垂直舌筋が舌の断面形状を制御し、茎突舌筋が食塊を保持する谷(trough)を形成します。
上縦舌筋とオトガイ舌筋が舌背を前から後へ波状に動かし、硬口蓋に押し付けて食塊を咽頭へ送ります。
舌根部と口蓋舌筋が口峡を閉鎖し、食塊の逆流を防ぎながら咽頭への推進を補助します。

— ご本人・ご家族の状況を丁寧にお伺いします
STROKE LABでは解剖・神経支配の理解に基づいた評価と、姿勢からの統合アプローチで、患者様お一人おひとりに合わせたプランをご提案します。
神経メカニズムと責任病巣。
内舌筋:上縦舌筋(舌先を上方カール)・下縦舌筋(舌先を下方カール)・横舌筋(舌の幅を狭め前後に伸ばす)・垂直舌筋(舌を扁平化)。すべて舌下神経(CN Ⅻ)支配。外舌筋:オトガイ舌筋(突出)・舌骨舌筋(後退・下制)・茎突舌筋(上後方挙上)はすべて舌下神経支配ですが、口蓋舌筋(PG)のみ迷走神経(咽頭神経叢)支配です(Sanders & Mu 2013, Anat Rec)。

舌体(前2/3)vs 舌根(後1/3)の感覚神経
分界溝(Sulcus terminalis)を境界に、舌体(前2/3)の味覚は鼓索神経(CN Ⅶ枝)、一般感覚は舌神経(CN Ⅴ₃)が担います。舌根(後1/3)は味覚・一般感覚とも舌咽神経(CN Ⅸ)です。「前1/3」という表記は略記であり、臨床では「舌体(前2/3)」「舌根(後1/3)」を基本としてください。

球麻痺[専門家合意]:延髄・舌下神経核の下位運動ニューロン障害。舌の患側萎縮・線維束性攣縮・突出時偏位・筋緊張低下が特徴。
仮性球麻痺[専門家合意]:両側大脳皮質・内包の上位運動ニューロン障害。萎縮なし・攣縮なし、感情失禁・下顎反射亢進が特徴。
Wallenberg症候群[専門家合意]:後下小脳動脈または椎骨動脈閉塞による延髄外側症候群。舌下神経核は延髄背内側にあり通常直接障害されないため、嚥下障害の主因は舌ではなく舌咽神経・迷走神経障害による軟口蓋・咽頭麻痺です。NIHSSスコアは低くなりやすい一方、誤嚥・咽頭残留リスクは高く、VE(嚥下内視鏡)での評価が必須です。
「舌の萎縮とfasciculationの有無」は、球麻痺と仮性球麻痺を見分ける最初の視診ポイントです。
鑑別診断。
舌・構音・嚥下の症状を呈する疾患は複数あり、責任病巣によってリハビリの方向性が大きく異なります。代表的な鑑別対象を整理します。

| 鑑別疾患 | 共通点 | 鑑別ポイント | 参考検査 |
|---|---|---|---|
| 延髄梗塞(球麻痺) | 構音障害・嚥下障害 | 舌の萎縮・線維束性攣縮、患側偏位 | MRI(延髄)、EMG |
| 両側皮質下梗塞(仮性球麻痺) | 構音障害・嚥下障害 | 感情失禁、下顎反射亢進、萎縮なし | MRI(両側白質病変) |
| Wallenberg症候群 | 嚥下障害、NIHSS低値 | 舌自体は保たれ、軟口蓋・咽頭麻痺が主体 | VE、MRI(延髄外側) |
| ALS(早期) | 舌の萎縮・線維束性攣縮 | 進行性、上下肢の筋力低下を伴う | 針EMG、超音波(GG筋厚) |
| 重症筋無力症 | 構音障害・嚥下障害(易疲労性) | 日内変動あり、眼瞼下垂を伴うことが多い | 抗AChR抗体、反復刺激試験 |
新人が混同しやすいのはWallenberg症候群です。舌の視診所見だけで嚥下障害の重症度を判断しないことが重要です。
評価尺度と採点基準。
舌・構音・嚥下の評価はSTが主担当する精密評価と、PT・OTが担うスクリーニングに分かれます。役割を整理したうえで、代表的な評価尺度の採点基準を確認しましょう。

| 項目 | 採点基準 | カットオフ値 | 解釈 |
|---|---|---|---|
| 舌圧測定(JMS) | 硬口蓋への最大等尺性圧を機器で測定 | 20kPa以下 | 嚥下障害・低栄養リスク(Utanohara 2008) |
| フレンチェイ構音障害評価 | 呼吸・発声・顔面・口唇・顎・口蓋・喉頭・構音速度を9段階評価 | 各項目の相対的低下 | 舌機能を含む構音の総合的重症度 |
| AMR(パタカ速度) | 「パ・タ・カ」を最大速度で反復し回/秒を算出 | 年齢別基準値との比較 | 「タ」「カ」低下は舌の巧緻性低下を示唆 |
| RSST | 30秒間の空嚥下回数 | 3回未満 | 咽頭期障害の疑い |
[SR/MA]:舌圧プローブ(IOPI等)の測定信頼性・妥当性は複数のsystematic reviewで確認されています(Adams et al. 2013, Dysphagia)。RSSTは咽頭期障害スクリーニングとして臨床的妥当性が広く認められていますが、単独では確定診断とならず、異常時はVE/VFへの紹介が必要です。MCIDは測定機器・対象疾患により異なるため、施設のプロトコルに従って解釈してください。
介入のエビデンス。
舌のリハビリテーションはFournierが臨床的な枠組みを提唱した先駆者ですが、反復的な舌突出・挙上訓練が一次運動野に皮質可塑性を誘発することを実証したのは、Fournierより後のDoeltgen et al. 2009・Boudreau et al. 2013等のfMRI/TMS研究です。「反復性」と「集中性」が皮質再組織化の鍵とされています。

