2016.03.23脳科学トピック
<脳科学トピック>脳卒中で損傷しなかった一次運動野は運動機能に影響を及ぼすのか?〜損傷部位による違いを検証〜
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脳卒中で損傷しなかった一次運動野は運動機能に影響を及ぼすのか?〜損傷部位による違いを検証〜
脳卒中には,脳の表面である大脳皮質が損傷する場合と,脳の深部である大脳皮質下が損傷する場合があります.大脳半球は左右にひとつずつありますが,脳卒中ではどちらか片方の半球が損傷するのが一般的です.
亜急性期もしくは維持期脳卒中者において,損傷していない半球の一次運動野(nonleasioned motor cortex: M1nl)は興奮性が高まっていると考えられており,また治療のターゲットであると言われています.
しかしながら,M1nlの興奮性は大脳皮質が損傷した場合と大脳皮質下が損傷した場合とで異なる影響を持つのか否かがまだ明らかになっていません.著者らはそれを調べるために,34人の脳卒中者を調査しました.
運動機能とM1nlの興奮性の関係を調査
著者らは,対象となる脳卒中者34人を大脳皮質損傷群と大脳皮質下損傷群とに分けました.そして,対象者の麻痺側の運動機能(Fugl-Meyer score、Wolf Motor Score、握力)とM1nlの安静時閾値(興奮するために最低限必要な値)の関係を調査しました.
著者らはfMRIを用い,MIやAOを行っている最中の対象者の脳活動を測定し,どの条件のときにバランスに関わる脳領域が活性化されるか調べました.
大脳皮質下損傷者に対してはM1nlを抑制する意味があるが,大脳皮質損傷者には意味がない?
結果として,大脳皮質下損傷群にはFugl-Meyer score、Wolf Motor Score,握力とM1nlの安静時閾値に相関関係があり,麻痺側の運動機能が高い人ほどM1nlが興奮しにくいということがわかりました.一方,大脳皮質損傷群には麻痺側の運動機能とM1nlの興奮性には相関関係が無いということがわかりました.
つまり,大脳皮質下損傷の脳卒中ではM1nlが興奮しやすいと運動機能が低い,M1nlが興奮しにくいと運動機能が高い,という関係があることになります.M1nlの興奮性が,麻痺側の運動機能に影響を与えているのかもしれません.
反対に,大脳皮質損傷の脳卒中ではM1nlが興奮しやすくても興奮しにくくても,麻痺側の運動機能には関係がないということになります.大脳皮質下損傷の脳卒中と比べると,M1nlの興奮性が麻痺側の運動機能与える影響が少ないのかもしれません.
著者らは,「M1nlの皮質興奮性を減少させることを目的としたプロトコルは,大脳皮質損傷の脳卒中ではなく,大脳皮質下の脳卒中に対して検討することに価値があるだろう」と結論づけています.脳卒中の方へのリハビリテーションを考える上で,この結果は役立つかもしれません.
参照文献
Thickbroom, Gary W., et al. “Stroke subtype and motor impairment influence contralesional excitability.” Neurology 85.6 (2015): 517-520.
(文責:針谷遼)
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