舌可動域・筋力向上、皮質可塑性促進が目的。週5回・1回30反復・4週間が標準プロトコルです。
最大等尺性舌圧の60〜80%負荷で、30回×3セット・週3〜5回。口腔期推進力(舌圧)を強化します(Robbins et al. 2005)。
原著プロトコル(Shaker et al. 1997)は等尺性保持1分×3回+等張性反復30回×3セット、週3回。舌骨上筋群を強化し食道入口開大を改善します。
チンタック10回×3セット/日、胸椎伸展エクササイズ、Shaker exerciseの組み合わせで舌骨上下筋のEMG活動正常化を図ります。
[単独RCT]:Song JI, Choi GW, Lee NS. J Phys Ther Sci. 2015;27(9):2883-2885. 健常者20名を対象に頭部前方位(FHP)と中立位(NHP)での口開口時の舌骨上筋・舌骨下筋の表面EMGを比較。SH・IH双方のEMG活動がFHPで有意に低下しました。「過緊張」ではなく「活動抑制」が正確な解釈です。
触診での筋の硬さ(受動的緊張)とEMG活動(神経筋活動量)は異なる概念であり、混同しないよう注意してください。

ケーススタディ:HFP患者への統合アプローチ(4週間)
55歳男性・事務職。主訴は長時間デスクワーク後の首・肩慢性痛と固形物嚥下時の軽度違和感。初期評価では頭部前方シフト約7cm・胸椎過屈曲約20度、嚥下時の舌骨挙上が視覚的にやや不十分でした(フードテスト正常・RSST 3回/30秒)。上記4ステップの介入を週3回・4週間実施した結果、頭部シフトは2cmまで改善し、嚥下時違和感・首肩痛はほぼ消失しました。

土台から整えるSTROKE LABの統合アプローチについて、ぜひ一度ご相談ください。PT・OT・STが連携し、患者様の生活全体を見据えたプログラムをご提案します。
多職種連携と環境調整。
PT・OT・STのトライアングル介入モデル
姿勢という「土台」を整えてから口腔・嚥下機能に介入する統合フローを採用しています。PTが体幹・骨盤・頸椎アライメントとHFP改善を担い、OTが食事姿勢セッティング・食具選択を担い、STが嚥下評価と直接的口腔・咽頭アプローチを担う三位一体連携です。週1回以上のカンファレンスでNIHSS・FIM・舌圧値・食事形態レベルを共有します。
「視診は『偏位』だけでなく『萎縮』『攣縮』もセットで見る。この3点セットの確認が球麻痺と仮性球麻痺の鑑別精度を上げる。」
「NIHSSが低くても油断しない。Wallenberg症候群のように重症度が過小評価される病態がある。」
| 職種 | 評価項目 | 主な介入内容 | 連携ポイント |
|---|---|---|---|
| PT | 姿勢・HFP・頸部アライメント | チンタック、胸椎伸展、Shaker exercise指導 | 嚥下準備条件の整備をSTに共有 |
| OT | 食事姿勢・上肢機能・食具操作 | 座位セッティング、食具選択、食事動作練習 | 安全な自力摂取の可否をSTと確認 |
| ST | 舌圧・VE/VF・構音評価 | 直接的口腔・咽頭アプローチ、構音訓練 | 食事形態・姿勢条件をPT・OTに共有 |
| 看護師 | 日常の食事場面での誤嚥兆候 | 口腔ケア、食事介助、体調管理 | 日々の変化をカンファレンスで報告 |
| 医師 | 全身状態・画像所見・薬剤影響 | 診断確定、栄養ルート決定、リスク管理 | リハビリ処方・禁忌事項の明示 |
| MSW | 退院後の生活環境・介護体制 | 退院支援、社会資源の調整 | 食形態・介助方法の申し送り |
つまずきポイントと臨床判断のコツ。
新人セラピストが特に混同しやすい3つのポイントを整理します。
先輩からのヒント
「わからないまま報告しない。視診所見を言語化してから相談する習慣をつけると、STとの連携がスムーズになる。」
「NIHSSの点数だけで嚥下リスクを判断してはいけない。特に後方循環系の脳卒中では、必ずVEでの評価を優先する。」
「わからないまま報告しない」ことが一番のつまずき対策です。視診所見を言語化してから相談する習慣をつけましょう。
予後とゴール設定。
舌機能の予後は病巣の部位・範囲、発症からの介入開始時期、全身状態によって大きく異なります。球麻痺は残存筋力に応じた代償戦略が中心となる一方、仮性球麻痺は痙性の程度によって改善余地が変わります。
短期目標は「誤嚥なく安全に経口摂取できる食形態の確立」、長期目標は「常食に近い形態での経口摂取維持」や「日常会話が成立する構音レベルの獲得」など、機能面と生活面の両方から具体化します。舌圧値・RSST回数・AMR速度などの客観指標を定期的に再評価し、目標を都度修正することが重要です。
予後予測は単一の指標では判断できません。画像所見・神経学的所見・嚥下評価を統合し、多職種で目標を共有することが、患者様のQOL向上につながります。
よくある質問。
最重要ポイントは舌の萎縮と線維束性攣縮の有無です。球麻痺では舌の患側が萎縮し安静時に線維束性攣縮が見られ、突出時に患側へ偏位します。仮性球麻痺では萎縮も攣縮もなく、偏位は軽度で、感情失禁と下顎反射亢進が特徴的です。
直接的な口腔介入はSTの主領域ですが、PT・OTは姿勢改善による舌骨上下筋のEMG活動正常化、食事姿勢セッティング、舌UP positionを用いたバランス訓練応用、食事動作支援という根拠をもって間接的に舌機能を支援します。
発症直後のスクリーニング、STによる精密評価(VE・VF)、嚥下調整食の段階決定、PTによる姿勢評価、舌・口腔機能評価、週1回以上の多職種カンファレンスという流れで進めます。
健常者研究では効果が示されていますが、重度の舌麻痺・口腔過敏、口腔内に器具がある場合、重度の嘔吐反射がある場合は注意または適用困難です。脳卒中患者への外挿には限界があります。
舌突出訓練は週5回・1回30反復・4週間、舌圧強化は最大等尺性舌圧の60〜80%負荷で30回×3セット・週3〜5回、Shaker exerciseは原著プロトコルで週3回が目安です。
STは舌圧測定、VE・VF、フレンチェイ構音障害評価等を主担当します。PT・OTは舌の視診スクリーニング、RSST等のスクリーニング、食事観察、姿勢評価を補助し、異常があればSTへ紹介します。
STROKE LABのプログラム。
STROKE LABでは、姿勢・嚥下・構音を統合的に評価し、PT・OT・STが連携した個別プログラムを提供しています。解剖・神経支配の理解に基づいた評価と、エビデンスに基づく段階的な介入を組み合わせ、患者様お一人おひとりに合わせたリハビリをご提案します。
「頭部前方位の強い患者様で、STの直接訓練だけでは嚥下違和感が改善しなかったケースがありました。胸椎伸展とチンタックを先行させ、2週間後に再度ST訓練と組み合わせたところ、舌骨挙上の視覚的改善が見られました。姿勢が整わないまま口腔訓練だけを行っても効果が頭打ちになると実感し、以降は必ず姿勢評価を先行させています。」— PT・脳卒中専門リハビリ歴12年
「NIHSSが低いにもかかわらずVEで高度の咽頭残留を認めた延髄外側症候群の患者様がいました。舌の所見だけで安心せず、軟口蓋・咽頭の動きを重点的に評価し、食形態を慎重に段階づけました。NIHSSの点数だけで嚥下リスクを判断してはいけないと痛感し、後方循環系の脳卒中では必ずVEを優先するようになりました。」— ST・摂食嚥下認定看護師と連携
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諦めないでください。

舌の機能回復には「姿勢」「嚥下」「多職種連携」の3つの統合アプローチが鍵です。おひとりで悩まず、まずはお気軽にご相談ください。
脳卒中後の嚥下障害・構音障害・姿勢問題について、STROKE LABのスペシャリストが丁寧にサポートいたします。
退院後のリハビリでお悩みの方も、ぜひ一度お話をお聞かせください。
代表取締役 金子 唯史
参考文献。

1981 :長崎市生まれ 2003 :国家資格取得後(作業療法士)、高知県の近森リハビリテーション病院 入職 2005 :順天堂大学医学部附属順天堂医院 入職 2015 :約10年間勤務した順天堂医院を退職 2015 :都内文京区に自費リハビリ施設 ニューロリハビリ研究所「STROKE LAB」設立 脳卒中/脳梗塞、パーキンソン病などの神経疾患の方々のリハビリをサポート 2017: YouTube 「STROKE LAB公式チャンネル」「脳リハ.com」開設 2022~:株式会社STROKE LAB代表取締役に就任 【著書,翻訳書】 近代ボバース概念:ガイアブックス (2011) エビデンスに基づく脳卒中後の上肢と手のリハビリテーション:ガイアブックス (2014) エビデンスに基づく高齢者の作業療法:ガイアブックス (2014) 新 近代ボバース概念:ガイアブックス (2017) 脳卒中の動作分析:医学書院 (2018) 脳卒中の機能回復:医学書院 (2023) 脳の機能解剖とリハビリテーション:医学書院 (2024) パーキンソン病の機能促進:医学書院 (2025)